第9話 人工精霊。
「とにかく、僕のお祖父様と園田さんの言うアニメのお祖父様は全然違うでしょ?」
「うーん、そだねぇ。違うけど、でもそれはツバサ君が原因だね、間違いなく」
うんうんと頷いてミライはノートに書き込む。『ツバサ君おじいさん攻略済』と
「ちょっとなにこれ?」
「んーいや、一応ね」
と冗談はさておき
「よし、まあおじいさんの話は置いといて、次もいっこ確かめたいことがあるんだよね」
「………うん、何?」
「君が人工精霊かどうかだよ」
急に真面目なトーンになったミライにツバサはたじろぐ。
「う、うん、で。どうやって確かめるの?」
「んー、ツバサ君って今までなにか病気したことある?あ、もちろん転生してからね」
「え、病気?」
「うん、風邪とかでもいいよ」
ミライの言葉にツバサは考え込む。
「…………ない、と思う。そう言われてみれば、風邪とかも、無かったかも……っでも、僕…」
顔色を悪くしながらツバサは答える。
「うーん、ま、それだけじゃまだちょっと確信にかけるよね。」
手の中でくるくると回して遊ばせていたペンをピタリと止めるとミライはツバサの目の前へとペン先を突きつける。
「ちょっと痛いけど我慢してね。」
「まっ、待って待って何するのさ?」
「いやー人工精霊ってね、怪我しても大気中の魔力を集めてすぐに治るんだよ。チートだねチート。だから、ね、ちょっとだけだし。先っぽだけだから、ね」
ニヤニヤと怪しい台詞で近づいてくるミライにツバサは更に顔を青くする。
「いやいや、てか女の子が変な言い方しちゃだめだよっ!!」
「良いから観念しろー!!」
ガバリと襲いかかるとまるでツバサを押し倒しているような体勢になる。お互いに唇が触れそうな距離で目が合ってミライは我に返る。
「ごめん、ちょっとふざけすぎた…」
ゆっくりと身を起こすとツバサは顔を真っ赤にして白目を向いていた。
「いや、ウブすぎるでしょ…」
◇◇◇◇◇◇
変な空気になったが無理やり仕切り直す。ミライから少し離れた位置でツバサは自分を守るよう両手で体を抱きしめていた。
「もーごめんってー」
軽い感じで謝るとツバサは声を荒げた。
「軽っ?!園田さん!!!!軽いよ!!!!」
「はいはい」
「流されたっ!!」
「仕切り直すねー」
「………うん」
ツバサは不服そうだ。
「んー怪我するの良い案だと思ったんだけどなー」
「良くないです!!!!!」
プンプンとしているツバサを横目にミライは考える。
「そういえば子供の頃怪我したんだよね?どうだった?」
ふと先程聞いた話を思い出す。確か木から落ちたと言っていた。
「え、あーそうだね。6歳の時に木から落ちて………お祖父様が凄く慌てて………あれ………」
言葉を止めたツバサにミライは先を促す。
「ん?どうしたの?ねぇ、どうだったの?」
「いや、そういえば確かに怪我したんだけど、すぐに治ったような?あれ………」
(あの時、僕………、凄く高い所から落ちて………、血がいっぱい………あれ?でも………)
「僕。凄く沢山血が出た………と思うけど、2日くらいで治ってたような気がする」
そう、ツバサの記憶には長く寝込んだ覚えが無い。あの時はお祖父様が焦っていた事や友達の事が気になってちゃんと考えて居なかったけど今になって思うとあの日木から落ちて、その時出た血は尋常な量じゃなかったような。それこそ辺りは血の海だった。でも慌てたお祖父様が走り寄って来たとき頭は少し切れていただけだったような。でもいくら頭は血が出やすいと言ってもあれはまるで一度何かが潰れたような………。そこまで考えてツバサは机の上に目を向ける。机の上には、ミライのペンケースがある。その中にはカッターナイフも入っている。
「え?ちょっとツバサ君?」
カッターを手にしたツバサにミライは焦ったように声を出した。
「…………」
カチカチカチ、カッターの先から刃が飛び出す、ツバサはそれをじっと眺めた。
「ちょっとちょっとツバサ君、怪我するのは無しなんでしょう?」
引き攣る笑顔でそう言うミライにツバサは答える。
「ふふ、さっきは園田さんがペン刺そうとしてたのに、僕が自分で傷つけようとすると止めるんだ?」
「それは、だって………」
モゴモゴと言い淀むミライにツバサは小さく笑いを漏らした。
「大丈夫だよ。僕、園田さん信じてるし」
「えっ」
シャッ
ポタ
ポタ
言うやいなやツバサは手の甲にカッターの刃を滑らせた。赤い雫がノートに落ちてシミになる。
「あ、………血が、」
ポタ
ポタ
なおも雫が落ちる。
「見て、園田さん」
ツバサの言葉に傷口を凝視すると血が止まり、まるで逆再生のように傷口が治り始めた。5秒後、そこには何事も無かったような綺麗な肌があるだけだった。
「うわ、きもっ」
思わずつぶやいたミライの言葉にツバサは苦笑する。
「ひどいよ園田さん」
「いや、ごめんね、ちょっとリアルで見ちゃうとさ………うわ、まじか………」
「いや、まあ僕自身もちょっと思うところはあるし、良いけどね」
中身が元日本人の二人にはこの光景は結構衝撃的だったのだ。
◇◇◇◇◇◇
血のついたノートを破りクシャクシャにした紙をゴミ箱に投げ入れる。
「ナイスシュート」
ツバサが笑ってそう言う。
「えへへ、よし、それじゃ確認も済んだし次に進めても?」
「うん、大丈夫だよ。」
「じゃあこれから少し私の意見と言うか考えを話すね。まず明日からは私達特別クラスに行くわけだけど、ツバサ君は一応その回復力のチートがあるからなんとか大丈夫だと思う。」
「うん」
「でも不死身じゃ無いから無理はしないでね」
「え?そうなの?」
「うん、確か人工精霊には核が有ってそれを破壊されたら流石に即死だよ。」
「え?それってどこにあるの?」
「…ごめんアニメではそう言う話出てきてないんだ。一応核の話はふんわりあったんだけど、まずアニメのツバサってクソチート野郎だったからほとんど怪我しないし、怪我してもすぐに治るくらいの怪我しかしてなかったんだよね」
「クソチート野郎…………?」
「いや、そこに反応されるとわりと困る。でね、まず戦闘もほとんどしないんだよね、ツバサって。」
「ええ?………主人公なのに戦わないの?アニメってそうなの?」
「………いや、ツバサが特殊な例かな。………ハーレムメンバーがさっさと敵倒しちゃうから。」
「あぁ、それで…」
遠い目になったツバサを尻目に続ける。
「後はライバルキャラ達も結構敵バンバン倒しちゃって、ツバサはほとんど最後の良いとこ取りみたいな感じなんだよー。設定的には強いんだけどね。でもストーリー上は戦わないし、今のツバサ君も戦えないじゃん?」
「………うん。」
「だからこそ、ハーレムが必要なのです!!!!!」
ビシリと指を突きつけるとツバサは真っ白になっている。
「いやー、それは無理じゃないかな?だって僕、女の人と………その、お付き合いだってした事ないし、その。………前の人生の時もだよ?」
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