第9話 黒い表紙の本を見つけたけど、私どうしたら!?
翌日からお母さまには「勉強のため本を借りたい」と、書庫に入る許可を取って黒い表紙の本を探しているのだけどいくら探しても見つからない。
すでに1週間ほど経過していて私は焦っていた。
見れば分かるって使者の妖精さんは言っていたけれど、全然分からない!
正直、お母さまの書庫の本は昔から読んでいるのでほとんど読みつくしている。
大好きな本を何度も読みたくて借りることはあっても、あまり毎日頻繁にとなると何かおかしいとそのうち勘ぐられてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしている。
ここはもう、魔法の祝福の先輩でもあるエラに相談だ!
「エラ」
声をかけてエラの部屋をノックすると、中から顔を出したのはアナスタシアだった。どうやらエラと一緒に勉強をしていたみたい。
「お姉さま。どうしてこちらへ?」
アナスタシアが塩対応だ。そういえばエラの嫌がらせ事件をきっかけに、エラにべったりでアナスタシアを構ってあげていなかった。
魔法の本探しに夢中になっていたこともあって、特に最近は顔を合わせる頻度も下がっていたのは否めない。
もちろんお勉強などはしっかり見てあげていたのだけど、恋愛ゲームで言うと親密度が下がっちゃってる感じかな。可愛いお顔で睨まれて……これはこれでありだわ。
「ナーシャ、エラと一緒にお勉強していたの? 偉いわ」
頭を撫でて褒めると、アナスタシアは満足気な表情を浮かべる。
エラはそれを羨ましそうな顔で見ている。うう、そんな顔で私を見ないで! 可愛い! 大好き!!!
恋愛とはちょっと違う感情なんだけど、エラを見ていると幸せな気分になる。これが母性本能ってやつなのかしら?
「お姉さま、エラに何かご用がおありではなかったの?」
エラとほんの少し見つめ合う恰好になっていた私に、アナスタシアがまた不満そうに声をかけてくる。
「あ、ええ。そうね。少しお伺いしたいことがあったのですけど、お勉強の邪魔をしてはいけないから終わったらまた伺うわ。よろしくね、エラ」
「私が一緒だと出来ないお話かしら?」
「そういうわけではないのだけれど」
なんだか本当にあたりのキツいアナスタシアがふくれっ面をしながら聞いてくる。
思春期突入しちゃってるのかしら? もう、可愛いんだから!
などと思いながら、可愛いアナスタシアをギュッと抱きしめて失礼しますねとドアを閉める。
本当に妖精さんの言う黒い表紙の本というのはあるのだろうか?
首をかしげながら廊下を歩いてアナスタシアの部屋の前まで来ると、なんだか部屋の中が凄く気になる。
胸騒ぎのようなザワザワとする感じ。
本人が不在なのに、部屋の中を覗くなんていくら姉妹でも流石に……ね?
中を見たいという衝動と葛藤しながらもなんとか一旦我慢して、自室に戻る。
ベッドに腰掛けて、さっきの衝動は一体何なんだろう?と考えてみるが分からない。
アナスタシアが部屋に帰ったら聞いてみるしかないよね。私も自分の宿題終わらせちゃおう!
そんなに時間もかからず終わった宿題ついでに、魔法の本をどう探すかを思案していると扉をノックする音が聞こえた。
「エラ?」
扉を開けると、そこにはエラの代わりにアナスタシアが立っていた。
聞くと、エラが少し体調が悪いとのことでお話はまた明日にでもということだった。
「具合が悪いなんて心配だわ。あとでりんごジュースでも差し入れしようかしら。あ、お手伝いさんにも食事を病食にしてもらわないといけないわね」
心配してあれこれ動こうとすると、アナスタシアがそれを阻止してくる。
「お姉ちゃま、エラは寝たいと言っていたからゆっくりさせてあげて!」
学校に通う前に矯正したのだけれど、家で甘えたいときに出てしまうアナスタシアの「お姉ちゃま」。
そっか。甘えたいのか。じゃあ甘えさせちゃおう! ついでにアナスタシアのお部屋にも潜入だ!
「そうなのね、エラは大丈夫なのかしら。横になって早く治るといいのだけれど。
ところでナーシャ、久しぶりにナーシャのくまさんを見せてくださる?」
ナーシャのくまさんというのは、ナーシャがもう少し小さい頃にお母さまが買ってくださった私とお揃いのくまのぬいぐるみのことで、ドリゼラの記憶ではくまさんを使って姉妹で一緒に遊ぶことも多かったのよね。
最近はエラも居るのであんまり二人でくまさんでは遊んでいなかったし、丁度いい口実になると思う。
思ったとおり、ぱあっと笑顔になったアナスタシアは喜んで!と二つ返事で部屋まで腕を引いていく勢いだ。
「私のくまさんも一緒に行きたいって。少し待っていてね」
そう言ってチェストの上に飾ってあるくまさんを抱くと、私はアナスタシアに手を引かれて部屋に無事入ることができた。
部屋に入ると何だか背筋がゾワっとする。
いつもと同じピンクで彩られたアナスタシアの部屋なのに、目に見えない何か黒いものを感じる。
「ナーシャ、なんだかこの部屋は寒いように感じるけれど……日当たりは良いわよね?」
「寒くなんてないですわ。お姉さまも少しお風邪をひかれているのでは?」
いそいそと自分のくまのぬいぐるみを抱き上げるアナスタシア。そのくまのぬいぐるみを見て、私は悲鳴を上げそうになる。
ボタンで出来た目は取れかけていて、身体は裂けて綿が出ている。
手足もちぎれかけていて、とても大切に取ってあったように見えない。酷い有様だ。
「ナーシャ、そのくまさんどうしたの?」
「何かおかしい? お姉ちゃま。くまさん毎日大切にしてたらこうなっちゃったの」
「そうなの? 私が治しましょう。それではあまりにも可哀そうだわ」
お裁縫なんて正直苦手だけど、それにしても目に余る状態だった。
くまを渡すよう差し出した私の手を払いのけ、アナスタシアは勉強机の引き出しを開け何かを取り出した。
「ううん、このご本使って治すの! お母さまの書庫にあってナーシャが見つけたの! でも難しくてほとんど読めなくて。最初は目を治そうと思ったのに、適当に書いてある言葉を読んでいたらくまさんがこうなっちゃったの」
そう言ってナーシャが取り出した本は、私が探していた黒い表紙の本だった。
その本からは禍々しい何かを感じる。見るだけで背筋がゾッとする。妖精さんが見れば分かると言っていたのはこういうことだったのね。確かにこの気持ち悪さは異常だわ。
本の表紙には「黒魔術」と書かれている。まさかお母さまは黒魔術に手を染めようとしていたの!!?
きっと手に入れたのは一番心が荒んでいる頃だったのだろうけど、これは流石にちょっと……コワイ。
「ナーシャ、その本は……」
言いかけた私の目の前でアナスタシアの首がカクンと力を失ったようにうなだれる。ギュッと握ったクマはひしゃげ、アナスタシアの目に生気が宿っていない。
綺麗に巻いた髪はザワザワと広がり、胸に抱いた本から出る禍々しい黒いオーラのようなものに包まれていく。
「ひっ!」
思わず声をあげた私に向かって、アナスタシアが近づいてくる。
っていうか、心なしか足が宙に浮いてません!? 超絶コワイ!
私、ファンタジーは大好物だけどホラーは苦手なのよ!
この先、私どうなっちゃうの? 誰か助けてひぃん!! 妖精さぁぁぁん!
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