17話 俺とお前の再スタート
俺はスマートフォンをポケットから取り出して、メッセージアプリを起動。
迷わずアイツのトークルームに入って、メッセージを入力した。
『今すぐ屋上に来てくれ』
すると、直ぐに既読のマークが横についた。
その速さに思わず口角が上がる。
おい、おい、今授業中だぞ?
真面目なお前にしては珍しいんじゃないか?
アイツからの返信はない為、来てくれるかは分からない。
でも、不安にはならなかった。
だって、俺の幼馴染は真面目なのだ。
そして真っ直ぐだ。
だから、絶対に来ると確信していた。
ガチャリとドアノブをひねる音がした。
そこに視線をやると、圭が不機嫌そうに入り口から俺を見つめていた。
「何の用だよ」
圭は冷たく俺にそう言い放った。
俺を見る目は鋭く、顔に貼ってある絆創膏や、ガーゼがより一層雰囲気を引き締らせた。
「話がしたい。聞いてくれないか?」
「やだね。言っただろう?今の優生は大嫌いだと」
肩をすくめて、呆れたように圭は俺に返した。まるで、聞いてなかったのか?と言わんばかりに。
忘れた訳がない。
忘れる筈がない。
今でも鮮明に覚えているさ。
「ああ。確かに言われたよ。けど、それでも圭と話がしたい」
「今の優生と話すことなんか何も無い」
「じゃあ、話さなくてもいい。ただ、聞いてくれ」
真っ直ぐに俺は圭を見た。
もう目は逸らさない。
いくら否定されようと、殴られようと俺は逃げない。
「まず圭の気持ちを踏み躙ったことを謝りたい」
決意をして、拳を硬く握り圭の答えを聞く前に、話を切り出した。
先手必勝。
しかし、俺の言葉に圭は微動だにしない。
「ごめん。それと、俺は圭に憧れてた。いつも真っ直ぐなお前に。誰もが笑顔になれる方法を考えられるその明るさに」
「…………」
「だからさ、もう一度俺を見てくれないか?今すぐに許してくれ、なんて都合のいい事は言わない。一緒に過ごして、それで判断してほしい」
「っ……」
圭は下を俯いて、小刻みに震えていた。まるで何かに堪えるように。
「俺は天才でも何でもないんだ。俺は誰かに支えられてないと真っ直ぐに生きられないダメなやつなんだ」
一歩、圭に歩み寄る。
「だからまた隣にいて欲しい。主人公になり損ねたこの俺を、もう一度支えてほしい」
圭は俯いたまま、顔を上げようとしない。
俺は、俺の気持ちを正直に言った。
俺は凡人だから。弱いから。不器用だから。
そんな俺を支えて欲しい、と。
「……暁月さん……を、どう、思ってるんだ……?」
ゆっくりと顔を上げながら、震える声で。
いつかの質問を繰り返した。
『優生は美優のこと、好きなの?』
あの時の俺は、好き、だと嘘をついた。
圭の優しさに甘えて。自分の都合を優先した。
けど、今は違う。
「好きだよ。大好きだよ。美優のことが」
君を思うとこの胸が灰になりそうなほど熱いんだ。
君の全てが愛おしい。
それでも、圭がこれを本心だと確認する術は無いと思う。
でも、この思いは伝わると願っている。
それぐらいに、大きな気持ちだから。
俺は信じてる。
「……っ……そっか……そっかぁ…………」
圭は大粒の涙をこぼし、一人で納得したように、何かを諦めたみたいに嗚咽しながら何度も何度も繰り返した。
「僕にとってもね……優生は主人公だったんだよ?成績優秀、スポーツ万能。本当に物語の主人公みたいで。けど、正直、今はそうは思わない」
圭は涙を袖で拭いながら本心を語る。
「あのやり方は最低だと思うし、今も許せない」
「うん」
「でも、」
「それでも、僕は優生を信じたい。10年間信じた君をまだ信じていたい。主人公とか、憧れとかじゃなくて、一人の友達として、僕は君を信じたい」
いつの間にか涙は消えていて。
そこあったのは圭の強い覚悟と、厚い信頼だった。
そして、目の前に差し出された圭の右手。
視線を顔にスライドさせると和かにただ笑っていた。
その笑顔に、俺は握手で応じた。
「またよろしくね。圭」
「うん。よろしく。優生」
こうして、俺たちはまた、歩み始めた。
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