第11話 フラグ立つ‼︎






すわ前門の虎、後門の狼かと慄いていたミライだったがエリカはそのまま、視線をユアンに向ける。


「ユアン、そんなに女性を不躾に見つめるものじゃないわ、特に貴方はね。」


そう言ってユアンの目の前で手をひらひらと振る。


「エリカ………ごめん。確かにそうだね、わかったよ。わかったから手を降ろして?」


ユアンは苦笑してミライから視線を反らした。


「ごめんね、園田さん。気を悪くしないで欲しい………」


ユアンはそう言って、チラリと一瞬だけまたミライを見て眉をハの字に下げた。


「え、いえ………」


「私からもごめんなさいね。ユアンにはちゃんと言い聞かせておくから」


エリカも申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「園田さん大丈夫?」


小さく聞いてくるツバサに目配せで大丈夫だと伝える。


「あ、その、別に大丈夫ですから………」


「そう?ならいいんだけど。」


ホッとしたように息を吐いてエリカはまたミライへと話しかける。


「ねぇ、それってうちのネクタイよね?」


エリカが指差す先には先生から渡された書類とネクタイが鞄から覗いていた。


「あ、そうです。」


「やっぱり!!!もしかしてうちのクラスに編入してくるの?」


キラキラと瞳を輝かせて気持ちこちらに身を乗り出す形でエリカは尋ねてくる。嬉しそうだ。


「あー、………実はそうなんです。明日からそっちのクラスに編入する事になって。」


「わぁ!!そうなのね!!あ、それと敬語じゃなくていいわよ?だってこれからはクラスメイトですもの」


表情豊かに笑うエリカに思わずミライも笑みが浮かぶ。やっぱり好きなアニメのキャラとこうして話せるのは嬉しい。


「あ、うん。わかった。改めてよろしくね、エリカちゃん」


そんな二人をツバサとユアンは微笑ましく眺めている。


「ツバサ、君もうちに来るんだろう?よろしく、また他にも友達を紹介するよ。」


ユアンがにこりとツバサに問う


「あ、うん。………よろしく、ユアン。ありがとう、楽しみにしてるね?」


「ふふ、ああ、………ほんと楽しみだね」


ニコニコと笑うユアンにツバサは何か引っかかるような気がした。


そんなこんなで、和やかに時間は過ぎて行った。


「じゃあ私達はそろそろ行くわ」


「また明日だね」


席を立つ二人にこちらも立って見送る。何とか無事に乗り切れてミライはホッとした。その時、ツバサが視界の端で動くのが見えた。


「あ、ちょっと待って一乗寺さん」


ツバサはハンカチを持ってエリカの頬をこする。


「ほっぺにソースついてたよ?はい、これで綺麗になった。えへへ」


ツバサは屈んで、エリカに微笑む。


その瞬間エリカの頭からボフンと音がした。そのまますごい勢いで顔を真っ赤にしてエリカは走り去ってしまった。残された三人はそれをぽかんと見送るのだった。


「ツバサ君、今のってわざと?」


ジト目でツバサを見て尋ねるがツバサ本人はキョトンとしている。


「え?………何が?」


ツバサ的には前世で両親の介護をしていた時の癖と、エリカが小さな子供に見えていたから行った行為だったのだか、奇しくもそれはフラグ立てに一役買ったようだ。


(なるほど、これが世界の強制力?)


ふむふむと納得するミライだった。ふとまだユアンがすぐ側に佇んでるのに気づく。何故だが楽しそうにツバサを見ている。


「ユアン?」


ツバサがそれに声をかけるとユアンはツバサの手にしている汚れたハンカチへと目をやる。


「それ、早く洗わないとシミになってしまうよ?」


ソースで赤くなったハンカチに目をやるとツバサも頷いた。


「あ、そうだね。ごめん園田さんちょっと洗ってくるよ」


そう言うと、ツバサはミライを置いて廊下の手洗い場の方へ向かって行った。


(ちょっ置いてかないでよー!!)


早足で駆けて行くツバサを追いかけようとミライもすぐに廊下に出たが、その腕を後ろからユアンに掴まれる。そしてくるりと体を回されそのまま壁ドンの体勢になった。


「ひぇっ?!」 


驚きの声を上げるミライをお構い無しに、ユアンは無言でミライの瞳を覗き込む。赤い魔眼が至近距離でミライを捉える。


(ヤバい!!無だ無になるのだー!!心を読まれたら終わるっ!!!!!!!!)


心を見抜かれまいと必死なミライはそのまま暫く無心になろうと努力する。お互いに、じーっと見つめ合う事になった。数分あるいは数十秒であっただろうか。突然ミライを見つめていた瞳がまるで愛しいものを見るように、蕩けた。


「え?なに………。ひっ………」


ぐっと顔が近づく、キスされると身構えたが、ユアンの唇は少し横に外れて耳元に近づき触れるか触れないかの距離で甘く囁かれる。


「………明日からは同じクラスだね?楽しみにしているよ、ミライ」


そのまま何事もなく離れて、ユアンは廊下を進んで行く。その背中を腰を抜かして床に座り込みながら見送るミライだった。囁かれた耳を押さえて顔は真っ赤だ。暫く経ってからハンカチを洗い終えたツバサが座り込んでるミライに不思議そうに近づいて来た。



ミライは暴力ヒロインでは無いがとりあえずツバサをぶん殴った。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る