第34話 人はミス一つで強くなる、かも?

ある程度、病院から離れると俺は加藤の手を離した。加藤が何を考えているのか俺には手に取るようにわかった。立場が違えば俺も加藤のように思い悩んだだろうから。

とはいえ、俺は加藤に何を言えばよいだろうか。今回の件はきっと加藤にとってある種、トラウマとなってしまっている。マネージャーを辞めるなんて言い出すかもしれない。それは俺にとって困る。これまで練習を支えてくれていたのは加藤だし、俺が〝しんどい〟とき隣にいてくれたのも加藤だった。


マネージャー辞めないでくれ


これは違うな。


気にするな


こんなん言われても気にすることは気にする。怪我を負わせてしまったと思ってる相手に対して気にするな、なんて言えるわけがない。なら、


「加藤、少し駅まで距離あるし歩かないか」

「········う、うん」


無言の中で俺はどう話を切り出すかを考えていた。たらればをしたところで意味はないし、深刻そうに話すのはキャラじゃない。


「··········加藤はある程度、事情を知ってるから言うけど、顧問から俺の家族に電話をかけたそうだ」

「·············」

「んで、俺のじいちゃんが出てくれた。話を聞いてじいちゃん、びっくりしてたみたいなんだよな」

「··············」

「でも、俺は後悔してない。同じことがあれば同じことをするだろうから」

「どうして?私なんかが怪我したって·······」

「俺が気にする。今回の件で一番の大ヘマしたのはあのハンマー投げのヤローだ。加藤じゃない」

「············」

「そんなこと言っても、納得はいかないよな。だからさ、もし俺が困るようなことがあったら手を貸してくれ。罪悪感に苛まれて何も考えられなくなるよりまず体を動かしたほうがいいだろ?俺は加藤を責めたりなんかしない。あとは、加藤の問題だ。加藤が今回のことにどう折り合いを付けていくかが肝だ。それは加藤にしかできない」

「折り合いを、つける」

「人間誰しも妥協しながら生きてる部分ってあると思うんだ。何でもかんでも完璧な人間なんていやしないんだから」


何でも自分でやれて周りからも尊敬される、そんな完璧超人がいるとするなら、きっとそれは一つの〝不幸〟の始まりだろう。

俺のせいで、私のせいでその人が怪我をしてしまったらどうしよう。そう考えて周りから関わろうとする人がきっといなくなるだろう。そうすると、いずれその人は孤立する。

あるいは、周りから完璧であることを求められるあまり自分を追い込みすぎて病んでしまうかもしれない。


何もかもができる人など俺はいないほうがいいと思う。できないことも他人と手を取り合い支え合いながら一歩一歩進んでいく。きっとそのほうがいい。むしろ、そこから得られることがたくさんあるはずだ。


「どんなに天才だと言われてもそいつだって一人の人間で、失敗だって間違いだってする。それを世の中の人は過剰に責め立てたりするけど俺はそれこそ間違ってると思う。代表的なのは芸能人とかかな。不倫とか犯罪とか許されないこともあるけど、一つの過ちに対して他人の言葉や流れに乗っかって責め立てるのは間違ってるだろ?

加藤を責めるようなやつが今後、現れたとしても俺は加藤の味方だ。何があっても、な」

「う、うん!」


加藤は涙を流しながらも頷いた。



俺はなにか一つでも加藤の助けになれただろつか。なれていたとしたら、俺はこれ以上に嬉しいことはない。大会には出られないだろうけど、それでも来年以降もあるし、今年だって県大会予選だけしか大会がないわけじゃない。俺がやってきたことが無駄になったわけじゃない。


俺はもう〝無能〟なんかじゃない。

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俺と雪女 みずけんいち @mizukeniti

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