第20話 マネージャー2
昨日はやらかしてしまったわ。やはりダメね。哲学を考えてしまうのは。人を思考の奥底まで連れて行くのだから。
⚫テストの点数について悩んでいたことを哲学とは言わない。ただの残念な人アピールである。
今日はなんとしても言うのよ。
私は前の席に座る良太を睨みつけながら、心にそう言い聞かせる。
そうしていると、良太の方から私の方を向いてきた。
「何?」
「いや、その·········なんだ。何か用でもあったか?さっきから視線を感じたんだけど」
「気のせいじゃないかしら」
「そ、そうか」
良太はそう言うと部活の行く用意に戻った。私はそれを見てホッと息をついた。私の視線に気がついているとは思わなかった。良太のことだから、気づいてなくてさっさと部活に行ってしまうものかと思っていた。
でも、これはチャンスだ。良太はまだ用意が終わっていない。これを機に一気に状況を変えていくのよ!
「りょ
「大橋くん!部活始まっちゃうよ!」
「悪い、池。今から行くよ」
「ちょ、りょう
私の声はクラスメイトの声にかき消されて良太には届かなかった。良太はすぐに用意を終え、教室から走っていってしまった。私の手は空を切った。
うそ、でしょ?うそだと誰か言ってよ!
そんな私の気持ちなどだれも知らない。
現に騒がしさがいっそう強くなった。
私は顔をうつむかせながら、教室を出た。
◇
どうして、肝心なときに声はでないの?
なんでいつも日和るの?
私のそんな問いかけに対して答えてくれる人は当然のようにいない。それもそのはずだ。私は今、一人寂しく歩いているのだから。たとえ、一人でなくとも分かってくれる人はいないだろう。あれだけ傷ついていた幼なじみに手を差し伸べられなかったのだから。これはそのバツなのだ。一生をかけて償わなくてはならないバツなのだ。
私は家の近くにある公園に入った。昔、良太と遊んだことのある公園だ。遊戯が3つほどあり、良太と一緒に遊んだ。
森も多くあって、よく日の強い日にはその陰で二人で喋ったりしてた。
でも、それはすべて過去のことだ。今はもうありえない話だ。
私の目から涙がこぼれてきた。ポタポタとそれは地面に落ちていった。
私はやっぱりダメなんだ―――――。
『泣くな、加藤!』
私の頭の中からそんな声が聞こえた。
『諦めなかったら、なんでもできるってじいちゃん言ってたし。だから、泣くな。泣くのは勝負に勝ったときにしかしちゃダメなんだ!』
昔、良太が泣いていた私に言ってくれたことだ。そうだ。涙は勝ったときにしか出しちゃダメなんだ。
諦めるな、私。私はまだやれる。
「私になら、できる!」
私は公園の中でそう叫んだ。
叫んだ後、それを見ていた小学生に『何言ってるの?』と無邪気に聞かれた。死にたくなるくらい恥ずかしかった。
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