第20話 大団円(?)ハッピーエンドってこういうことよね!①

 お義父とう様を危機から救い、ルシファーと再会して4年。

 私は転生前の、事故に遭った時の年齢をすでに追い越していた。


 ついに! とうとう! ようやく!!!

 待ちに待ったこの日がやってきた。


 ---------------------------

  §§§招待状§§§


 〇月✕日~〇月△日の3日間、

 この国の第一王子である

 クリストファー様の凱旋帰国

 を祝い、国を挙げて盛大に

 祝賀祭を執り行う。


 よって3日間は全ての国民に

 王城を解放する。

 最終日の夜は舞踏会を開催

 する。

 国中の若人は積極的に参加

 されたし。

 ---------------------------


 遠回しに言っているけど、結婚相手を決めるパーティーの招待状!!!

 だけど、正直王子の結婚相手を広く国内から募集するって、結構すごいことだと思う。

 変な人来たら対応できるのかなー? ちょっと心配。

 でもでも、エラが選ばれるのは間違いないんだけどねー! でゅひ!


 変な笑いが止まらない私は、自分のドレスを仕立てるためにエバンズ商会を訪れていた。

 エラのドレスを作るために色んな良い生地を集めていたんだけど、自分のものは手つかず…というか忘れていた。

 せっかくなら、歴史的瞬間を私も間近で見たいじゃない?

 私って、自分のことには割と無頓着でここまで生きてきたので、今の流行トレンドとか、どんなドレスが似合うとかは、エイダが丁寧に教えてくれる。


 やっぱ、エバンズ商会が一番だよね!


 ルンルン気分でエバンズ商会の扉を開けると、エイダが苦虫をかみつぶしたような顔で店番をしていた。



「エイダ、どうかしましたの? せっかくの美しいお顔が台無しですわ」


「!! ドリゼラ様!!! まさか、ドリゼラ様も……?」



 一瞬笑顔を浮かべたと思ったら、すぐに青ざめたエイダがカウンターから出て小走りに駆け寄ってくる。



「ドリゼラ様も、王子の婚約者探しパーティーに出席されるんですの??? 私の気持ちをご存知なのに!!!」



 いやいや、と首を振り、エイダは私の腕をがしっとホールドしてくる。

 頭も器量も良い娘に育ったエイダは、あれから10年近く経つというのに、いまだに私の事を慕ってくれている。


 …………恋愛的な意味で。


 小さなころはお姉さまと呼んできたエイダだったけど、今はまた呼び方はドリゼラ様に戻っている。

 私は良いお友達とは思っているんだけどね。

 今はどうしてもエラのイベントが全部終わらないと、私自身が恋愛なんてする気が起きないんだよね。

 何よりエイダには悪いけど、多分私は女性を恋愛対象として見ることは出来ないみたい。

 女の子は大好きだけど、この女性ひとと「何とかなりたい!」と思ったことは今のところ一度もないから。

 一度、きちんとお断りをしないとなーと思いながらも、男性ともお付き合いすることもなく良い年齢を迎えてしまった私は、なんとなくずるずると今まで通り過ごしてきてしまった。


 商家の長女で、適齢期を過ぎたのにいつまでも結婚しない私とエイダ。

 エイダが私に恋慕していることは割と周りにもバレていて、街の男性たちの間では「百合」とささやかれているとかなんとか。

 これが男性おとこ除けになってるなら、そんな噂も目をつむりますよ!今はね。



 最後のミッションさえクリアしてしまえば、バッドエンドの心配は無くなるわけで。

 すでに大幅に物語ストーリーを変えてきたからバッドエンドは回避できると思うけど、念のため最後まで気を引き締めないと!



 そんなことを考えながら布地を物色し、エイダに聞かれた質問の返事をする。



「エイダは行かないんですの? 婚約者探しパーティー。きっと珍しいお料理が沢山並びますわよ」


「いいえ、私は野獣みたいな男性が沢山集まるパーティーなんて遠慮しますわ。珍しいお料理や美味しいお料理があったとして……じゅる」


「じゅるって本音が漏れてしまっていますわよ?食いしん坊は相変わらずですわね。私はエラの付き添いで出席しますわ。アナスタシアもお城の中に入りたいという理由で参加しますのよ。

 エイダも行ってみれば、何か収穫があるかもしれませんわよ?」


「エラもいまだに決まったお相手がいらっしゃらないのでしたわね。アナスタシアは肉屋に夢中だと噂を伺っています」


「ええ、そうね。 アナスタシアは肉屋さんになってソーセージを作るんだそうですわ。姉としても働き者の彼を選んだアナスタシアの目は素晴らしいと思っていますの」


「あ、ドリゼラ様。そちらの生地よりこちらのほうがお似合いですわ。色味は……これなんていかがかしら?

