最終話 俺たちの希望と大きな一歩。


「と、いう訳で。無事これからも付き合って行くことになりました」


 美優に告白して翌日。


 俺は美優の手を引き屋上へとやってきた。目的は勿論結果報告とそのお礼だ。


「色々とありがとう。そしてこれからもよろしく」


 深々と頭を下げ俺は伝えた。


 隣に居る美優も慌ててお辞儀する。


 そんな俺たちに圭と深春はパチパチと拍手。


 顔を上げると屈託のない笑顔が目の前に咲いていた。

 

「おめでとうございます!先輩!ちゃんと伝えられたんですね!」

「ああ。深春のおかげでな」

「いやいや、先輩が頑張っんですよ!」


 確かに言ったのは俺だけど深春が居なかったらきっと諦めていただろう。だから間違いなくこれは彼女の功績だ。


「いやいや、深春のおかげさ」

「先輩ですって!」

「深春!」

「先輩!」

「いいや、深春の、っていたたた!?」


 急に横からほっぺたを勢いよくつねられる。


 何者!?っと急いで痛みの方に向くと、そこには俺の彼女がほっぺたを膨らませていた。


「随分楽しそうじゃん?なんで深春ちゃんと付き合わなかったの?」

「いや、深春はそういうのじゃなくてだね」

「じゃあなんだっていうのよ。私と話してる時より楽しそうだったけど?」


 ああ、めんどくせぇ。だがしかし、俺は知っている。


 俺の彼女はこっからが可愛いんだ。

 

「昨日も言っただろ?俺は美優が好きだからって。まだ信じてないのか?」


 俺はゆっくりと右手を近づけて彼女の頬に触れた。


 ビクンと、彼女が震えたのが分かった。


 きっと予想外だったのだろう。こんな挑発するくせに攻められると弱いのは本当にずるいと思う。


「わ、分かってれやいいのひょ!もう!バカァ!」


 美優は顔を真っ赤に染めて知らない!っとでもいうかのようにそっぽ向いた。


 ああ、かわいい。何さっきの。テンパりすぎて呂律回ってなかったやん。なのに「バカァ!」だけしっかりと言えてるの本当にやばいんだが?


 1人で満足に浸っていると肩をぽんぽんと叩かれたのでゆっくりと振り返る。


「先輩、ギターでぶん殴って良いですか?」

「何故!?言い訳ないだろう!?てか、そのギターがお前の1番の特徴じゃねぇか!それを簡単に捨てようとするな!」

「いや、キャラが薄れても先輩の幸せをぶち壊せるのなら本望ですよ。はい」

「もうすでにキャラ変わってないか!?お前!」


 本当に深春か?こんなこと言うようなキャラじゃなかったよな!?


 すると今度は背後から聞き慣れた声がする。


「いやー、モテる男は辛いねぇ」

「それだと圭がモテモテって聞こえるが?」

「おっと、そんなつもりは無かったんだがな」


 圭は肩をすくめながらやれやれ、とでも言いたそうにため息を吐いた。


「やっぱり女子がいると僕の影が薄くなるね」

「かわいい女の子の方が映えるしな」

「ほう、言うようになったじゃあないか?」

「まぁな。本当、お陰様で」

「昨日までキスの味も知らなかったくせに」

「は、はぁ!?き、昨日したかどうかなんてわかんないだろ!?」


 圭、お前本当にエスパーか!?


「キスはレモンの味ってよく言うよね。どうだったの?実際」

「いや、特に味はなかったが……」

「…………」

「…………」

「ビンゴだね……」

「騙したな!?」

「いや、こんなに簡単に引っかかるのもどうかと思うよ!?」


 その通りである。俺がただ間抜けなだけだった。


「あー、何かムカかついてきた……。よし、深春ちゃん。ギター貸して?」

「りょーかい」

「お前もやるんかい!」


 ていうか、いつの間に名前で呼ぶようになったんだ!? 


 しかも息ぴったりだし!


「み、美優!助けてくれ!このままだと俺はギターに殺られる!」

「えへへ……好きって……また言ってくれた…………」

「ダメだぁ!こりゃ!」


 確かにかわいいんだけど。責めて彼氏が命の危険に晒されてる時には何かアクションしてくれよ!


 まぁ、かわいいから許しちゃう!特別だゾ?


「っと、いう冗談は置いておき」

「いや、長げぇし怖えーよ」


 俺が軽くツッコミを入れると深春は寂しそうに微笑んだ。


「改めて。おめでとうございます。お幸せに!先輩方?」

「本当、良かったよ。二人ともこれからもよろしくな?」


 圭と深春が俺たちの前に立つ。


 その握手に迷わず俺たちは応じた。


 ぎゅっと握った手が俺たちの絆の深さを示してるみたいで胸が熱くなった。


「さて、一段落したところですし、お昼でも食べません?」

「お、良いね。深春。ナイスアイデア」

「今日は美優が腕によりをかけて作ってくれたんだ」

「うん、ちょー頑張った!2人には本っ当に感謝してるからね」


 美優が手に持っていた重箱を置いた瞬間、


 キーンコーン、カーンコーン――――。


 昼休み終了のお知らせが鳴り響いた。


 ギシッと錆びついたロボットのような音が聞こえた気がしたためその真相を探るべく隣を見る。


「…………えっと、美優………?」


 さっきから微動だにしない彼女をゆっくりと覗き込んでみる。


「みゆさーん?」

「…………」


 反応はない。


「おーい……」


 美優の顔の前で手をぷらぷらしていると急にその手をガシっと掴まれた。


「わだじ、がんばっだのに……」


 美優の瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちてゆく。


 何だろう、本当に申し訳ないっ!


