第6話 嫉妬心はただの防衛本能なので一気に解決しちゃいます!①
「エラがいじめに合っている?」
恐れていたことが起きてしまった。
同じクラスの女の子がこっそり私に教えてくれた残酷な噂話を聞いて、私は青ざめていた。
1週間のマナー講習が終了して、私たち姉妹はそれぞれのクラスに分けられた。
私はもちろん上級クラス。エラが中級クラス、アナスタシアが初級クラスにそれぞれ編入となった。
アナスタシアは読み書きは教えたものの、まだまだ拙い部分が多くあるのでまずは初級クラスからのスタートとなった。
エラは元々教育を受けていたこともあり中級クラスとなった。
学力を見る力はある学校だけれど、生徒間のいざこざにまでは気が回らないのかな。
美しいだけじゃなく教養もある幼い私の
そりゃあ、ハイスペック女子に嫉妬するなと言う方が難しいのかもしれないけど、いじめに発展するのは良くない!
ハイスペック女子はイジメるものではなく、愛でるものよ!!!
まずは真実か否か。できればただの噂であってほしいけど。
そう思いながら数日様子を探ってみたけれど、どうやら噂は真実のよう。
エラは一人で居ることが多く、休憩時間も黙って自分の席に座ったままで孤立しているように見える。
エラは姉妹で一緒に昼食を食べる時はいつも笑顔だった。
少し寂しそうな顔は、私たち姉妹と別れたことから来るものだと言っていたけれど。
きっとそれも虚勢だったのだ。気付けなかったことを悔やむ。
このまま性格が歪んでしまったら困るのよ!
エラはまっすぐ美しい心の娘に育ってもらわなきゃ
姉の足をちょん切るよう継母に進言するような娘に育つ未来は絶対に阻止したい!!!
まずはエラから状況を聞いて、どのように解決するか決めなくては。
家に帰り、エラと二人きりになれそうな時を見計らって聞いてみる。
「エラ、最近何だか少し元気がないけれど、お友だちと何かあった?」
ビクっと肩を震わせたのを私は見逃さなかった。けれどエラは少し困ったような寂しそうな笑顔を向けてきた。
「お姉さま、何にもありません。ええ、何にも」
消え入りそうな絞り出すような声。何もないわけないじゃない。
私の心がキュっと悲鳴を上げ、思わず慎ましい義妹をそっと抱き寄せる。
「エラ、そう。あなたはいつも良く頑張っているわ。私はエラのことをいつも見ているし、何があってもあなたの味方よ。私の前では我慢しなくていいの」
「……お姉さま……!」
声を抑えながら震えて泣くエラの手を握り、もう片方の手で肩や背中を撫でて落ち着かせる。
少し待って、もう一度何があったかを聞いてみるとエラはぽつりぽつりと話してくれた。
予習したノートが破られていたり、席を離れて戻ってくると机の中にゴミが入れられていたり、何かを投げられたりとそこそこヘビィないじめを受けているようだ。
いじめが起き始めたのは、クラスに編入して数日経った頃にエラが授業で当てられて、先生から「エクセレント!」をいただいた頃からだと言う。
元々人見知りがあって、自分から積極的に輪に入ることが出来ない
エクセレントを貰えるなんてすごい!と囲まれた時に上手く返答が出来ずに居て、お高く止まっていると勘違いされたようだ。
クラスで最年少の美人編入生。
物語では憧れの的になるかいじめられるかのどちらかのパターンが王道だものね。
こんな美しい娘を前にしてよくいじめが出来るなぁと、ふつふつと湧き上がってくる怒りを鎮めるのにもひと苦労する。
エラの涙が少し引っ込んだのを確認して、私は優しく慰めた。
「大丈夫、エラ。あなたは何も間違っていないわ。あなたみたいに美しい子とは誰もがお友達になりたいと思っているわ。私が保証する。だから……もっと自信を持ってほしいわ」
「本当?」
目に沢山の涙を溜めて私を見てくるエラは、ノックアウト級だ。
潤んだ瞳、まつ毛に溜まる宝石のような涙の粒。男性なら絶対放っておかないと思うわ。そりゃあ、王子さまもイチコロよね。
う、鼻血出そう。
アッパーを食らったようなクラクラした感覚に打ちのめされながら続ける。
「ええ、本当よ。現に姉さまも……いえ。コホン。クラスの全員がそのような嫌がらせをしているわけではないわよね。誰か影響力のある方が主導されていて、他の方も何も言えないのではないかしら。心当たりはある?姉さまがその方とお話してみるから」
「……」
心配そうに何も言わずに居るエラを見て、また心がキュっとなる。
この
心が歪んでしまわないようにと手を尽くしてきたけれど、これから先も思いやりを持った素敵な女性になってほしいものだわ。
「大丈夫よ、お母さまや先生方には言わないから。私とエラだけの秘密。言いたくなければ言わなくてもいいわ、エラ。
けれど辛いことがあったら私には教えてね。エラが苦しんでいる姿を姉さまは見たくないし、あなたと一緒に苦しみを共有したいと思っているの。
あなたの本当のお母さまと同じには出来ないかもしれないけれど、頼ってほしいの」
そしてギュッとエラを抱きしめる。
エラは安心したようにひとこと「はい」と言ってくれた。
実は数日様子を見ていて、主導者のアタリはついている。
エラが話してくれない以上、直接当人に突撃するのが一番早い。
明日になったら、凸しちゃうもんね!
