第12話 天使の存在は心の傷すらも癒やす

「はぁ」


俺はため息をつきながら下駄箱に靴を入れた。昨日あまり寝れていなく、寝不足であることも関係しているが、一番俺が辛いと感じていることは唯一。諏訪さんに振られたことだ。


✖そもそも大橋は告っていないため、振られてはいない。


それに俺は大きな勘違いをしていた。諏訪さんに好かれていると信じ込んでしまったことだ。実際は諏訪さんは俺の事をなんとも思っていないのに。もうなんか学校に行く気が失せたな。学校にはもうついているんだけど。今から家に帰るか?


「はぁ」


「どうかしたんですか、大橋くん」


「いやなんか、今日あんま調子がよく······って、諏訪さん!」


俺は隣に立つ諏訪さんに気づくと驚きの声をもらした。諏訪さんはニコニコと俺を見ていて、俺の傷ついた心が癒やされていくのを感じる。


(そうか、これが愛か)


✖いや、違う。


「体調が良くないんですか?」


「ははっ、諏訪さん。俺の体を舐めないでいただきたい。そんじょそこらの菌では風邪をひかないように俺の体はできているんです。こう見えて俺はインフルエンザにかかったことがないんですよ」


俺はそう言って諏訪さんに笑いを取った。諏訪さんは上品に笑っている。フフフって笑い方だ。ギャハハっ!って笑い方じゃない。ギャハハっ!は下品な笑い方だし女子の笑い方じゃない。こんな笑い方している女子は男女かゴリラ女だ。


✖それは偏見である。笑い方など人それぞれ女子の笑い方も同様である。

大橋は女子の笑い方に対してある種の先入観、偏見を持っている。それの影響は週刊少年ジャンプにて連載をしていた『食戟のソーマ』の薙切えりなの影響が大きい。ギャップのあるあの可愛らしい笑い方に大きく憧れたのだ。現実はそうではないということに気づかず。


俺と諏訪さんは教室までそのまま歩いていくと筋肉くんと眼鏡くんに会った。


「よう、二人とも!」


「伊藤くん、眼鏡くん。おはよう」


「おはよう」「おはようさん」


筋肉くんと眼鏡くんは少し眠そうであった。昨日何かしていたのだろうか。


「なんか眠そうだな。どうしたんだ?」


「いや、昨日ボリビル選手権がテレビでやっててな。俺も目標にしているからさ、見てたんだよ」


·······なるほど。ボリビルダーを目指している筋肉くんはそういった番組を見て今後の自分の筋肉への意識改革を促しているのか。いや、筋肉くんがボリビルダーを目指しているの初耳だな。


「僕は、ロジカルシンキング部で今やっている議題に向けて、カタカナ語の勉強をしていたんだ」



········なる、いや、分からん。そもそもロジカルうんたら部のやっていることが分からないし、なんでカタカナ語の勉強をする必要があるのかも分からん。


「なるほどな。ロジカルシンキング部ではやっぱカタカナ語、必須だしな」


必須なの?初耳なんだが。


「そうなんだよ。僕はブレストをやっていく上でもっとsuggestionをquicklyにanswerしていきたいしね」


もう何言ってんのか、わけわからん。急に英語まじりに会話しだしたし。これはもうお手上げだ。


「大橋くん」


俺の耳元で諏訪さんが呟いた。俺は諏訪さんに息を吹きかけられ、『あはん』と言いそうになったが、なんとか踏みとどまった。諏訪さんの耳に息を吹きかける手法、マジサイコーっす。


✖息を吹きかけてなどいない。諏訪さんは大橋にだけ聞こえるようにと考え、耳元でボソリと呟いただけである。


「諏訪さん、どうした?」


「二人の話していることがよく分からなくて········大橋くんになら分かるのかなって思ったのだけど········」


「悪い、俺にも分からん」


ここで嘘でも分かると言えればいいが、諏訪さんには嘘をつきたいとは思わない。諏訪さんのような天使の存在にはこれからも関わり続けたいし、あわよくば付き合いたいと思うのは男の本能だろう。アイドルと同じだ。アイドルに憧れ、夢の中で結婚しているなんてよくある話だ。俺なんかアイドル8人と結婚したぞ。


でも、いつかは大事にしたい、一緒にいたい。そう思えるような人に会いたいとは思う。










ちょっとした解説。


「そうなんだよ。僕はブレストをやっていく上でもっとsuggestionをquicklyにanswerしていきたいしね」


日本語訳:そうなんだよ。僕はブレインストーミングをやっていく上でもっと提案を素早く出していきたいしね

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