第8話 無自覚。








私が【ツバサ・ブラウン】としてこの世界に生まれ変わって初めて喋った言葉はじいじだった。その日もおじいさんは私を抱っこしてくれて、そして庭を散歩していた。言葉は少なかったが抱きしめてくれる手は優しくて、前世の家族からも感じたことの無い愛情を感じて私はおじいさんが大好きになった。おじいさんは庭の大きな木の下に行くといつもその木を見上げていた。腕の中からその顔を見上げていた私は何故だがおじいさんが泣きそうに見えてそして泣かせたく無いと思った。そしたら口から言葉が出てきた。


「じぃじ」


その言葉に弾かれたようにこちらをみたおじいさんに、何故だが嬉しくなって何度も何度もじぃじと口にした。その後はおじいさんにきつく抱きしめられて顔は見えなかったが震えているのが伝わってきた。暫くすると、おじいさんは顔をこちらに向けた。泣いているかと思ったが、とても優しく笑っていた。また嬉しくなった、じぃじと呼びかけると笑ってくれるようになってからは何度も何度も呼びかけた。そのうち私は少し大きくなり歩けるようになった。そして、『私』は『僕』になった。この頃から少しずつツバサと言う自分に馴染んできたように思う。この時僕は多分4歳くらいだった。じぃじと呼ぶようになってからは、常に側におじいさんが付いていてくれた。メイドの和子さんが呆れるくらいに玩具や色々な物をプレゼントしてくれた。誕生日だって毎年すごく豪勢に祝ってくれて前の人生では一度も貰えなかった愛情をいっぱいいっぱい貰った。


「じぃじこっちー」


おじいさんの手を引いて大きな木の下に来た。ここは僕の大好きな場所になった。二人で並んで木を見上げているとおじいさんはポツリとポツリと語りだした。


「ツバサ。この木はお前のお祖母様と一緒に植えたんだ。とても大切な木だった。でもね私は彼女を失ってからこの木が大嫌いになった」


そうおじいさんは話出す。


「あの日はこの木を伐採しようか悩んでいたんだ。お前は覚えていないだろうけど、ツバサがここで初めてじぃじと呼んでくれたあの日にね」


眩しいものを見るようにおじいさんは目を細める。


「あの日から、またこの木が大切になったよ、あの時切らなくて良かったなぁ」


声が微かに震えている気がした。


「ありがとうツバサ。」


そう言って僕を抱き上げてあの日みたいにまたきつく抱きしめられた。


「ごめんなツバサ」


小さくつぶやかれた言葉は良く聞こえなかった。その後、僕が6歳になった時に友達との木登りで頭から落ちて怪我をしたときは、今まで見たことないくらいおじいさんは慌てていた。怪我をしたのは僕なのにおじいさんの方が死んでしまいそうな顔をしていて、危ないことはもうしないでおこうと強く思った。その時の友達ともそれっきりになった。その後も過保護なくらい大事にされて。屋敷の人達からも愛してもらって。僕は幸せだった。


ただ過保護過ぎてなかなか友達が出来なかったのは如何なものか。


学校にも行くこと無く勉強は家庭教師の先生に教わった。そして15歳の冬、国から手紙が届いた。


「お祖父様、お呼びですか?」


「ツー君二人のときはじぃじと呼んどくれ」


デレデレと目尻を下げてお祖父様は僕を手招きする。


「おほん、大旦那様?」


後ろに居た和子さんが咳払いをすると、お祖父様は慌てて真面目な顔を作る。


「うむ、こほん、………ツバサよ、お前を呼んだのは国からこれが届いたからだ」


「手紙ですか?僕宛?」


そこには魔法適正有り、春より軍学校へと入学するようにと書いてあった。


「お祖父様これは?」


「すまんな、ツバサよ、魔法適正があった者は必ず軍学校へと3年間は通わねばならんのだ」


「はい、それは知っております。ですが、僕は戦いなんて全く出来ません。大丈夫でしょうか?」


「うむ、なに、3年間のんびりと過ごして来れば良い。全ての者がそのまま軍人になるわけでは無い。適正有りが集められてはいるが、その後は普通の職につく事の方が多い。それに3年経ったらお前は帰って来れば良いのだ。」


何も心配はいらんぞと背中を叩かれる。


「お前は優しい子だからな、野蛮な事は何にもせんで良い。学校でも頑張らんで良い。適当に遊んで過ごしていればそれでいいのだ」


「大旦那様、それは甘やかし過ぎですわよ?」


和子さんが鋭い目線を向けるがお祖父様はどこ吹く風だ。


「学校かぁ………えへへ。」


友達が出来るかもと少しドキドキした。それから数カ月経ち、春になって僕は軍学校へ行くことになった。


「ぅう………、ツー君、辛くなったら何時でも帰って来て良いんだぞ?じぃじは寂しいぞ~!!」


泣きながら見送るお祖父様に苦笑しつつ、僕は軍学校へと向かうのだった。



僕がお祖父様の事を話終えると、園田さんがジト目でこちらを見ていた。


「なるほど、無自覚におじいさんを落としているとは、侮れんなイチロー……」


「え?何いきなり、なんでそんな目で見るのさ?」


「ううん、何でもないよ?あー、でも話聞いてツバサ君がよわよわな理由がわかったわ。」


「よわよわって…………」











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