翌日。学校が休みなので私はひとりで街に出かけた。
いつも三人べったりだったので左右に美しい妹が居ないのは少し寂しい。
大きな商店を営んでいるエバンズ商会の娘、エイダ。
エラが編入してくるまで学級で首席を取っていて、美しさにも定評のある子。
年齢はアナスタシアと同じだと聞いている。
そりゃあ自分が年下の子に負けたと思ったら嫉妬に狂うわよね、思春期真っただ中の女の子は。
すうっと深呼吸をしながら、エバンズ商店に入る。
お店の中には様々な文具と趣味の良い異国の置物などがずらっと並んでいて、とっても素敵だ。
まるで異世界に呼ばれたような(私も中身は異世界人だけれど)気分になる。
「わあ、素敵なお店!」
ついつい口から心の声が駄々洩れしてしまう。
私の悪い癖が良いように働いたのか、店主が近づいてきた。
「あら。トレメインさんのところのお嬢さんではないですか?」
はじめてお会いするのに私のことをご存知なのね。
「はじめまして。私のことをご存知なのですか?」
「ええ、ご存知も何も。有名ですよ。トレメインさんは商会の会合でもお嬢様のことをいつも褒めていらっしゃるし、何でも一番上のお嬢さんは勉強熱心で最近はお商売のことも勉強なさってると聞いてますよ」
自分の知らないところで身内に褒められているなんて、照れる。
顔が真っ赤になる感覚を感じながらお礼を言う。
「ち、父がそのような?恥ずかしいですわ。その、私が長女のドリゼラです。よろしくお願いします」
照れた顔を見られないよう深々とお辞儀する。
「まあ、ご挨拶もしっかりできてトレメインさんが自慢されるのも分かる気がするわ。うちのエイダもこれくらいしっかりご挨拶が出来ればいいのだけれど。あの子、少しマナーが出来ていなくてお恥ずかしい」
ほほほ、と笑う店主……エイダの母親は、ご用はなに?と聞いてきた。
「このお店はとても素敵ですね。ひとつひとつの趣味が良くて、目移りしてしまいます。この白磁で出来たペンなんて上品で素敵です」
「あら。ドリゼラちゃんは白磁が分かるの? 聞いていた通り素晴らしい目利きね。東洋の物なんてそんなに手に入らないのに。さすがトレメインさんの娘さんね」
「あ……ええ、一度見たことがありまして。こんな高級なものは私には到底買えませんけれど。ところで、今日はエイダさんはご在宅ですか?」
でも本当にこのお店の品は素敵な物が揃っているので、帰りには妹二人のお土産にしおりを買って帰ろうと思う。
「ええ、エイダに御用なのね。呼んできますね、しばらく店内を見て待っていてくださいね?」
「はい! お願いします」
家族へのお土産を物色しながらあれこれ見て回る。
アナスタシアには可愛らしいピンクの花が押し花になっているしおりを。
エラには動物のイラストが入ったしおりを。
自分とお母さまには趣味の良い便箋を。
お父様にはペンをとそれぞれ選んでお会計を済ませたところで、大きな音でドドドドドっと階段を駆け下りる音がしたと思ったら、勢いよく店内と自宅を仕切る扉が開いてエイダが店内に現れた。
ハーハーと息を切らせて、心なしか頬が紅潮しているように見える。
そんなに急がなくてもいいのに。
お会計担当の店員さんも私もびっくりしながらエイダの方を見ていると、慌ててエイダは身を取り繕い挨拶をしてきた。
「ど……ドリゼラ様! わたくしに御用があるとのことで大変光栄でございますですわ」
緊張しているのか、どもっているし語尾もおかしくなっている。
自分のいじめがバレてしどろもどろなのかしら?
おかしな様子のエイダに、私は敵意が無い事を伝えるためにニッコリ微笑んでみせた。
「いつも
少しだけお時間をいただけるかしら?」
義妹と仲良く、の
さっきまでの勢いがしおしおと失われていくのが見て分かるほど動揺し、目が泳ぎ始める。
「あの、ええ。いえ、あ、はい」
何を言っているのかもわからないほどに動揺しているみたい。
そりゃあ、いじめてる相手の姉が家に来て時間頂戴って言われたら動揺するなと言う方が無理よね。
家でこの話題は流石にマズイわよね、せっかくだし外に連れ出しちゃおう!
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