【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。
鳳城伊織
第1話 とりあえず、状況把握はOKです。
一寸先は闇とは良く言ったもので、人生とはなにがあるかわからないものである。久々の休みに大好きなアニメの映画を見に来ていた『私』は突然の事故により命を落とした。そのはずであった。しかし死んだ筈の私の目は物を見ているし耳は音を拾っているし、思考も出来ている。ただ、奇跡的に生きていたとか、死んだのが勘違いだったとかではない。それは何故か?そこは広い教室で、黒板の前には教師が居て授業をしている。高校なんてもう何年も前に卒業した筈だ。しかも私の2つ前の席にアニメの主人公が座っている。そして私には何故か2つの記憶が有る。事故で死んだ『私』とこの私
◇◇◇◇◇◇
時は少し遡る。
「はぁー、オワセカ最高だったぁ」
喫茶店で映画のパンフレットを開いて、じっくり眺めながらさっき見終わった映画に思いを馳せる。
【終わる世界でまた明日】
通称【オワセカ】とは人気バトルファンタジーアニメである。世界観は和洋折衷ごちゃまぜバトルファンタジーと言ったもので、ある時突如として次元の扉が開き魔物が溢れた地球が舞台になっている。魔物の進行により多数の国が滅び、人類が滅亡するかと思われた。だが神は人類を見捨て無かったのだ。突如として新たな力、【魔法】に目覚めた人々が新たに国を作り軍を作り魔物達と戦うと言う物だ。
物語の始まりはそれから二百年後、復興した新たな世界でこのアニメの主人公【ツバサ・ブラウン】が軍学校へ入学した直後からだ。主人公のツバサ・ブラウンは所謂俺つえー何かやっちゃいました?ハーレムキャラである。このアニメが人気なのは、ハーレム要因のヒロイン達の可愛さもあるがライバルや敵。男キャラも多く、男性女性どちらからも評価されているのである。アニメは人気で一期、二期、そして最後を映画で終わらせると言うものだった。
「はぁ、長く追ってたけど、終わっちゃったなぁー」
映画には満足だった。でも終わってしまったことによる少しの寂しさもある。
「ふぅ、そろそろ帰るかぁ」
飲み終えた紅茶のカップを置いて立ち上がろうとした時、背後から物凄い音がして、体に物凄い衝撃が走った。そこで『私』の意識が一瞬遠のいた。次に気づいた時は教室で授業を受けていたのである。意味がわからない。そう思ったのは一瞬で、ふと頭に『自分』の記憶が蘇る。いや正確には自分では無くこの体の記憶。
【園田ミライ】と言う少女のものだった。ただの知識としての記憶だけ。今まで何を考えていたとかそう言う意識の記憶は一切ない。だから頭に浮かんだのはこれは所謂憑依と言うやつなのでは?と言う事であった。こんな状況なのに何故だが冷静にそう考えている自分がいた。
(え?私死んだ、んだよね多分………)
そして、ふと目を前の席に向けて見つけたのは、さっき見終わった映画の主人公である、ツバサ・ブラウンの後頭部だった。
(お、落ち着かなきゃ~!!)
余りの衝撃に手をきつく握りしめる。
(こ、これはオワセカへ異世界トリップ?!まじで?!)
ふー、とため息を吐いて深呼吸。落ち着いたら周りを観察してみることにする。
(よし、まずは状況把握だよね)
怪しまれないくらいに自然な感じで教室を見渡す。
『私』としては見慣れない景色の筈なのに、ミライとしてはいつも通りの教室だった。
(なるほど、知識としての記憶は意識しなくても浮かんでくるんだ?へー?なんか面白いなー)
今はまだ午前中の授業。お昼まではまだ少しある。時計は10時15分を指していた。黒板の日付は5月18日になっている。
(なるほど、まだ主人公がこのクラスに居て、5月って事は入学式直後。一話少し前って事かな?)
アニメの本編はまだ始まっていないようだった。
(少し園田ミライの事も調べてみるか………、えーっと)
記憶を意識してみる。
(………園田ミライ16歳これと言って特筆した所の無い普通の女子。魔法適正は光かぁ………、しょぼいなぁ)
所謂本編には出てこない背景と同化するモブ女子。
(普通こういうのってメインキャラの誰かになるもんじゃないの?)
(あ、でもモブって事は結構自由に動けるかも、それに特等席でアニメが見れるっ?)
小さくガッツポーズをする。ふと視線を感じで隣を見ると生易しい目でこちらを見る女子生徒と目が合った。
(あー、えっと確か友達の
記憶を探りへらりと笑顔を向けるとにこりと笑い返された。
(やべーやべー、あんまり変な事しないようにしないと。)
今いる席は窓際で、そよそよと風が吹いてくる。ツバサ・ブラウンのサラサラとした黒髪が風に揺れているのを目で追って、ニヤけそうな顔を無理無理引き締める。
(うわぁ、萌えーだよ萌え!!!リアルツバサじゃん!!髪サラサラ!!)
意識を主人公のツバサに向ける。【ツバサ・ブラウン】黒髪黒目のイケメンだ。背は170cmで細身だが筋肉はしっかりついている。年は16歳。
このアニメの1話は彼がヒロインを助けると言うストーリーだ。そこから物語は動き出す。まずこの軍学校には魔力適正が有った12歳~20歳までの人間が国中から集められている。魔法の発現が大体その間に見られるからだ。集められた者たちはクラス分けされる。
【通常クラス】と【特別クラス】のどちらかだ。
今私達がいるのは【通常クラス】だ。通常クラスはただ単に魔力適正が有った者達。主に座学と実技を教えて貰える。特に秀でた戦闘能力の無い一般生徒が通常クラスに振り分けられる。
【特別クラス】は読んで字の如く特別な生徒しか選ばれない。魔力適正が有り尚かつ実力がある者達。すなわち即戦力組だ。だがいくら実力があろうとも、3年間は学生の身分で過ごさねばならない。授業は主に実技メインで、軽い任務などをこなす。任務をこなせば勿論給料も支払われる。在籍人数が少ないので、学年などは無く入学して3年でそのまま軍へ直行となり、学費は免除となる。
それとは違い通常クラスはきちんと学年分けされており、3年で卒業することになる。3年軍学校で過ごして軍人に向いていないようなら、学費を払い。違う職につく事になる。一応は軍学校から仕事の斡旋もしてくれる。
さて、話は主人公に戻るが何故ツバサが通常クラスに居るのかと言うと、彼は実は実力を隠している。注目されるのが嫌いで面倒くさがりなのでクラス分け試験で手を抜いて通常クラスでも落ちこぼれのフリをしているのである。アニメ一話の冒頭はそんな彼の自分語りから始まるのだ。
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