第5話 乙女たちかわいいかよ!待望の学校編入初日!

「行ってまいります!」


 私とエラとアナスタシアの三人がとうとう学校へ編入する日がやってきた。

 お母さまから強制的に引き離し、天使のような妹たちの性格が歪むのを阻止するための計画だったけど、実は私も楽しみにしていたのよね。

 なぜかって?

 ふふ……私の精神年齢は18歳。ということは、知識だけは同じ年齢の誰よりも豊富ということ。これは誰もが憧れる<勉強無双>状態! これは、モテるわよ……!


 ゴクリ。


 危ない! 天使の笑顔をまだ見ていないのに、ヨダレがあふれてくるところだった。

 一度はモテモテの人生って味わってみたいものよね!

 そんなヨコシマな煩悩にやられてる私の横で、エラとアナスタシアは少々緊張気味だ。

 朝からテンションが低い。

 今まで家からロクに出してもらえなかったこともあり、単純に街に出ることだけでも不安らしい。ほかにも同年代と上手くやっていけるか、勉強についていけるかなどなどの不安がどばーっと一気に襲い掛かっている状態だ。



「ナーシャ、エラ。顔がこわばっているわ。そんなお顔では笑われてしまうわよ?いつもの天使のような笑顔を姉さまに見せてちょうだい」



 優しく笑いながら二人に話しかけると少し緊張が解けたのか、エラもアナスタシアも笑顔を向けてくれた。

 なんてこと! 私の妹たち二人のこの天使っぷりは!!! 素直だし何と言っても顔がとっても可愛い(じゅる)! この笑顔を独り占めしていいのかしら!!!?

 ああ、いけない。姉としてもっとシャンとしなければ!



「心配なのはわかるけれど、あなたたちなら大丈夫よ。沢山お勉強したし、何よりその愛らしさは誰もを虜にしてしまうわ。何かあれば姉さまがついています。安心して勉強に励みましょうね」


「うん、お姉さま大好き!」


「あ、ナーシャ姉さまズルいです! 私もドリゼラ姉さまのこと大好きです!」



 はあ、何だこの幸せは。

 思わず頬も気もゆる~っと溶けたようになる。

 遡ること半月前。お母さまにメイク指導をしたおかげで、多少ではあるけれどお母さまは精神的な安定を保てるようになった。

 まだまだ不安定だけど、エラと一緒に勉強することも「学校のため」という名目で許してもらえるようになったのよね。コソコソ隠れて勉強しなくても良くなったのは本当に良かった。

 お母さまはメイクアップ教室を運営すると意気込んで、メイクレッスンのシミュレーションをお手伝いに来ているメイドで行っている。

 別の趣味を持つというのはやっぱり効果があって、大人の話し相手が出来た事もあって今まで執着対象だった私たちへの干渉がほんの少しだけど減ったように思う。


 順調、順調♪

 学校での生活が日本みたいだといいんだけど。お話の世界での学校はどんなかしら?


 私のワクワクの気持ちは学校に行くと一気に半分ほど削られた。

 まず、男女別棟での教育。

 これではモテない!!! なんてことなの!

 モテモテでウハウハ計画が~! 女の子ばかりっていうのもアリではあるけど、やっぱり一度でいいから男の子にモテてみたかった!!!

 妹二人は女の子ばかりということで、少し緊張がゆるんだ様子。うん。モテ計画は無かったこととしよう。エラとアナスタシアが天使の笑顔で居られるならそれで。


 この学校は1週間のマナー講習というのがあるようで、仕草や言葉遣い、文字の読み書きなどを全員に必ず教えているそうだ。

 そのためしばらくはエラとアナスタシアと同じ教室で学べるそう。

 これは嬉しい誤算だった。


 クラスも上級・中級・基礎の3クラスしかなく、色んな年齢の子がごちゃまぜで授業を受けている。私の想像していた学校とはちょっと違っていたけど、そこも面白いところだと思う。

 最初のミッションは全クラスを巡り自己紹介をすることだった。

 三人で各クラスで紹介を受け、自己紹介をしていく。

 必ず入室すると教室がざわつくのも仕方ない。姉の私から見てもエラとアナスタシアはとっても美しいもの!

