8話 初デートは遊園地

 春の陽気に、晴れ渡る青空。


 そんな天気も相まって駅には多くの人が居た。


 俺の中で何度もイメージトレーニングをし、美優を思い浮かべては、あの場面を思い出し赤面するという行動を繰り返し、ようやく土曜日になった。


 今日は駅の銅像前で待ち合わせということになっているので、先に着いた俺はボーッと空を見上げて彼女の到着を待っていた。


 暫くして、

 

「待った?」

 

 そう息を切らしながら彼女は俺に聞いてくる。


 「うん。十分ぐらい?いや、もっとか……」

 「いや、そこは全然、今きたとこ。でしょうが!彼氏なんだからそれぐらい言いなさいよ!」


 そして最後に、信じられない!と一言。

 

 頬を膨らませてそっぽ向いた。


 はぁー。と、言われましてもね……。


 待った?って下り嫌いなんだよなぁ。


 何か、ベタというか。別に聞かなくて良くねって思う。


 それ聞かれたら、今きたとこっていうしかないじゃん。そう考えると、遅れたことを無理やり許して貰うゲスい手段だよなぁ……。


 「まぁ、いいわ。それより……どう……かな……?」


 軽く咳払いをして、上目遣いで聞いてくる。


 どうって何よ?いや、勿論分かっている。


 服装のことだろう?


 彼女の雰囲気をそのまま映し出したかのように、白く清楚なカットソーに、フリル付きのロングスカート。


 普段なら絶対に見ることのできない美優の私服。


 そんな珍しい光景を目の当たりにして俺が抱く感想はただ一つ。


 めっちゃかわええ……。


 こいつの性格がどんなにツンツンしてようがやっぱりカワイイものはカワイイのだ。当たり前だが。


 だからまぁ、俺も少しは素直になるとしよう。


 これも予行練習の一環だからな。


 「良いんじゃね?」


 そっぽ向きながら一言褒める。はい。頑張りました。


 いや、カワイイよ?とか絶対言えねぇって。


 素直に褒めれただけでも大きな進歩である。


 何も反応がない美優に視線を向ける。


 リアクション、プリーズ?折角褒めたのに無反応はキツいぜ……。


 「……ふん」


 何でぇ?褒めたじゃーん……。


 くそ……何かデート開始直後から不穏な空気に……。


 そんな流れを断ち切るために俺は行動に出た。


 「さ、行こうぜ。バス出てるらしいから」

 「……ふん」


 機嫌直してよ……。


 そんな事を願いながら俺は先に歩き出した。


 ――――


 「久しぶりだな―。ここ」

 「そうね。私も久しぶりに来たわ」

 「……」

 「……」


 はい。会話終了。本当にカップルか!?


 付き合ってる(仮)な俺でも疑うレベルだ。


 だがしかし、このままではいけない。


 圭が折角俺のために行動してくれたのだ。それを無下にするのは幼なじみとして、いや、人としてダメだ。


 「何か乗りたいのってある?」

 「えー……」

 「いや、何?え―って……」

 「いきなり彼女に丸投げはないでしょう……」

 「けど、俺一人で来てるわけでもないんだし……」

 

 そう言った後に少し、美優の顔に力が入ったのが分かった。


 「私は、男友達でも、幼なじみでも無いんだけど?」

 「……そうだな」

 「何今の間!?とにかく、私は、アンタの」

 「……」

 「か、か、彼女、何だから!」

 

 うわ、マジで言ったよ……。恥ずすぎる!


 顔が熱くなるのが自分でも分かった。

 

 手が少し汗ばむ。


 「ま、いいわ。今日は初めてのデートだしね。それぐらいは許してあげる。さ、行きましょ?」

 「お、おう」


 さっきのデレムードから一変。余りの切り替えの速さに少し驚いてしまう。

 

 最近は本当に彼女のことが読めない。


 前を歩く予行練習彼女を見ながらそう、思った。


ーーーーー


 ガタンッ、ガタンッと規則的な音がレールの上で鳴っている。


 今日来たのは、県内の遊園地で子供から大人まで楽しめる県民なら誰もが一度は行ったことがある所。


 濁さず言うと、ボロい。いや、年季が入っている。そう表現した方が正しい。


 何年かに一回は工事されていて塗装なんかもしっかりとされているからだ。


 「なぁ、美優」

 「ん?」


 ゆっくりと、上昇するジェットコースターに乗りつつお隣さんに話しかけた。


 「こういうの好き?」

 「うん。好きだよ。乗ってて気持ちいいし」

 「……」

 「あ、まーさーかー……」


 くそ、コイツに話かけたのは失敗だった。


 なぜなら、俺が苦手って分かった瞬間の顔が付き合ってから見た顔の中で一番輝いていたからだ。


 「実はね、ずっと黙ってたんだけど」

 「イヤだ!聞きたくない!」

 「このジェットコースターって、何度も脱線事故が起きてるんだって……」


 そんな話と同時に、キィッと高い金属音が響き渡った。


 いや、シャレにならんから。


 「で、その日付けがいつも決まってて……」

 「……」

 「それが、今日だよ!!」


 そして、急降下する俺たち。


 耐え難い重力感と、颯爽と吹き抜ける風。


 気づいたらアトラクションは終わっていた。


 どうやら人間、本気で怖がると少し記憶は飛ぶらしい。


 「元気ないけど、大丈夫?」


 ダウンした俺を見て満足そうに手を差し出す彼女。


 「ああ、大丈夫そうだ……」

 「そう!それは良かった!」


 無気力で返事をし、ヨボヨボと立ち上がる。


 そして、


 「もう大丈夫だから、今度はお化け屋敷に行こうか!」

 「ちょ、それは、」


 力強く手を握り俺は駆け出した。


 美優、俺は知ってるんだよ。お前実は怖いの苦手なことを!


 だって、さっき話す時だけちょっと震えてたからな!


 俺を舐めると、火傷するぜ?(キリッ)


 そうして、俺たちはお化け屋敷に入ってった。


ーーー

 「うわぁぁん!バカ!バカ!バカ!」

 「痛!ちょ、痛い」

 「先に私を置いてゴールするとか、アンタ本当に人間なの!?」

 「それならお前が分かってる筈だが」

 「悪魔よ!」

 「じゃあ、もう一回入るか」

 「アンタ、本当の悪魔よ!」


 失礼な……。


 泣きながら俺を叩く美優。


 流石に置いてきぼりはやりすぎた、かな?


 けど、あそこまでビビってると逆にからかいがいがあるんだよな。


 ていうか、凄い剣幕で追ってこられたからな。


 どれがお化けかわかんなかったし。


 それ程苦手なのか。


 「グスっ、ホント、ありえない」

 「まぁ、なんだ……ごめん」

 「そういうのいいから」

 

 って、言われても困るだけなんだが。


 「じゃあ、どうすればいい?」


 そんな言葉を待ってましたと言わんばかりの勢いで俺の手を掴んでくる。


 そして、俺がさっきしたみたいに強引に引っ張って小悪魔めいた顔で言うのだった。


 「もう、大丈夫だから、今度は絶叫系行こうか!」

 「イぃヤァぁぁ!」


 こうして俺らは目一杯アトラクションを楽しんだ。


 たまにケンカをして、たまに挑発しあって、たまに協力したり。


 お互いの昼食を取り合ったり、子どもみたいな事を沢山しながら。


 そして、時間はあっという間に過ぎて、最後のアトラクションに乗った。


 俺たちが最後に選んだのは――――。

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