 アナスタシアも変わっていると思っていましたが、まさか肉屋に嫁ぐと言い出すとは思っていませんでしたわ。

 先日街で二人をお見掛けしましたが、とてもお似合いでしたわ」


「そう? アナスタシアに話しておきますわね。エイダが褒めていたと」


「……! は、恥ずかしいですわ。でも、本当にお似合いだったのですもの。私とドリゼラ様もあんな風に街を歩けたら……」



 妄想モードに入るエイダをよそに、私はドレスの生地をいくつかピックアップした。



「エイダ、この中だったらどれが私に似合うか見立てていただける?それから、布地に合うドレスのデザインもいただきたいわ。あなたの見立ては本当に素晴らしいんですもの」



 エイダは私の言葉にぽっと頬を赤らめて、もちろんですわ!と張り切って店の奥にデザイン画を取りに行く。

 とっても良い娘なのに、なんだか私のせいで色々こじらせてしまって申し訳ないなあと思いながら、待っている間に装飾品を物色する。

 可愛い貝殻とパールが印象的な、シンプルなネックレスとイヤリングのセットが目に入った。


 私、梨蘭前世で似た感じのアクセサリーのセット、大学の入学祝いでお父さんに買ってもらってたなあ。

 買っただけで使う前にこっちに来転生しちゃったけど。こういうデザインにはやっぱり惹かれる。お値段ちょっと張るけど、思い切ってこれも買っちゃおうかな?


 どうしようか悩んでいると、エイダがデザイン画を持って戻ってきた。

 シンプルなアクセサリーをつけてもしっかり映えるドレスのデザインを選んでくれたので、貝殻とパールのアクセサリーも一緒に買うことにした。

 自分のドレスも魔法で仕立ててしまうので材料を買っただけだけど、これは良い物が出来上がる予感しかしない!

 嬉しさを爆発させた私は、帰りにとびっきりの笑顔でエイダにこう言った。



「エイダ、あなたの選んだデザイン画のドレスを着た私、見てくださいますわよね?」



 パーティには行きたくないと言っていたエイダだったけど、こう言われては断れないとばかりにパーティに出てくれると返事をくれた。

 シンデレラと王子様の未来を見届けたら、私もエイダにきちんとお返事をしようと思う。

 友情にひびが入ってしまうかもしれないのは嫌だけど、このままではエイダにも失礼だしね。


 帰り道を歩いていると、どこからともなく現れたルシファーが私の横を優雅に歩く。

 ルシファーにも何か手伝ってもらいたいなと思うけど、今の私はルシファーと話すことができない。

 エラにはドレスは私が作ると言ってあるものの、どんな仕上がりになるかはまだ秘密だし、ルシファーとあれこれ相談できたら、どんなに帰り道が楽しいだろうと浸っているうちに、自宅に到着した。



「お姉さま~~~!!!」



 家の扉を開けるや否や、アナスタシアが飛びついてきた。

 良く見ると、新しく仕立てた流行のドレスを身に着けている。



「アナスタシア! 素敵なドレス姿……すごく似合っていてステキですわ!」


「ドレスをお姉さまに作っていただく話をしていたら、彼が仕立ててくださったの」


「え!!? 彼って、肉屋の? こんな素敵なドレスを作っていただいたの? まあ!!!」


「彼も一緒にお城に行って、私と踊ってくださるんですって! 早く舞踏会の日が来ないかしら?」



 顔を赤らめるアナスタシアはとても綺麗だ。

 甘えん坊のアナスタシアが、私にドレス作って!と言って来なかったのはおかしいと思っていたのだけど。

 街の肉屋を先代ちちおやから継いだばかりの彼には、このドレスは相当の買い物だったに違いない。


 ははーん! 肉屋の彼はプロポーズをするつもりなんだ!!


 ピーンと来た私は、それ以上余計なことは言わずにアナスタシアの頭を撫でて笑うと、荷物を置くために部屋へ戻った。

 荷物を置いてルシファーを抱き上げると、舞踏会の日に思いを馳せる。

 なんて素敵なんだろう。同じ日に姉妹が結婚の申し込みをされるなんて!



「私も頑張らないと! よーし!!」



 ルシファーに向かって話しかけ、気合いを入れてデザイン画を取り出した。

 まずは私のドレス。

 買ってきたばかりの布地や糸、リボンなどを並べて呪文を唱える。



「アダピラ!」



 みるみる布地が組みあがり、デザイン画通りのドレスが目の前に出現した。

 買ってきた革に、等価交換しなくても想像だけでできる魔法でエナメル風の光沢工夫を入れて靴も完成。

 着てみると当たり前だけどサイズぴったり!

 見つけた貝殻とパールのアクセサリーも、ドレスのアクセントとしては丁度良かった。

 姿見で眺めてみても、なかなかに映えている。さすがエイダの見立てだと自分でも惚れ惚れしてしまう。


 一旦自分のドレスは脱いで、次はエラのドレスを仕立てる。

 ベッドの下に隠していた光が当たるとオーロラ色に変わる布と、エラに似合う淡いブルーの布地、少々の宝石と金属類。

 そして靴の素材のガラス。



「アダピラ!」



 歩くとキラキラと光るように宝石を粉にして布地に混ぜる。

 組みあがったドレスは、自分で想像していたよりも美しい仕上がりになった。

 ガラスの靴もイメージ通りに作れてとても満足だ。


 ティアラなどのアクセサリーも、最先端のデザイン画をもとに制作したからとてもお洒落な仕上がり。



 アナスタシアじゃないけど、私も舞踏会が待ち遠しくなってきちゃった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る