第2話 高校生活は自己紹介から始まる

俺は、大橋良太。今日から名門校に通う一人の高校生だ。


入学式を早々に終え、俺は一人、イメージトレーニングをしていた。それもこのあとあるであろう自己紹介に備えて。


自己紹介。それは、高校生活が本格的に始まる上で切っても切り離せないものだ。これを失敗すれば、ボッチが確定する。俺の場合。


俺は小学生の間、勉強一辺倒で中学生の頃も最初は部活に入らず、勉強していた。俺が部活に入った頃にはグループはとっくにできあがっており、俺が入る余地もなく、中学3年間ボッチで過ごした。


でも、高校生となった俺はボッチを卒業したいと思っている。そのためにも自己紹介の失敗は許されない。


それでこんなことをやってみろ。


「お、大橋、りょ、良太、でしゅ。よろしくおねがいしましゅ!」


完全にボッチ確定だ。人前で話すことに慣れてない感じがプンプンするし、中学のとき、ボッチであったことがクラスメートに露見することにも繋がる。それは絶対に避けねばならない。


(そういや、じいちゃんがいつか忘れたけどアドバイスをくれたんだよな)


俺を無能だなんだと唯一言わなかった偉大なる祖父のアドバイスは、それはもうってくらいに役立つものだ。


俺はいつかのことを思い出す。あのとき、祖父は言っていた。


『自己紹介というものは、社会の扉を開くことだ。その扉を開くことには誰だって緊張する。だが、忘れてはならない。社会の扉を開くときには―――――――――――社会の窓を閉め忘れるな』


ダメだった!!!!!!!!!!!!!


社会の窓を閉め忘れるって今どきの男子高校生にいるわけがない!開けてたら、ただの露出魔だから!


クソっ!今回はじいちゃんのアドバイスは使えない。こうなれば、観察だ。


俺は大橋という名字であるからある程度の猶予がある。それは、前の人の自己紹介を参考にできるということだ。前の人が話したことを元に俺の自己紹介の内容を完成させるんだ。そうすれば、友達たくさんの楽しい高校生活を送れるに違いない!


俺は真摯に前の人の自己紹介を聞いた。


「あーしは、赤坂ようこ。よーねぇと呼びなさい」


·············?


何、今の?これって自己紹介、だよね?えっ、何この学校ヤクザみたいなのいるのか?


いやいや、落ち着け。まだ一人目だ。一人くらい変わったやつがいてもおかしくはないはずだ。切り替えろ、俺。


二人目の自己紹介。


「私は、芥川舞子と言います。趣味は――――――」


そうか、趣味だ。趣味を言わないとやっぱ自己紹介じゃないよな。


「趣味はカバディをやることです」


···········ん?


か、カバディ?それって確かカバディカバディいいながらなんかやるやつ、だよな?それが趣味かぁ。趣味、読書ダメなやつか?


「伊藤響です。趣味は――――――」


お、趣味がまたきた。


「趣味は、筋肉に語りかけることです」


はっ?


「筋肉は、寂したがりやなんです。常に語りかけてあげなければ泣いてしまいます。泣き止ませるためには 、語りかけなくてはなりません。語りかける方法は―――――」


なんか語りだしたんだけど。これは、さすがにボッチ候補じゃないのか。ボッチは自分の好きな話になると饒舌になるからな。俺だとラノベとか漫画とか。····なんかこう考えると俺はオタクと思われてしまうのだろうか。


俺は隣近所の席に座るクラスメートを見てみた。


「ふむふむ。なるほど。確かにそうだね。筋肉は語りかけることで大きく成長する、実に興味深いね」


「語りかけてくれないと寂しいよね。分かるよ」


··········なんでだろ、この疎外感。俺、変なのか?


「ええっと········大橋くん。自己紹介を」


結局、何も得られず自己紹介の番がやってきてしまった。


俺は立ち上がって、


「大橋良太です。これまで友達がいなかったので高校では、友達を一人でも多く作りたいです。よろしくおねがいします!」


パチパチパチパチパチ。


拍手の音が聞こえた。


「大橋!俺とソウルフレンドになろうぜ!」


さっきの筋肉くんに声をかけられた。


「ああ、よろしく」


俺はそう言って手を握った。その手はなんかすごい細かった。


(ほんとに筋トレ趣味なんかな?)


少し疑問に思ったこともないけど友達が一人できた。これは、いいスタートが、


「鬱陶しいわね、男同士で手を握り合うなんて。ほんと、ありえないわ」


俺の後ろの席に座る女が俺と筋肉くんを冷たい目で見ていた。


「加藤雪女ゆめ。一年間、よろしく」


俺はポタポタ汗が垂らしながら雪女の自己紹介を聞いていた。


加藤雪女。俺の幼馴染みである。どういう縁か。

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