20話 めちゃくちゃな関係。
今この場で笑みを浮かべているのはユアンだけだった。今だにツバサの手を自身の胸に当ててニコニコしている。
「次は、僕が揉めばいいかい?」
ユアンは照れたようにそうミライに問う。ツバサはミライへ向かって光速で首を横に振った。
「あ、いやもう満足だよ………ありがとう。」
「そう、なら良かった」
ユアンはツバサの手を離すとミライのすぐ横に来てニコニコしている。やっと自由になった手にツバサはホッとした様子だ。だが顔色は悪い。
「あー、とりあえずユアンちゃん。落ち着いたんならこれなんとかしてくれるぅ?ちょぉっと寒いわぁ」
ライアンが腕を擦りながらそう言うとユアンは心得たように頷いた。
「ああ、皆すまない。僕も修行不足だったようだ」
ユアンは困ったように笑う。それから目を閉じるとふわりとユアンの前髪が浮かびパンッと言う乾いた音がして、凍りついていた廊下の氷がキラキラと光る粉になりユアンの身体に吸い込まれていった。
魔力コントロールが上手い者は暴走した自身の魔力を、また吸収することが出来る。すっかりと廊下は元通りになっていた。
「あー、ほなら自己紹介させてもらってもええかなぁ?」
ライアンがツバサとミライへと向きなおる。ライアンの二人に向ける視線は不審者を見る目だが、ライアンはキチンとした常識人なので挨拶をちゃんとするのだ。
「私はライアン・エアー言います。こっちのエリカちゃんとユアンちゃんとは幼馴染でながーぃ付き合いなんですわぁ、どうもよろしゅうねぇ」
「あー、………園田ミライです。よろしくお願いします」
「ツバサ・ブラウンです。よろしく」
◇◇◇◇◇◇
目の前で警戒の色を瞳に宿らせているライアン・エアーを見てミライは、どうしたものかと思案していた。
【ライアン・エアー】
21歳、褐色の肌にサラサラした銀の髪をハーフツインテールにした、がっしりと背の高い男である。魔法属性は雷だが、戦闘は主に雷を纏わせた拳で戦う。パワーファイターだ。アニメでは常識人枠であり料理上手、アニメファンからは皆のお母さんと呼ばれている。穏やかな性格で割と初期から主人公の味方をしてくれるキャラクターなのだ。ユアンとエリカが生まれた時から知っているので、二人を弟や妹みたく思って大切にしている、二人への愛情はわざわざ時期を二人に合わせて軍学校へ入学した事からも、伺える。今もさり気なくエリカを背に隠すようにして、こちらに警戒した目を向けている。
いや、そうなりますよね。彼からすれば、大切な妹や弟に変態が近づくのは心配ですもんね。遠い目になりながらミライはそう思う。
まさかの初めから裏表なく仲良くなれそうなキャラクターにやらかして変態だと思われたのである。大失態である。そんなミライの気持ちになどお構いなしに、隣のユアンがライアンに話しかける。
「ふふ、ライ。ミライは面白いだろう?」
そう言って微笑むユアンの顔に嘘は無い。やっぱり趣味がおかしい。
「あー、そやねぇ、ちょっと変わった趣味をおもちやけどもぉ、おもしろぃ子やねぇ?」
ライアンからは含みのある言葉が返ってくる。心なしか刺々しいようにも聞こえる。
(なんか………ほんとすみません。)
ミライは内心でライアンへと謝った。
ライアンはツバサの事も見定めるようにじろじろと見ている。やっぱりかなり警戒されている様子だ、無理もない。
するとライアンを押しのけるようにエリカが出てきた。
「ツ、ツバサさん、えと昨日ぶり」
頬を染めてツバサへと挨拶している。
(?!)
ミライは驚いた。
確かにツバサにフラグは立っていたけども、エリカはアニメではツンデレキャラなので主人公に惚れてもツンツンしている筈だからである。
(ツバサさん?!何その呼び方!!!!!!!)
それにめっちゃしおらしいんですけども?!エリカはアニメではツバサ、とかアンタとか呼んでいた。なのにツバサさん?!
「あ、一乗寺さん、うん。今日からクラスメイトとしてよろしくね」
ツバサが笑顔でそう返すとエリカは嬉しそうにモジモジしていた。少しまた煙が頭から出ている。それを見てツバサが不思議そうにエリカの頭に手を乗せる。
「これ、大丈夫なの?どうなってるの?」
所謂頭ポンポンである、ツバサに他意はないのだがライアンの目が厳しくなった。
「ぴゃ!!!あ、うん。大丈夫………です………」
モクモクと更に煙が増えて顔を真っ赤にしてエリカは俯いている。耳まで真っ赤だ。状況を整理するなら本来なら主人公へ好意的な筈のライアンが警戒していて、ツンデレヒロインが主人公にベタ惚れでライバルのユアンは胸を揉むだと?!
胸の件はミライのせいなのだが。
とりあえず関係性が最早めちゃくちゃなのである。ストーリー通りに進める筈がどしてこうなった?これは、ストーリー的に大丈夫なのかと不安になるミライだった。
(めちゃくちゃじゃん、まだ編入初日なのに………)
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