 事前に弁当を食べることを分かっていたんだから時間配分を考えるべきだった!


 心が締め付けられるぜ……。


「だぁぁあ、わかった!そりゃあこの重箱を見れば分かる!だからそんな泣かないでくれ!」

「だっでぇ、だってぇぇ―」


 俺が励ましてみても全く効果がないように見える。


 ど、どうすれば良いんだ!?


 全くわからねぇ!


 いや、こういう時は同じ女子に助けを求めるべきか!?


 まずは深春とアイコンタクトを……。


「って、オイ!?それはねぇだろ!?」


 何2人仲良く屋上から出ようとしちゃってんの?


 深春に助けて、と目だけで力一杯合図してみる。


 しかし、返ってきたのはシーっというジェスチャー。


「お前マジふざけんなや!」

「ごべんなざいぃ!!!」

「いや、美優に言ったんじゃなくて!」


 嵌められた!?


 よくもやってくれたなと深春を睨んでみるも返ってきたのは、だから言ったでしょ?とでも言いたげな視線。


 圭に関してはただ笑顔で親指を立てていた。


 いや、意味わからん。


 ケンカ売ってんのか!?


「よし、分かった、美優!放課後デートしよう!」

「デート?」

「ああ、デートだ。2人きりで。行きたいところに行って同じものを食べて同じ時を過ごそう」


 美優は俺の説明に納得したのかハンカチで涙を拭うと強気に親指を立ててニカっと白い歯を見せて笑った。


 その無邪気な笑顔に思わず息が詰まった。


 俺の彼女可愛すぎだろ……。


 俺は咄嗟に惚気てる場合では無いことを思い出し俺は大声を上げた。


「って、授業!」

「ヤバ!」


 あたふたと慌ててる彼女の腕を引っ張り俺たちは屋上を出てゆく。


 これは授業には集中できそうにないな。


 いや、こんな女の子が隣に座ってたら誰でも無理か。


 なんて、真面目に考えた自分に思わず苦笑した。




「じゃ、行こっか……」

「う、うん……」


 学校終了後俺たちは2人で教室を出た。


 革靴が鳴らす音は少しだけぎこちなく感じる。


 き、緊張する……。


「で、今日はどこに行くの?」


 彼女のそんな問いに。


「ここは秘密ってことで」


 俺はニヤリと自信満々に笑ってみた。



「え……ここって……」

「ああ、そうだよ。前も一緒に来たな。ここに」


 最初にデートに行った思い出の遊園地。


 学校から結構時間がかかったため閉園まであと1時間ぐらいしかない。


 それでも俺は美優と2人でここに行きたかったんだ。


「そうだな、時間もあまりないし……。とりあえずはジェットコースターなんてどうだ?」

「ふふ、絶叫系、苦手じゃなかったの?」

「美優と隣に座れるなら全く怖くないよ」

「なにそれ。いつも隣に座ってるじゃない」

「いつもの美優は頭抱えてるからノーカンだろ?」

「ッ!?バカっ!!!」


 軽くからかってやると顔を真っ赤にして俺の足にローキックを放ってきた。


 思ったより痛くなかったことからやっぱりまだ恥ずかしさが残っているのだろう。


「でも、今回はしっかりエスコートしてくれるんだね」

「まぁな。当然だろ?彼氏なんだから」


 俺が当たり前の様にいうと美優は小走りで俺の前に出た。


 そして、ゆっくりと振り返る。


「その答え、満点、だよ」


 遊園地に制服という組み合わせが幻想的なのか待ってましたというように微笑む彼女に、俺はどうしようもないぐらいに見惚れていた。


 きっと彼女は待っていたんだ。


 この場所で、俺との関係を始めてはぐらかされたあの日から。


 告白でもなく、誰にでもあり得るような日常の1場面で、はっきりと好きだと口にされることを。


 だって、好きになるってこんなにも幸せだから。


 君と一緒ならありふれたものの全てが特別になる。


 きっと天才の俺じゃ気づけなかった。


 今の凡人の俺だからこそ気づけたちっぽけだけどすっごく大切なもの。


「ねぇ、手、繋ご?」

「ああ。もちろん」


 それはきっとこの手の中にある。


 かけがえのないこれからが心に刻み込んでくれる。


 そんな輝かしい未来を胸に抱いて。


 俺たちは一歩、大きめに踏み出した。

 


 

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大学でハーレム生活送りたいから、隣の席の美少女を予行練習彼女にしてみた。 ニッコニコ @Yumewokanaeru

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