第10話 ハーレムと魔眼の男。
ハーレムの重要性を説くミライを死んだ目でツバサが見つめている。
「ねえ、園田さん。そんな僕に本気でハーレムなんて作れると思う?」
もし今このツバサの中に居るのがアニメやラノベ好きな男だったのなら、喜んでハーレムを作っていたことだろう。だが、残念な事にここに居るのは彼女いない歴前世も合わせて54年のピュアピュア男なのだ。しかもアニメや漫画、ラノベなどにもあまり触れていない中の人(一郎)はあまりにも常識人であった。
「大体ハーレムって、そんな何人も女の人を侍らすなんて………無理だよ。好きになるのは一人だけでしょ?普通………」
もじもじと両手の人差し指を顔の前で合わせてツバサはそう言う。
「そ、それに騙すみたいでやっぱり、嫌だし………」
あまりにもピュアすぎる。このままでは一生ハーレムなど実現しないだろう、そうツバサだけだったのならばだ。
ドンッ!!!!!!
机に拳を叩き付ける音にツバサは驚き肩をビクリと揺らした。この場に居るのは他にはミライだけだ。机に拳を叩きつけたのはミライしか居ない。
「え………園田さん?」
「馬鹿野郎ッ!!!!」
ミライは吠える。
「ツバサ君!!君は馬鹿野郎だ!!騙すみたいで、嫌だ?何言ってるの?人の命がかかってるんだよ?!」
そのミライの言葉にツバサはハっとする。
「言ってくれたよね?ツバサ君。私の共犯者になってくれるって、一緒に頑張ろうって?」
「う、うん」
「ならハーレムだって作るんだよ!!私だってツバサ君一人では無理だと思うよ?でも、此処には私が居るじゃない?原作知識を持ったこの私が!!!!!二人でなら出来るよ!!」
「園田さん………うん!!」
手と手を握り合い二人は盛り上がる。
「最高のハーレムを作ろうよツバサ君!!」
「ああ作ろう!!園田さん!!」
何やら感動の場面だが言っている内容は最低である。
◇◇◇◇◇◇
ぐったりとした二人はソファーに座って項垂れていた。二人してテンション上がって疲れたのだ。
「なんか、変なスイッチ入っちゃったね、ツバサ君………」
「うん、なんかおかしかったね」
時計はもうすぐ正午を指す所だった。
「ねぇ、ツバサ君そろそろ食堂行ってみない?」
「うん、別に良いけど何かあるの?あ、お昼ご飯?」
「いや、一応イベントが起こらないか確認しときたいから」
「あー、ヒロインイベントだっけ?もう昨日終わったんじゃ無いの?」
「そー、昨日それっぽいのはあったけどもしかしたらまた何か起こるかもしれないし。フラグ回収しときたいからさ、ハーレムの為にも」
「うん………」
「浮かない顔だなぁ、ほらハーレム作るって約束したでしょーが。」
ほらほらとツバサの背中を叩いて食堂へ向かう。まだチャイムは鳴って無いので生徒は誰も居なかった。
「よし、人で混む前にヒロインの事説明するね?」
「………うん。ヒロインかぁ………」
「ヒロイン二人目の名前は【一乗寺エリカ】ツンデレ合法ロリヒロインだよ」
「ツンデレ………合法ロリ?」
「まあ、そこは流してよ。それで、えっと本当なら昨日ツバサ君が助けて仲良くなる筈だったんだけど、それは変わっちゃったし今日またイベント起こったらとりあえずは様子見つつ助けに入るって事で」
「えーっ、でも怖い人が絡んでるんだよね?」
「まあ、なんとかなるでしょ一応怪我してもすぐ治るわけだし。それに最悪私が先生呼んでくるよ」
「うん………」
「まあ、イベントが起こらない確率のが高いんだからさ、気楽に行こうよ。」
チャイムが鳴って生徒達が続々とやって来る。食堂も混んできた。
「あー、今のところ何も無しだね。」
「はぁ、良かった。」
ツバサはホッと胸を撫で下ろした。
「あ、………え?!」
驚愕の声を上げたミライにツバサが目をやると食堂の入り口を見つめている。
「え?園田さん、まさかイベント?」
「あ、うん、一乗寺エリカを発見したんだけど。ほら、あのピンク髪でツインテールの子なんだけど」
ミライの視線の先をツバサが追うと小学生みたいな女の子が居た。可愛らしい顔立ちで目だけが強気なツリ目だ。サラサラとしたピンクの髪を頭の上の方で2つに括っている。遠くから見てもなんだかオーラがある。華やかだ。
「あれ?絡まれてるって、隣の男の人?」
そのエリカに親しそうに話しかけている男が居る。輝くような金髪のイケメンだ。
「ううん、あれは違う、昨日君の代わりに助けていた。主人公のライバル。【ユアン・バラキン】だよ」
ユアン・バラキンはこのオワセカのキャラクターの中で主人公の次に、強いキャラである。アニメでは敵に回るライバルキャラ………では無く最後まで味方。主人公を支え共に戦う、裏表の無い良い男。と言う設定だ
そんな彼だが、生い立ちが少し暗く少しの闇を抱えているギャップでアニメ視聴者からの人気も高かった。アニメ本編では殆ど語られない裏設定なのだが、それが余計にファンには受けたのだ。
彼の家バラキン家は二百年前最初に魔法が発現して魔物達を退けた英雄の子孫だ。神話として名前が残るほどの活躍をした三人の英雄。
【凍土のイアン】
【煉獄のタカシ】
【雷鳴のオリオン】
この者達の子孫である家を皆は御三家と呼んでいる。そのうちの一人凍土のイアンが彼らの祖である。故にバラキン家の者はその多くが氷の魔法適正が有り、その威力も魔力も並々ならぬものである。例に漏れずユアンも強力な氷魔法の使い手だ。そこまで思い出して、ミライはこっそりとユアンとエリカの様子を伺う。仲良く食事の乗ったトレーを持って、キョロキョロと辺りを見回すユアンとエリカ。席を探しているのだろう。その時バチリとユアンとミライの目が合った。
(ひぇ!!!!ガッツリ目が合った!!!!)
