第16話 攻略対象③リベンジ:難攻不落のトレメイン婦人を攻略せよ!③

「まあ素敵! 綺麗な色ですわね!」



 学校に戻った私は、無事に思念体を回収して入れ替わり、キラキラ輝く笑顔の妹たちと買い物を楽しんでいる。

 私は黄緑色、エラは水色、アナスタシアはピンクの毛糸をそれぞれ購入した。

 お母さまとお義父とう様、それからこっそりルシファーの分の毛糸も買って店を出る。

 ルシファーは思考が読めるから、内緒にしてもバレちゃうかもしれないなと思いながら、どんな編み方にするかを決めるためにカフェに立ち寄った。

 エラとアナスタシアは、パンケーキを頬張りながらああでもないこうでもないと相談し、少し簡単な図案でお揃いで編もうと決めたようだ。

 この二人を眺めているだけで私は幸せだなあ!と、ニコニコしながら二人の様子を脳裏に焼き付ける。


 ああ、スマホが今ここに欲しい! 思い出を写真にしたい!!

 脳裏に焼き付けてあとで思い出すしか方法が無いのがとっても残念。


 異世界物だとチョチョイと作れる人が居たりするけど、私は機械については疎いから作ることなんてできないのよね。

 ルシファーに魔法で何とか出来ないか聞いたけど、構造が分からなければ等価交換が出来ても再現は無理なんだって。

 魔法は万能じゃないんだなって、改めて思った出来事だった。


 ふと、後ろのテーブルから何だか話が聞こえてきた。

 どうやらお母さまの事を話してる……?



「ほほほ、上手くあの女から技術を盗めたおかげでお店は繁盛して大成功ですわ」


「取り入って通い詰めたと聞きましたわよ。それですぐにお店を出されたのだから大したものですわ」


「まあ、嫌ですわ。あなた方だってトレメイン婦人から私の店へ乗り換えられたんじゃないの」


「私は最初に来てくれれば特別ケアが受けられると伺ったからですわ」


「私もですわ。特別ケアを受けたあと、次の施術がお安くなるのだから商売がお上手ですわね」


「それはもう! できれば続けていただきたいですもの。通っていただければ私も嬉しいですし」


「ところで最近乾燥がひどくて」


「あら、私もよ。何とかならないかしら? カミ-ユ様」



 カミーユという女が、どうやらお母さまの技術を盗んだ張本人らしい。

 後ろというのがいけない、顔を見ることができないじゃない!


 エラに負けないくらいの絶世の美女っていうのだから、お顔を少し拝見したいと思ってもお母さまは許してくださるわよね?


 お手洗いに行くと席を立ち、ちらっと「カミーユ様」とやらを拝見……ぐああああ!!!

 華奢な手足に真っ白な肌、金色の髪に大きな青い目と長いまつげ。スッと通った鼻筋。そしてぷっくりとしたバラ色の唇。

 整った顔立ちはまさにお人形さんと言っても過言ではない。


 あまりの衝撃に、私はヨロめいてしまった。こんな女性が世の中に居るのかと思う。

 お手洗いで鞄の中に居るルシファーと念話をしてしまうレベルだった。



『ねえ、ルシファー。あの女性は何なの?何なのあの美しさは』


『ねー! もし王子と年齢が近ければ、エラも危ういよね!』


『なんて冷静なの、ルシファー! あれに対抗するのはかなり大変だと思うんだけど。大丈夫かな?』


『大丈夫だよ、梨蘭りらは【持ってる】からね!』


『持ってるって何? 魔法のこと?』


『僕らの加護を受けているということは、既に梨蘭が強運を持っていると言うことさ。それはエラもだよ』


『そうなの? ありがとう。でも、これでは対抗策も難しそう。リピーター特典つけてるみたいだし』


『大丈夫だよ! あっちは使っている材料がすごく安価で雑なものだから、良い物を提供しているこっちが負けるはずないさ!』


『でも、綺麗な女性って誰もが憧れるもんね。うーん、どうしよう?』



 その場で良い案も浮かばないので、そのまま家に帰ると明日のお母さまとの打ち合わせの為に、思いついたままノートに書き出してみる。

 頭の中がスッキリするので、全部紙に思いついたことをとにかく全部書き出すのは、私にとって大切な行動のひとつだ。


 そういえば、この世界で意識が目覚めた時も紙に色々書き出したっけ。何だか懐かしいなあ。


 書き出した内容を整理して、良さそうな案をリストにする。



①口コミを広める → お母さまのお得意様の悩みを聞いて解決する(カウンセリング)


②肌の乾燥・保湿ケア → ミルク風呂、ハチミツパックあたりなら材料が手に入る?


