15話 悪意。






「ツバサくーん☆お待たせー待ったぁー?」


ツバサに手を振って駆け寄るとすごい嫌そうな顔で見られた。そんな顔出来るんスね、ツバサさん。


「……おはよう園田さん」


「ちっ、ノリわっる………」


ミライはぺっと唾を吐くフリをする。


「女の子なんだから、フリでもそんな事しちゃだめだよ」


(お前はお母さんかっ?!)


お小言を言うツバサに内心で突っ込むミライ。寝不足による謎のテンションでなんだか今日はイケイケな気がしてきた。


「うわぁ、園田さん目の下隈、凄いね」


そう言うツバサの目の下も黒く染まっていた。


「………そっちもね、人工精霊でも寝不足は駄目なんだ?」


「んー、そうみたい。別にしんどいとかはないんだけど。普通に眠たいよ………ふあ…。」


「………ふわぁ。」


二人揃って欠伸をする。


「まぁ仲良しなのね!!」


明るい声のした方を見ると、ぽっちゃりしたお姉さんが居た。


パンツスーツスタイルの多分先生?


「おはようございます、ツバサ・ブラウン君。園田ミライさん」


にこりと笑いかけられて二人はつられて微笑む。それから挨拶を返す。


「「おはようございます」」


ミライの知らない、アニメでも見たことの無い先生だ。モブだろう。


「えーっと、私は【今井ミアリー】と申します。あなた達の担任ではないのですけれどね、とりあえず本日は私があなた達の案内を頼まれてますの、よろしいかしら?」


「あ、よろしくお願いします。」


ツバサが頭を下げる。


「さぁお二人共参りましょうか?」


そう言うとミアリーはスタスタと歩き出す。


ミライはミアリーの背中を追い掛けながらツバサに小声で話しかける。


「その隈って、徹夜でノート読んでくれたからだよね?」


「うん、他に何があるの?」


「いや、荷造りとか……」


「一時間で終わったけど?」


「!?」







◇◇◇◇◇◇






「さあ着きましたわ」


ミアリーが立ち止まる。目の前には大きな扉が有った。まるでお城の扉の様だ。ツバサは驚いていたがミライは何度も画面越しに見た事がある。此処が特別クラスの教室だ。柄にも無く緊張する。ふと右肩が暖かくなったと思ったらツバサが優しくさすってくれていた。


「大丈夫だよ」


小声でそう告げられるとふっと肩の力が抜けた。


よし、大丈夫大丈夫!!!!ミライは自身にそう言い聞かせる。


それからミアリーに続いて歩く。ミアリー先生、ツバサ、ミライの順だ。ナチュラルにツバサがミライの前に行ってくれた。


(ノリ悪いとか言ってごめんね)


ツバサの背中をそっと拝んでおいた。特別クラスの教室の中は大学の講堂のような造りになっていて、通常クラスとは大違いだ。アニメの背景としては知っていたミライだが、やはり実際に見ると迫力が違う。後ろの席の方に巨大な天蓋付きベッドが有るのは見なかったことにしよう。凄く広い講堂だが今見える人影は20人もいないように思う。皆思い思い、好きな所にバラバラに座っているようだ。長い机の上で寝転んでガッツリイビキかいている奴もいる。めっちゃ見覚えがある。ついさっきまで一緒に居た。にゃん子だ。


(………ずるいなー、私も寝たい………)