すぐに顔を背けるミライだったが隣のツバサが焦ったように小声で声をかけてくる。
「ねえ………あの人達こっちに来るんだけど?これもイベントになるの?」
「ええ?いやこれはちょっと、私にも予想外だわ」
確かにミライとツバサの前の席は空いている。だがこちらに来るまでにもチラホラと空席は有った。恐る恐るもう一度ユアン達に視線を向けると満面の笑みのユアンとまた目が合った。エリカはユアンの後ろで少し不思議そうにしながらこちらへズンズン向かってくるユアンに大人しく付いて来ている。
(ヤバい、完璧にロックオンされてるんだが?!なんでっ?)
(園田さん!!!!!どうするの?!)
内心パニックだがお互い顔には出さず事の成り行きを見守ることにする。そうこうしている内にユアンとエリカが二人の前に到着してにこやかに声をかけてくる。
「やぁ、こんにちは。ここ良いだろうか?」
「ど、どうぞ。」
作り笑顔でそれに答えるミライだが右頬がヒクヒクと引き攣っていた。
「ユアン?わざわざこっちまで来るなんて、知り合い?」
エリカはこちらを見て首を傾げている。かわいい、じゃなくて
「ん?まあ、そんな所かな」
そう言うとユアンはまたニッコリとミライに笑いかける。
(知り合ってないっつーの!!)
何故かグイグイくるユアンにツバサも隣で冷や汗かいていた。
「ふーん?私一乗寺エリカよ。よろしく」
「あ、園田ミライです。よろしく」
「………ツバサ・ブラウンです、よろしく」
「ユアン・バラキンだよ。よろしく」
「ん?ユアン知り合いなんじゃないの?」
自己紹介をするユアンにキョトンとするエリカ。ユアンは曖昧な笑顔を返していた。正直ミライは今焦っていた。一乗寺エリカだけであったのなら問題はなかったのだ。なんとか上手い事フラグを立ててツバサハーレムへの道第一歩、となる筈だったのである。だがユアン・バラキンは今はまだ、関わりたくない相手である。それは何故か?ユアンが【魔眼】持ちだからである。本来ユアンがツバサと明確に絡むのはアニメでも一期の中盤でなのだ。存在自体は一話から匂わされていたし名前は度々登場するのだが、こんなにガッツリ絡まれるのは想定外だ。そもそもアニメで初期に登場しないのは大人の都合である。彼は主人公につぐチートなので、登場させるのもなかなか難しいのでは無いかと前世のミライは勘ぐっていた。それに、今のミライ達にとっても彼の力は厄介なのである。
彼の魔眼『真実の瞳』
その効果は、あらゆる生物、被生物の真実を見抜く。人であるならば嘘やその人の考えていることなどを見抜けるのだ。被生物ならその物が何で出来ているのか。そしてその物の使い方などが分かる。例えば彼は飛行機の操縦免許など持っていないだろうが、コックピットに乗って魔眼でそこを見るだけで操縦の仕方やその物の仕組みが理解できてしまうのだ。それはあらゆる武器や機械などでもである。そこから導きだせる事は言わずもがなである。
(やばぁー!!!!!!今、色々とバレるわけにはいかないのにっ!!!!!せめてハーレムを作り終えてからじゃないと色々とまずい!!)
ツバサが何やらユアンに話しかけられてそれに答えている。とりあえず、ツバサに関しては大丈夫な筈だと自分を落ち着かせる。ユアンの魔眼は生物被生物関係なく見抜く、だが例外がある。それは禁術から生み出された人工精霊のツバサの事は見抜けないのだ。アニメでも、ユアンがツバサに近づいた理由がそれだ。心を読めないから興味を持つのだ。なので今やばいのはミライがユアンに心を読まれてしまう事だ。そうなれば転生や憑依の事がバレてしまう。幸い今ユアンはツバサに構っているみたいだし、このまま影を薄くしてやり過ごそう。そう思い顔を上げるとユアンがミライをガン見していた。もう凄いガン見である。ツバサと談笑してはいるが目がずっとミライを捉えている。
(な、なんでぇー?!)
思わず視線をそらすと怪訝な顔のエリカと目が合った。
(ひぇっ!!!!!こっちも?!)
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