第33話 絶望へのカウントダウン3 (加藤雪女視点)
目の前に飛んでくる何かがあることは認識していた。しかし、頭でわかっていても体は動いてくれなかった。だから、私のせいで良太はけがを負った。見ればすぐにわかる。良太は左手を骨折していた。
すぐに陸上部の顧問の先生と保険の先生が駆け付け良太は病院へと連れていかれた。
「お、俺は悪くねぇからな!」
ハンマーを投げ、良太にけがを負わせた当の本人は責任は自分にはないと言って周囲からブーイングを受けているが、そんなことはどうでもいい。
私は荷物をまとめるとすぐに良太が向かった病院へと走った。
◇
病院についたものの良太がどこにいるのかわからない。先生たちが付き添いでいるとはいえ、ずっとその状況でいるわけにはいかないだろう。良太の家族関係は歪だ。歪んでいると言える。家族へ連絡を学校がしたとしても来るわけがない。良太がどうなろうと知ったことがないと言うだろう。あんなクズが家族だなんて知られたら良太は絶対に苦しむ。
だからといって私が行ったところでどうなる?
あれ?私なんでここに来たんだろう。役に立てることなんか一つだってないのに。私は一体何をしているのだろう。衝動でここまで来たけど私には何ができる?大会が近づいていると知っていながら良太に怪我を負わせたような私に。
そもそも私が陸上部に入ったのが間違いだった。私がいなければ良太は怪我なんかしなかった。私のせいで、私のせいで、私の·········
「加藤?」
はっと私は顔を上げ右を見た。そこには良太が立っていた。左手は包帯で巻かれている。
「心配かけて悪い。でも、この通り無事だから。それより加藤は怪我してないよな?女子に怪我を負わせたら切腹もんだってじいちゃんが言ってたから」
どうして··············
「どうして·········」
「どうしてって、そりゃ気になるだろ。加藤とは長い付き合いだろ?怪我してたら心配するのが普通だろ」
違う。そうじゃない。私のせいで怪我したのにどうして私を責めないの?お前がいなければってそう言ってよ!そうすれば私だって··········
言いたいことはたくさんあった。きっと良太のことだからそんなこともお見通しなんだろうけど。けど、良太は優しいから知らないフリをして楽しげに話しかけてくる。
陸上部の顧問の先生と保険の先生が歩いて私達の方へと来た。
「あら、加藤さんも来てたの?災難だったわねぇ。でも、大事に至ってないから、ね?」
「大橋、とりあえず、今後のことは後日話し合おう。部のゴタゴタは俺の方でなんとかしとく」
「よろしくお願いします」
良太は顧問の先生に一礼すると私の手を取って「今日は帰ります」と言うとさっさと病院を後にした。
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