第2話 おや?主人公の様子が?
キーンコーンカーンコーン。チャイムの音にミライはハッとした。色々と考え込んでいたせいだろうか、ふと時計を見ると午前中の授業が終わり昼食の時間になっていた。
(あー、もうお昼?考えることが多すぎて時間が足りないっ)
チャイムの音に教室内もザワザワと騒がしくなる。
「あー、ではとりあえず今日の授業はここまで。昼食べたら午後からは実技だから着替えて校庭に集まるよーにな」
「はーい」
「先生ありがとうございました。」
口々に生徒が先生へ声をかけたり、教室を出て行ったりしている。
「ねー、さっきなんでガッツポーズしてたの?」
ニコニコと声をかけてきたのは優佳里ちゃんだ。
「え?いやー別になんでもないけどー?」
誤魔化すが優佳里は納得出来ないようにこちらを見ている。
「ふーん?」
「あっ」
ふとツバサが教室を出ていくのが見えた。
「あれ?ミライ、食堂行くの?珍しいね」
「あ、うん、今日は気分を変えようかなって。優佳里ちゃんはお弁当ここで食べるんでしょ?」
「………うん、お弁当だからね。いってらー」
ツバサを慌てて追いかけようとして優佳里に一旦引き止められたが、すぐにひらひらと手を振って笑顔で送り出してくれた。ツバサとヒロインのイベントが起こるのはお昼に食堂なのだ。今日起こるかはわからないけど、常に見ておかないと。折角この世界に来たんだから生で見たいに決まってる!!!
(えっと、記憶によると………食堂は一階だよね。)
今居るのは二階で食堂まで少しの距離がある。早く行かないとイベントを見逃すかもしれない。
(あ、ラッキーツバサ君発見!!)
ツバサの背中が見えたので追い抜かないようゆっくり追いかける。追いかけながらヒロインについて思い出す。
(確か、ヒロインのエリカちゃんは特別クラスでウザい男に絡まれてうっとおしいから通常クラスの食堂に来るんだっけ?1話とか懐かしいな………)
エリカは、絡んで来るしつこい男を撒く為に通常クラスの食堂でお昼をとっていたのがバレて、男が押しかけてくる。そこでしつこく絡まれている所をツバサが助けるんだけど、特別クラスの男はツバサに魔法攻撃を仕掛けてくる。それをぶちのめしてしまって、隠していた実力がバレてしまうのだ。
(確かそういう流れだよね、うんうん)
そしてツバサは後日特別クラスへと編入する事になる。
(おっと、着いた着いた)
食堂はそれなりに混んでいるようで空いている席を探してキョロキョロとあたりを見回していると見覚えのある顔を見つけた。
「あれれー、奇遇じゃん、エ・リ・カちゃーん」
「げっ………、なんであんたがここに居るのよ?」
ピンクの髪でサラサラのツインテール、小柄で少し気の強そうなツリ目の少女が下品なヒョウ柄のバンダナ男に肩を掴まれて居る。このアニメのメインヒロインの一人【一乗寺エリカ】だ。
(よっしゃ!!めっちゃ良いタイミングでイベント発生じゃん!!リアルエリカちゃんかわいいが過ぎるっ!!)
丁度一話が始まったようで、興奮を抑えながら良く見える位置に移動する。
「へー?いつもこっちの食堂来てたのか?誘ってくれれば良いのによー」
「っ?!(アンタが居るからこっちに来てんのよっ!!)」
「おー、ハンバーグうまそーじゃねーか、もーらいっ」
バンダナ男はエリカのハンバーグを勝手にひと切れ口に放り込んだ。
「ちょっと勝手に食べないでよっ!!なんなのよ?」
「あー?照れてんのかよ?エリカちゃーん。」
「………っふざけないでっ!!!」
パシッ
エリカが叩こうとした手をバンダナ男が受け止める。ギリギリと音がこちらに聞こえる程強く握っている様だ。
「っいた…ぃ………」
強く掴まれてエリカは涙目だ。本来ならエリカも魔法で戦えるのだがここには一般生徒が多い。だから反撃せずやられっぱなしなのだろう、周囲を巻き込まない様に我慢しているのだ。
「おいおい、暴力は駄目だろ?相変わらず乱暴な女だなーお前って」
バンダナ男はニヤニヤ笑っている。
(ん?あれ?)
