11話 結論、俺は俺が嫌いだ。
美優の罰ゲームで一緒にお昼ご飯を食べる事になったので教室から屋上に移動し、向かい合って地べたに座っていた。
俺は教室で良くないか?って聞いたんだけど、本人いわく皆んなの前で本当の私を見せるわけにはいけない。とのこと。厨二病かよ。なんだよ?本当の私って。
「あ、アンタは今日お昼持ってきたの……?」
「まぁ、一応」
「へー弁当?」
「いや、購買の焼きそばパン。毎朝買ってるんだよ」
「そうなんだでもさ、そんなパンよりさ」
「そんなパン……だと……」
「あー、はいはい、めんどくさいから。そういうのいいから」
そう言われてしまうとキレるにキレづらい。説教でもかましてやろうかと思ったが。
にしても、今時の学校にしては屋上開放だなんて珍しいのに俺たち以外に人の気配はない。
やっぱ今の子は地べたに座るのが嫌なのかしら。
なんて事を考えつつ、ポケットから焼きそばパンを取り出し、食べることにした。
「ポケットから!?」
「ああ、焼きそばパンは携帯性もいいからな」
「それに関してはパン全般に言えるけど!?」
「パン全般って何気に韻踏みやがって」
「いや、どうでもいいわよ!?そんなこと!」
「どうでもいい……だと……?」
「あー。はいはい、二回目です。それ」
「知ってるよ……ってオイ!」
油断していた所、手に持っていた焼きそばパンを勝手に食べられる。いや、予想外すぎる。こんなの反応できんって。
「これで、アンタのお昼は無くなった、と」
「そんなドヤ顔で言われても。どうでもいいから焼きそばパン返せよ」
「それは無理なお願いね」
「いや、まだ消化してないだろ?」
「ちょっと待って!普通買って来いでしょ!?何、吐き出せってか!?」
「うるえせぇ!とにかく俺のお昼が消えたんだよ!」
「ないなら、仕方ないわよね……」
はぁ?仕方ないってお前が食ったんじゃろがいと、ツッコミを入れるよりも先に、美優からお弁当が差し出される。
「これ……食べなさいよ……」
「マジで?」
「べ、別にアンタの為じゃないんだから!勘違いしないでよね!?」
「ベタすぎるな……そのセリフ」
「偶然拾ったんだから!」
「その拾ったのを渡すのはどうなんだ!?」
「ッ……もう、焦ったい……さっさと開けなさいよ!」
本人から急かされたので、風呂敷を開け、弁当箱の蓋を開けてみた。
まず全体の印象としては、色とりどりのバランス良いお弁当。そして、鳥の唐揚げやハンバーグなど、定番のおかずに加えて、緑が鮮やかなサラダ、焦げ目が食欲をそそる卵焼き。
「すごっ……」
思わず声が出てしまった。流石にここまでハイクオリティだと思わなかった。
「別に、頑張ってないわよ?私の作るついでというか、作り過ぎただけだから……」
「拾ったんじゃなかったの?」
「見ればわかるでしょ!?自白したんだからわざわざツッコまないで!」
「つい……」
「なんでもいいから、早く食べなさいよ!」
そう言いながら美優も弁当箱を開け、お箸を持ち始めた。もちろん、中身は俺のものと同じだった。
2人で同じ弁当を向かいながら食べるって、
「まるで本物の彼女みたいだなぁ」
関心する程の出来合いに思わず口が滑ってしまった。
「え?」
彼女が、真っ直ぐと見つめてくる。その視線はいつもの優しいものじゃなく、明らかに動揺、困惑、負の感情が詰まったものだった。
しまった。そう思った時にはもう遅かった。
言ってしまったのだ。秘密にしようと誓った事を。これじゃ、まるで今が偽物だって、そう言っているようにしか聞こえない。
「それ、ってどういう……」
「ああ!うまい!この卵焼き超うめぇ!」
俺は咄嗟に誤魔化した。
苦しいのは聞いてしまった彼女の筈なのに。それなのに俺は逃げて誤魔化した。
「あ、うん……そうよね!私が作ったんだもん!」
何も聞いていなかった様に彼女は笑う。
まだ間に合うんじゃないかと、俺の中の誰かが言っていた。冗談だよって、笑ってみれば、嘘だよって、からかってみれば彼女の気は晴れるかもしれない。
でも、俺は笑っていた。
「流石俺の彼女、だな」
「それ自分で言う?」
また一つ、自分が嫌いになった。
―――――――――――――――――――――
「うっぷ……食べたな……」
「弁当箱、貸して?」
「いや、流石にそこまでは……」
「いや、いいのよ、だってアンタの彼女だもん」
そう、彼女は照れながら言った。
もしかしたら、さっきの事もあってわざわざ口にしているのかもしれない。
まぁ、それを知る余地はないのだが。
少なくとも、「彼女」そう言っている時の美優の顔は幸せそうだった。
「じゃあ、明日も屋上で一緒に食べよ?お昼」
「え?ああ、いいけど」
「やった」
そんなやりとりでも一喜一憂する彼女はやっぱりかわいかった。
「明日も作ってくるから!お腹空かせておきなさいよ」
「おう」
「じゃ、先教室戻ってるね」
「おっけ。ありがとな。美優」
「〜〜っ!?ばか!」
一瞬動きが止まったと思ったら急に走って罵倒の一言。
扉が勢いよく閉まる。相変わらずここの扉は大きな音がなる。そんな音に敏感なのは俺が嘘をついたばっかりだからだろうか。
でも、明日も君と一緒に、2人きりでいられるのは嬉しいと思ってしまった。
そんな時間も俺の嘘の上にのっかているものでしかないのに。
結論を言おう。
俺は、伊川優生という男が嫌いだ。
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