③お持ち帰りケアの開発 → 家で簡単に出来るケア製品。入浴剤、トリートメントなどの販売か試供品の提供


④コースを作る → 特別な日のケアにという名目で


⑤チケット制にする → 5回で少し安めのお値段設定にして通ってもらう工夫



 ありきたりだけど、まだこの世界では使われていない手法だし。一旦、このあたりで絞って提案してみようと思う。

 一番良いのは、私の魔法で若返らせるだったんだけど、ルシファーに却下されちゃった。良い案だとは思ったんだけど、やっぱりダメみたい。


 翌日、お母さまに考えた提案をプレゼンしてみると、全て聞いたことが無い手法だと言って喜んでくれた。

 ちょっとした懸念材料もあって。

 特にお母さまは、あちらが安くしているのに材料費が上がるような施策ことは難しいと困惑した様子だった。

 私は材料費で価格が高くなっても、モノが良ければこちらに人が流れてくるはず!とお母さまに力説する。

 顧客は裕福な商人や貴族の方ばかり。少々くらいのことでケチる方は顧客にしなければいいのだから。

 どうしても安くというなら、お持ち帰りの商品瓶は一度買ったものを持ち込むと瓶代が割引になるとか、現代でエコと言われる方法を試してみようと言うと、それならばと首を縦にふってくれた。


 商品開発についてはスグにとはいかないので、私が魔法で何とかすることにしている。

 手で作ることが出来る内容だけど、大量に作るとなると流石に工場を探さないと大変だものね。

 利益が出れば、工場は後からゆっくりと探せばいいのだし。

 そこはルシファーも大目にみてくれた。

 オリーブオイルやハチミツや卵といった自然素材を、一番いい配合になるようにイメージして魔法でトリートメントを作り上げる。髪質によって使い分けるので瓶の蓋を違う色にして目印にする。

 持ち帰り品はアルコールを防腐剤代わりに少し入れて、1週間以内に使うようラベルに記載しておいた。

 岩塩とハーブでバスソルトを作ったり、アロエで化粧水を作ったり。

 高校の時の友人がハマったことで、一緒に作っていた化粧品のレシピの数々を思い出しながら、7日分の材料をケア用品に生まれ変わらせた。


 保存するための冷暗所として、歴史の本か何かで見たことのある氷の冷蔵庫も魔法で組み立てる。

 木の枠で作られた箱の中に、氷を入れて冷やす方法。氷は水があればすぐに魔法で作れる……もうこれ魔法チートすぎるでしょ!

 物を作るクラフト魔法は等価の材料さえあれば、イメージだけですぐに出来上がるから最強だと思う。

 ガラスの靴を作りたいからと、できるだけ早く覚えた甲斐があったというものだ。



 私の用意した化粧品の数々を、1週間かけて私や妹たちはもちろん、お母さまやお手伝いさん、お客様の中から有志を募って試してみたけど、おおむね好評をいただけた。

 特に保湿ケアが好評で、ほとんどの方がこの季節はぜひ続けたいとのことだった。

 有志で参加してくださったお嬢様方には、試供品を1週間分お渡しすることで口コミをお願いして、仕込みは完了。


 さて、どうなったかと言うと。


 口コミ効果と高級志向のお客様というターゲティングが見事にハマって、10日ほどで「しっとり肌が手に入る!」と、ご婦人が殺到するほどの人気となった。

 保湿系の商品は飛ぶように売れるし、ケアは1か月先まで予約が入るという状態。

 やっぱり、どの時代でも秋冬の肌保湿についてはご婦人の共通の悩みだったみたい。


 カミーユのお店は低価格帯が合うお客様が通っているみたいだけれど、潰し合うんじゃなくて上手く棲み分けが出来たので良かったと思う。


 お母さまはというと……。

 使い込んだ資金の回収目途も立ち、すっかり自信を取り戻しているみたい。

 化粧品の作り方を教えて、資金が回収できるまではお母さまに自作してもらっている。

 無理なところは私も手伝うけれど。

 お母さまは元々努力が嫌いな人ではないから、自信が出たことで借金返済のためにと頑張ってるみたい。


 私と言えば、お母さまの目を盗んでこっそり部屋に忍び込み、お母さま秘蔵の黒魔術グッズを全部処分しておいたのだけど、そのことにすら気付いて無い様子だし今回こそ立ち直ってくれそう!

 このまま上手く行くといいなと思う。どんなに酷い事をする人でも、お母さまのことはやっぱり嫌いにはなれないもの。

 豪商だった本当のお父様が亡くなってから、お金の面では苦労しながらも女手ひとつで私たち姉妹を育ててくださったのだから。



 今回のことでまた少しズレてしまっただろうお話ストーリーの先にある、エラの未来のためにも。

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