そろそろツバサが助けに入る筈なのに全く姿が見えない。食堂に居る他の生徒も二人を見て見ぬ振りだ。まあそれは仕方無い。特別クラスの人間相手に割って入れる者は通常クラスには居ない。主人公を除いてだが。だがその主人公が助けに来ない。
(あれ?あれれ?ツバサ君?なんで来ないの?)
その間にもバンダナ男はエリカの手を握り続けている。
(これは、まずいのでは?)
冷や汗をかきながらミライがツバサを探して居ると食堂入り口がどよめいた。
「何をしているのかな?」
(え?!嘘ぉ?!)
そこに現れた男の髪はツバサの黒髪では無くキラキラと輝く金の髪だった。
(え?なんで彼がここに?)
【ユアン・バラキン】
主人公のライバルキャラ。輝く金の髪に赤と青のオッドアイ。甘いマスクと人気声優の甘いボイスで人気投票女性部門で主人公ツバサを抜いてぶっちぎり一位の男だ。背は高く筋肉が程良く付いたイケメン。
(ええ~?!なんで?ってゆーかユアンはまだ暫くは出てこないはずでは?!)
内心動揺しつつ、事の成り行きを見守る。
「聞こえなかったかな?安藤君?何をしているのかな?」
バンダナ男、もとい【安藤】は顔を青くした。
「え?げっ……ユアン……、なんでてめえがこんな所に?」
「たまには通常クラスの食堂にも来てみたくてね。君達もだろう?」
ユアンは微笑みながら二人の繋がれた手を見る。
「そんなにきつく女性の手を握るものではないよ?エリカが嫌がってる………」
「あ、………ちっ…んだよ………、くそ…」
バッと安藤はエリカの手を離す。
「………エリカ、手は大丈夫かい?」
「あ、あの、ありがとうユアン。私は大丈夫よ。」
赤くなった手を擦りながらエリカはユアンを見上げて礼を言った。ホッとした顔だ。
「どういたしまして……失礼。隣良いかな?」
「あ、うん、良いに決まってるわ、どうぞ。」
そのままユアンはエリカの隣に腰を下ろした。
安藤は青い顔で震えている。
(ひぇーこわー!!!!!)
ミライは冷や汗だらだらで、チラチラと様子を伺う。
ユアンの家名。バラキン家は始まりの一族と呼ばれる御三家が一つ。
始まりの一族とは最初に魔法が発現した三英雄の子孫とされている家の事だ。
そしてユアンは
「あれ?安藤君、顔が真っ青だね?具合が悪いのかな?大丈夫かい?」
ユアンがニコリと微笑んで告げると安藤はガタリと立ち上がりその場を逃げて行った。安藤が居なくなると、食堂内の空気がふっと緩んだ。
「あの、ユアン……ありがとう、助かったわ。」
「ふふ、やり過ぎたかな」
「あー、威圧?そうね、少しやり過ぎかも?周りも貴方の魔力に当てられちゃってるわ」
エリカが苦笑する。
(な、なるほどこれが魔力による威圧かぁ)
ユアンは安藤に魔力を向けて威圧していたらしい、だからあっさり逃げたのだ。
「………ユアン。わざわざ助けに来てくれたの?」
「ん?いやたまたまだよ。さっきも言った通り通常クラスの食堂が気になっていてね。ほら少しメニューが違うだろう?ライに聞いて今日来てみたんだ。たまにはアッサリとしたメニューが食べたくてね」
そう言うとユアンはウインクした。イケメンは凄い。食堂内に黄色い悲鳴が響いた。
「ふふ、ライアンは色々知ってるものね。」
エリカ達はユアンに向けられている黄色い悲鳴や熱い眼差しを無視して穏やかに談笑を始めた。何時もの事なのだろう。そんなユアンとエリカも気になるがミライは周囲をどれだけ探しても見つからないツバサに頭に疑問符を浮かべる。
(さっき食堂に入るのは見たのに、今は居ない………。なんで?おかしい。此処は主人公が助ける場面でしょ?)
とりあえず急いで昼食を食べてそれからツバサを探すことにする。その時、後頭部にピリッとした物を感じて振り返るとユアンと一瞬目が合った気がした。
(ひぇ、こっち見てた?気のせいかな?)
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