 社交界デビューをしたら殿方の目は釘付け間違いなしのお墨付きというやつね。

 どうやら二人は一瞬で乙女たちのハートも射止めてしまったみたい。

 挨拶を覚えている娘はいるかしら?というくらい、教室に座っている少女たちは二人のことをうっとりとした表情を浮かべて見ているのよね。

 思わず「そうでしょう、私もいつも見とれて困るの!」と言いたくなってしまう。


 挨拶が済み、別室でマナーを教わってお昼休憩となった。

 お昼はお手伝いさんが作ってくれたお弁当があるので、お天気もいいし中庭でいただくことにした。

 風が心地よく、木陰でいただくお弁当はさぞや美味しいと思ったのだけど。


 どうしてこうなったの?


 レジャーシートを敷いたあたりで回りを乙女たちに囲まれることになった。

 皆、私たち姉妹を取り囲んでいる割にキャーキャー言いながら遠巻きに眺めているだけ……。

 これではランチを美味しくいただけない。

 きっと美人転校生と話をしたいけど、いいのかな?って感じかしら。

 奥ゆかしい乙女ばかりなのは素敵だけど、エラとアナスタシアが怯えているように見える。

 そりゃそうよね、耐性無いものね。

 ここはいっちょお姉さまがひと肌脱いであげるわ!



「皆さんもご一緒にいかが?」


「キャー!!!」



 悲鳴のような歓喜の声が上がるも、みんな照れて近付いて来ない。

 このままではお弁当が食べられないので、一番近い娘を手招きするとおずおずと近づいてくる。



「改めまして、はじめまして。ドリゼラです。あなたのお名前は?一緒にお昼をいただきましょう。そのつもりでお弁当を持参されているんでしょう?大勢の方が楽しいわ」


「は、はい。はじめまして。あの……わたくしはリーゼと申します。お招きありがとうございます。ぜひ、ご・ご一緒させていただきます!!」



 照れているのか口ごもりながらも私に挨拶して、レジャーシートに座っているエラとアナスタシアにも挨拶してくれる。

 その子……リーゼの行動がきっかけとなって一気に列ができひとりひとり私に挨拶をしてくれ、レジャーシートに向かいエラとアナスタシアに挨拶してお弁当を食べるという流れが出来てしまった。


 私は案内係か!


 ちょっとお腹が空いて少しイライラしてきている。

 そんな中、最初にご挨拶してくれたリーゼが私の横に少し距離を取って控えていることに気付いた。



「どうしたの?リーゼちゃん?」



 声をかけると軽く「ひゃっ」と声をあげたリーゼは、聞こえるか聞こえないかくらいの声で頬を少し赤らめながらもじもじと答える。



「あの、ドリゼラ様がまだお昼を召し上がっていらっしゃらないので……ぜひご一緒にとお待ちしておりました」



 ずきゅーーーーーーーーーん!



 完全に撃ち抜かれる。だめだ、すっごくかわいい!

 妹たちのほかにも私の心を打ちぬく娘がいるなんて!

 油断していたわ! 乙女の園、おそるべし!



「ありがとう!」



 感動のあまり、思わず抱きしめてしまった。自分に好意を寄せてくれると一気に距離を縮めてしまうのは梨蘭むかしからの悪い癖だ。

 梨蘭わたしは女子高出身だから、特に女の子には簡単に心を許してしまう癖がある。

 それを見て、他の乙女たちからまた悲鳴が上がる。

 エラとアナスタシアは……羨ましそうな目でこちらを見ている。

 家に帰ったらいっぱいギューッとしてあげよう。


 学校の生徒はそう多くないので、全員とあいさつし終わると私はリーゼといっしょにエラとアナスタシアの近くに座り、美味しく昼食をいただいた。

 女性から嫉妬を集めると陰謀などに巻き込まれることもある。

 できれば味方は沢山居たほうが妹たちの身の安全にも繋がる。


 エラとアナスタシアも1日でだいぶ学校に馴染んだみたいで、お友達も数人出来たみたい。

 初日としては上々と言えるわね。



 私と言えば。

 毎日学校で可愛い乙女たちに囲まれて天使の笑顔を見せるエラとアナスタシアを見て、ヨダレをちゃんと我慢できるかを心配していた。


 もっと心配することがあるのにね。

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