第10話 才能の開花には個人差がある
俺は教室に到着した。まだ筋肉くんと眼鏡くんは来ていないようだ。もしかすると、部活に行っているのかもしれないけど。
「あっ!大橋くん、おはよう!」
諏訪さんが俺にそう声をかけてきた。俺もすぐにおはようと返す。俺はリュックの中から昨日、諏訪さんから渡された原稿?を返す。
「これ読んだよ」
「ほんと!ありがとう」
諏訪さんの笑顔、マジサイコーすっわ。
天使。諏訪さんは天使なのかもしれない。でも、よく考えると天使って死んでね?死んじゃってね?気のせい?それならいいけどさ。
「それで·········どうだったかな?」
「··········」
俺はこれにどう返すのが最善なのだろうか。嘘でも面白かったと答えるのがよいのか?しかし、俺は諏訪さんに頼まれた側だ。嘘をつくのは気が引ける。しかし、ここでバカ正直につまらないと答えるのも問題がある。俺はどう答えるのが良いんだ?
「·········そう、だよね·······。私には文才がないから向いてないって何度も言われてきたし·········」
「えっ?」
諏訪さんは目に涙をためながらそうつぶやくと、
「もう、大橋くんには頼まないね。つまらないもの、読ませちゃってごめんね」
そう謝ると諏訪さんは教室から出ていこうとした。俺は無意識に諏訪さんの手を握り、教室から出るのを妨げていた。
「―――――――――それは違う」
諏訪さんのさっきの目は昔の俺とそっくりだった。当たり前にできることもできなくて、無能と呼ばれて。すべてを諦めている目だった。
でも、この世の中には無能なんて存在しない。誰にでも才能が何かしらあってそれを見つけるのが人生なのだとじいちゃんが言っていた。
才能の開花には個人差がある。
努力しても結果がでない。頑張っているのに報われない。そんなことは絶対にない!
「確かに諏訪さんの書いた小説は面白くなかった」
「···········ッ!」
ひどいことを言っているのは知っている。俺だってこんなことを言われれば傷つくし、泣きたくなる。
「でも、俺は次回作に期待したい!今回はダメでも諦めずに書き続ければ必ず面白いものがかけると思う」
努力は必ずしも結果となって帰ってくるとは限らない。
運動で例えるとしよう。
運動でのトレーニングは筋トレやストレッチをした後にやることが多い。それはきつくて、逃げ出したい気持ちになることだってあるはずだ。それでも諦めずにやるのは結果を出したいから、これに尽きる。
もしかするとスポーツでの結果はダメだったかもしれない。必ずしもいい結果を出せるとは限らないから。では、今まではムダだったのか?そんなわけがない。ムダなんかじゃない。これまでの地獄のような鍛錬を乗り越えたことがムダなはずがない。結果としてでなければ認めないなんて言う人もいるが、それはその人の努力を見ていないやつが言うセリフだ。そんなやつにムダなんて言わせない。俺がこれまでやってきた道のりをバカになんてさせない。
なら、努力は一体何になって帰ってくるのか?それは、体力が練習の努力によってついたとか、筋肉がついたとか。目には見えないものとなって努力は帰ってくる。結果として帰ってくるのが一番だが、必ずそうなるとは限らない。でも、自分に帰ってきたものは自分へプラスになるもので努力して手に入れたものだ。
だから、人は言うのだ。
努力は必ず報われると。
「俺で良ければ今後も諏訪さんの書いた小説を読む。面白いとかつまらないとかそんな誰でも言えるようなことだけじゃなくて、ここをこうしたら良くなるかもしれないってところまで言うつもりだ。だから、諏訪さん、諦めるな。今頑張れば必ず報われるから」
無能と呼ばれた俺はじいちゃんにそう言ってもらって努力して、そして、報われたから。諏訪さんにも出来ると信じているし、出来ると確信している。
「今回の話だと、目新しさがなかった。有名作品のネタを使うのはいいけど、そこに諏訪さんオリジナルがあるとより良くなると思う」
「うん。············大橋くん、ありがとう」
諏訪さんは顔を赤らめながらそう俺に言った。
◇
私は恥ずかしかった。大橋くんに涙を見られてしまったことが。そして、それ以上に嬉しかった。私のことを真正面から見てくれたから。
でも、涙を見られてしまったのは恥ずかしい。
◇
俺は確信していた。
それは。
(ククククッ、俺にも遂にモテ期が来た!)
✖それは勘違いである。諏訪さんは大橋のことをいい人とは思っているが、恋愛感情は持ち合わせてはいないのである。
そして、大橋は諏訪さんに彼氏がいるという校内で大きな噂となっていることを知らない。
つまり、大橋は残念な男なのである。
※ ✖はナレーターの言葉です。
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