第12話 王子様と一緒! この先、不安しかないです!

 どうしてこうなったのか、誰かおしえてください。(ぴえん)


 美しい黒髪の美少年、改めこの国の第一王子であるクリストファー様(愛称:キット様)が、ひょんなことから私を見つけて以来、私の瞑想を邪魔……もとい。見学と言う名の「その鍛錬を教えろ」攻撃に来ている。


 どうして王子様がこんな片田舎の学校にいらっしゃるのか不思議だったけど、見分を広めるために1か所につき7日ほどの滞在をしながら、国中の街や村を順番に訪問しているのだそうだ。

 私を見る目つきがなぜかいつも睨みがちの従者「サミュエル・フィンレー(愛称:サミー)」が教えてくれた。


 クリストファー様は「瞑想」を教わりたいと言う名目で、絶対にエラに逢いに来ているのは確定事項なのよね。

 いつもエラが一緒じゃないかとソワソワしているもんね。

 そういえば、実写の物語映画のストーリーでも狩りの途中でエラと出逢って恋に落ちるのだっけ。

 あのシーンは素敵だったなあ……。でも残念。

 エラは恥ずかしがって、クリストファー様が居る間は教室から出て来たくないと決意が固い。


 その代わりに私と一緒に居るのはアナスタシアだ。

 どうやらアナスタシアは初恋をした様子で、学校に居る間は私にべったりだった。

 くっついてきてくれるのは嬉しいけど、姉さまはとっても複雑な心境ですよ?可愛いアナスタシアが男性に恋だなんて! 10やそこらのがまだ早いと思うんです!!(親の気持ち)

 ハッキリ言って嫉妬なのよ! 可愛い私のアナスタシアがぁぁぁぁ!!!


 心の中は平穏ではないけれど、表情筋をしっかり鍛えている私は、アナスタシアがじゃれついているのを見て、ヒクつきながらも「笑顔で見守る姉」を通した。頑張った。私、偉い!


 そんなアナスタシアがご執心なのは、王子様の従者であるサミュエル様だ。

 王子様とは違ったタイプだけれど、こちらは王子様より少し年上のさわやか系美青年で、レディの扱いにも長けてらっしゃる。アナスタシアのじゃれつきにも笑顔で対応されている。

 そんなサミュエル様をアナスタシアは「サミー様」と馴れ馴れしく愛称で呼んだりしている。

 ぐう、負けないわよ!

 それにしても、なぜか私だけいつも睨まれてるんだけど。

 それって休み時間の間、私が王子様を取ってしまったからですよね、あなたも嫉妬ですよね、大変ですね私たち。ふふふ。


 サミュエルになぜか勝手に共感しつつ、私は今日も王子クリストファー様のお相手を務める。



「では、クリストファー様。目を閉じて心を少しずつ空にしていきます。息を大きく吸って、ゆっくり吐いて~! 心の中のものを出し切ります。吐き切ったらもう一度吸って、どんどん頭を空っぽにしていきますよ~!」



「私もそんなの知りませんけど」と心の中で思いながら、自己流の瞑想方法をインストラクターのように教える。

 クリストファー様が瞑想に入ったタイミングで私も瞑想に入り、家に居るくまのルシファーと思念でやり取りする。

 思念でのやり取りがこの短期間でスムーズにできるようになったのは、私の努力と名前を与えたことでルシファーの力が上がったことの相乗効果だった。

 何をしているかと言うと、今日覚える魔法の術式をルシファーが思念で伝えてきてくれるので、その理解と展開をイメージする訓練。


 王子様は普通に瞑想しているだけだけど、一応自分が戦って勝つ姿をイメージするようにとアドバイスをしてある。



 カラン・カラン



 予鈴が鳴り、今日のお昼の瞑想タイムが終わる。



「ドリゼラ! この瞑想をやるようになって、私はとても集中ができるようになりました。残りの滞在期間は残り2日ですが、もうしばらくよろしく頼みます」


「いいえ、クリストファー様のお役に立てて光栄ですわ」



 私は精一杯の余所行きの笑顔と声音こわねをフルに使ってお返事する。



「それから、私のことはどうかキットと呼んでください。親しいものは皆そう呼びます。あなたは私の瞑想の師ですからね。それから……」



 顔を赤くしたクリストファー様がモジモジしている。

 美少年の火照った顔って最高じゃありませんか?じゅる。

 クリストファー様の憂い顔を見ていると、少しでもよこしまな気持ちになった自分の頬を張り倒したい気分になってくる。



「それから、あの。初めてお会いしてからお姿を拝見できないドリゼラの妹は……いつお顔を見せてくれますか? この街を出るまでにもう一度だけお会いしたいとお伝えください」


「ええっと……はい。そのように伝えては居るのですが、エラは大変恥ずかしがり屋でして。何とか最終日までにお顔をお見せできるようお話しておきますわ」



 あれから毎日している別れ際のやり取り。

 エラは何度話をしても王子クリストファー様の話を始めると、私に抱き着いて「やめてください」と懇願するのよね。私は……役得なんだけど。うへへ。

 お義父とう様のような大人の男性しか面識がないので、仕方がないことだとは思うけれど。

 一国の王子の頼みを聞かないのは不敬でしかないし、将来エラの旦那様(仮)なのだから、少しは慣れて貰わないと困っちゃう。


 王子とその従者に別れを告げ、エラをどうしたものかと思案にふける。

 教室に居るエラは、普段通りとても楽しそうに見える。



 説得すると言っても、もう今夜しかチャンスは残っていないのに、どうしたらいいの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る