そんな風に思ってにゃん子を眺めていると、比較的前の方に三人組が居るのが目に入った。


【ユアン・バラキン】


【一乗寺エリカ】


【ライアン・エアー】


目立つ三人だ。この三人はこのアニメのメインキャラクターだ。


「はい、皆様おはようございます!!」


ミアリーが声を張り上げる。



「「「おはようございます」」」


「っす!!」


「おはようございます………」


「グォー…グォー」


パラパラと挨拶が返ってくる。


「本日は編入生をお連れしましたの、皆様仲良くしましょうね」


そう言ってミアリーはミライとツバサを前に促す。


「ツバサ・ブラウンです。よろしくお願いします。」


ツバサが一度ミライを見てから頷いて最初に自己紹介をする。パチパチと拍手が起こる。イビキも聞こえる。にゃん子だ。起きろ。


ちなみに前の三人組の拍手がめっちゃ凄い。三人なのに10倍くらい人が居るみたいに聞こえる。


なんか煙出てるし、めっちゃ怖い。



「園田ミライです、よろしくお願いします。」


ミライも自己紹介をしてからぺこりと頭を下げる。またまた凄い拍手が三人から聞こえる。機関銃かな?あと、イビキうるさい。起きろにゃん子。


「本日は皆様の担任のジョーンズ先生はお休みです。ですので今日は一日中訓練場を開放致します、そちらへ行かれる方はご自由にどうぞ。」


続けてミアリーは言う。


「ここでは今から、編入生の方への説明ビデオを流します。ご一緒に見たい方はこちらに残ってくださっても結構でございます」


その言葉が終わるより早く何人かは講堂を出ていった。多分訓練場に行くのだろう。


「では、あなた達はお好きな席に着席なさってください。」


「どうする?ツバサ君」


ツバサ君を見ると、近くの席に目を向けていた。


「僕はそこの端が良いけど、園田さんはどうかな?」


ツバサが選んだのは入り口から一番近い所だ。


「うん、私もそこで良いよ。そこにしようか」


ツバサと共に入り口近くの席に腰を下ろす。すると頭上に影が差した。ミライが顔を上げるとユアンが立っていた。


「おはよう二人共、僕たちは少し訓練場に行ってくるから、また後でね」


「ひぇっ、あ、おはよう。」


「おはようユアン、うん。また後でね」


言わずもがな最初がミライで次がツバサの挨拶である。入り口ではエリカとライアンがユアンを待っている。


(煙出てるのエリカちゃんからなの?大丈夫?)


ミライは頭から煙を出すエリカに少し引いた。


二人の元へ行くユアンの背中を眺めて居るとユアンはくるりと振り向いてこちらに何か言っている。少し距離が有ってよく聞こえないが唇の動きは


が・ん・ば・っ・て・ね。


(頑張ってね?なんで今?………何を頑張るの?)


ミライは首を傾げた。そんなミライの反応を見てユアンはにこりと微笑むとそのまま三人で教室を出ていった。


『頑張ってね。』


ユアンの言ったその言葉の意味はすぐにわかる事になる。


講堂に残ったのはミライとツバサ、あと後ろ方の席でローブをすっぽりと頭から被った奴。顔は見えていないがミライはこのキャラを知っている、あまり関わりたくないキャラだ。なのでそちらを見ないように意識する。


あとは寝てるにゃん子。教室に居るのはその四人だけである。他は皆出て行った。


少しすると、講堂が薄暗くなり目の前に巨大なスクリーンが現れた。そして映像が流れ出す。最初は寮のルールとか食堂の使い方など普通の紹介映像だと思ったが後半は、はっきり言って最悪だった。


魔物に襲われる人、生きたまま食われる人、焼ける町、村。戦場の映像が無修正グロ画像満載でお届けされたのである。


前半の紹介映像は20分ほどであるのに対し、後半は2時間みっちりグログロのオンパレードだった。あえて酷いところを抜粋したとしか思えない編集に、終わった頃にはミライはゲッソリしていた。にゃん子も途中で起きてバッチリ映像を見てしまい顔色を悪くしてえずいている。


「うおえええええええええええ!!!!!」


幸いな事にあまり朝を食べてなかったのでにゃん子は声の割に胃の中身をリバースする事は無かった。


(朝ごはんおにぎりだけで良かったですね。)


ミライは生暖かい視線をにゃん子に送った。








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