2章 予行練習彼女と大切な幼なじみ。

10話 悲しくなるような罰ゲーム

 初デートを終えて、月曜日。


 土曜日に色んなことがあってまともな精神状態で休むことができず、疲れも残っているがいつものように登校し、退屈な授業を受けている。


 「えー。ここに式を代入してだな……」


 黒板にコツコツとチョークを擦りながら説明する先生。


 あー、はいはい。わかってますから。早く終わらないかなー。簡単すぎてつまらねぇよ。こうさ、新鮮さに欠けるというか。興味のないドラマを見せられてる気分だった。


 ただ、前を見ているのも飽きてきたのでいつも通り隣に視線をやる。


 どれどれ、今日も頭を抱えてるのかな……


 「!?ッ」


 俺の予想を遥かに超える光景がそこにあった。


 何も書かれていないノートをわざわざ俺に見えるように広げて、何故かドヤ顔でこちらを見ていた。


 ほら、早く教えなさいよ。


 そんな声までも感じ取れる表情で。


 そして、言われたこと何でも書きます、と言わんばかりにカチカチとシャーペンをノックしている。


 いや、何だコイツは?


 そう思った俺は別に間違ってない筈だ。


 ちょっと前までは、ツンツンしていたくせに、今度は教えてと言わんばかりのあの表情。何があった?


 いや、デートがあったんですけど。


 この変わりようはちょっと引く。うん。引く。


 とりあえず、反対方向の窓を見た。


 晴れた空の向こうにある黒い雲。今日は降るな……。


 そんな風に天気を予想していたら……。


 頭に何かが当たった。いや、当てられた。そうに違いない。無視するなというメッセージだろうか。


 うーん。このまま無視するのもありだが、この前みたく急にネクタイ掴まれるのも困る。あれは照れ隠しみたいなもんだと思うけど……。


 ま、いいか。暇だしな。誘いに応じることにした。


 「何だよ?」


 先生にバレないように小声で返事する。しかし、返答はなく、ただノートをペンでトントン、と軽く叩いてるだけだった。


 お前は超能力かなんかか?言葉を発しないと通じないぞ。くそ、素直に受け取った俺が馬鹿みたいじゃないか。


 いつの間にか叩くリズムがエイトビートになってるし。


 「……こ、えな……いよ」

 「はん?」


 今度は急に喋った。俯いているせいで表情も分からない。そりゃあ、返事がおかしくなっても仕方ないだろう。


 「だから、ここ、教えてくれてもいいわよ……?」

 「……」

 「教える権利……アンタにあげる……」


 いや、上目遣いでそんなこと言われましても。


 確かに可愛いけども。普通にイラッときたね。


 だが、まあ、いいよ。今回は。


 勉強教えるってカップルぽいし。俺の練習になるからな。復習にもなる。お得すぎんか?


 「あの問題でいいか?」


 そう聞くと無言で頷いた。


 「えーっと、この問題はだな……」


 ペンを持ち美優のノートに数式を書いてると、急にペンを持たれた。


 「勝負しない?」

 「はぁ?」


 このタイミングでか?本当に読めねぇ。

 だがしかし、授業よりはマシなのでその誘いに了承することにした。


 「まぁ、いいよ。で、何するんだ?」


 呆れたように聞くと、ゆっくりと近づいてきて俺の耳元で奥がとろけるような甘い声を彼女は囁いた。


 「先に出した方が負け」


 このシチュエーションでその言葉はアウトだろ!?


 「いや、何を!?」

 「何だろう?」

 「決まってねぇのかよ!」

 「特別サービス」

 「何に!?」

 「男子ってこういうの好きかなって……」


 ……あーもう……そーいうのを照れながら言うのは止めてくれ。こっちまで恥ずかしくなる。


 「で、勝負って?」

 「うーん、そうねー」

 「本当に何も決めてないのな!」


 顎に手を当てて考え始める彼女。思いのままに突っ走るのマジで行動力の化身だろ。俺にはできん。


 「あ、こういうのはどうか――」


 美優が言いかけた所でチャイムが鳴った。

 先生の合図でみんなが立ち上がり、礼をする。

 そして、昼休みにはいる。


 「……勝敗は?」

 「アンタの負け」

 「理不尽!?」

 「あとこれ罰ゲームあるから」

 「先言えよ!そう言うのは!」


 言われた所でこれだと回避のしようがないが。

 

 「そもそも、なんのどういう勝負だよ」

 「動揺した方が負け」

 「不意打ちにも程がある!?」

 「とにかく、負けたアンタは罰ゲーム!」


 勢いよく俺を指差して言ってくる。


 何言っても聞かなそうだ。しょうがない。今回は負けてやるか。特別に。


 「へーへー。で、何すれば良いんだ?」

 「わ、私と……」

 「私と?」

 「一緒に……」

 「一緒に?」

 「昼食を食べなさい!」

 「昼食を食べなさい!?」

 「何でそんなに驚くのよ!」

 「意外だったからつい」


 いや、だって、暁月さん。


 自分で考えた罰ゲームが一緒にお昼って言ってて寂しくなりませんか?


 でも、今回は満足そうだから、言わないで黙っておくことにします。

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