第22話 大団円(?)ハッピーエンドってこういうことよね!③

 翌日。

 お話ストーリーに沿う事ばかり気にしていたせいで、大事なことを忘れていた私は自己嫌悪に陥っていた。


 そう、そうなんだよ、クリストファー様は私たち姉妹の事を知っているわけだから、何も逃げなくても良かったんじゃない。

 ガラスの靴は落とすものと思っていたから、盲点だった~~~~!!!

 この人生、最大のミス!!!

 これでバッドエンドになってしまったら、どうするの~~~~!!!?

 しかも、アナスタシアのプロポーズを見たことで、なんだかうやむやになってしまってエイダと話が出来ていないじゃない!! ばか! 私のばかー!



 朝から悶々としていたら、屋敷のドアをドンドン!と激しく叩く音が聞こえた。

 はーい、とたまたまドアの近くにいた私が出ると、サミュエル様がやたら仰々しく立っている姿が目に入ってきた。



「あれ? サミー様???」



 驚いて梨蘭の口調で呟いてしまった。

 不躾な口調に、サミュエル様は面食らった顔をしている。



「大変失礼いたしました。近衛隊長様が当家にどういった御用でしょうか?」



 カーテシーをして、失礼を詫びると後ろからクリストファー様の声が聞こえた。



「ドリゼラ様、エラはご在宅でしょうか?」


「これは、クリストファー様。ごきげんよう」



 もう一度カーテシーをして、深々と頭を下げる。



「ドリゼラ様。師であるあなたは、私に頭を下げる必要はないですよ。頭を上げてください」


「ですが、私は一介の商人の娘です。王子様に無礼があっては……」


「クリストファー様がこう言っていらっしゃるのだ。頭を上げよ」



 なぜか、ぶっきらぼうに付け足すようにサミュエル様が言うのがおかしくて、笑いをこらえながら顔を上げる。

 良く見ると、ものすごい数の従者が控えているのが目に見えた。

 クリストファー様の手には、赤い布とその上にガラスの靴。


 これは……イベントキターーーーー!!!


 心の中でガッツポーズをしながら、急いで家族全員を呼ぶ。

 何か非礼があったのではないかと家族全員がおどおどしている中、クリストファー様がエラにプロポーズを行った。


 エラは戸惑った表情でちらりと私の顔を見る。

 どうしたらいいのか分からないのだろう。

 人生初のプロポーズ。しかも、人との付き合いが希薄な恥ずかしがり屋のエラ。

 でも、昨夜は確実にエラもクリストファー様との恋に落ちていた。


 私は促すように頷くと、エラに耳打ちをする。



「エラの心の思うように」



 すると、エラは決心したかのようにクリストファー様の元へ一歩足を踏み出した。

 ガラスの靴に足を入れ、二人は見つめ合う。

 私がその感動的なシーンを脳裏に焼き付けようと凝視していると、エラが話をはじめた。



「ガラスの靴を拾ってくださってありがとうございます。クリストファー様。

 この靴は、お姉さまからいただいたこの世にひと揃えしかない、私だけの靴でしたの。

 姉は何年も私の為に奔走してくださいました。その恩を仇で返すところでしたわ。

 お申し出、有難くお受けいたします」



 その場がわっと沸いた。

 お義父とう様とお母さまは驚きながらも抱き合って喜び、アナスタシアは自分も昨夜プロポーズされたこともあり、それを思い出したのか「良かった」と、笑いながら泣き崩れる。

 私も勝手に涙があふれてくる。この瞬間の為にこの10年近く本当に頑張ってきた。

 お母さまを改心させたり、仲の良い姉妹であるよう自分を律して姉として頑張ったり、お義父様の死亡フラグを回避したり。

 色々あったけど、今、全てが報われた気がした。



「ですが」



 ん? ですが?????



「私、クリストファー様のことを何も存じ上げません。ですから、まずは半年ほどきちんとしたお付き合いをしてくださいませんか?」


「真面目か!!!!!」



 エラの仰天発言に、すかさずツッコミを入れてしまった。

 私のツッコミによりその場は喜びの涙から笑いに変わってしまった。


 正直、すっごい恥ずかしかったけど、でもエラの落としどころも悪くない。


 そりゃそうだ。いくら相手が王子様とはいえ結婚を前提にお付き合いくらいしたいよね。

 結婚したら皇太子妃なわけだし、軽々しく遊びになんていけないもんね。



 それから先は、本当にとんとん拍子に話が進んで行った。

 アナスタシアは肉屋に嫁ぎ、幸せな新婚生活を送っている。

 私はエイダにきちんと恋愛感情がないことを伝え、お友達でいたいとお断りを入れた。

 かなり泣かれたけど、今はもう仲の良い姉妹のような関係に戻っている。

 エラは順調交際をしていたクリストファー様との正式な結婚が決まり、王城へと入る日取りも決まった。



「お姉さま、お話いいですか?」



 王城に入る前日、エラが私の部屋を訪ねてきた。



「今まで、私のことを沢山支えてくださってありがとうございました。本当に……お姉さまには……」


「嫌ですわ、エラ。泣かないで。私はあなたの姉ですもの。あなたの幸せが私の幸せですわ」



 抱き合ってしばらく泣いて、幼い頃の昔話をしながら二人で一緒のベッドで眠った。

 ルシファーも遠慮がちだったけど、一緒に寝てくれた。


 翌朝、王城から迎えの馬車が来て、エラは笑顔で旅立っていった。

 エラを乗せた馬車が小さくなるまで、私とお母さまとお義父とう様の三人で肩を寄せ合って見送った。



「なんだか、一気に寂しくなったな」



 お義父様がぼそっと言うと、お母さまも同意する。



「まだ、私が居ますわ。私はこの家の長女ですから、きっちり家督を継ぎますわ!」


「それは心強い。ドリゼラが居て、私たちは幸せ者だな」


「そうですわね、あなた。

 ですがドリゼラ。あなたももう良い年齢としですからお見合いでもして早く私たちを安心させてくれなくては」


「あら、お母さま。女の幸せは結婚だけとは決まっていませんわ!」



 私は次はあなたと結婚を迫るお母さまの言葉を交わして、その場を退散した。


 さらに半年後。お城で盛大な結婚式が行われた。

 エラはとてもキラキラと輝いていて、舞踏会の日が最上級だと思っていたのに軽々とその上を行く美しさを放っていた。

 私はと言えば、小鳥に目をつつかれることもなく、素晴らしい結婚式を堪能して無事にハッピーエンドを見届けることができた。


 エラの居ない日々は、少し物足りないけれど私にはルシファーがついていてくれるし。

 商会のお仕事も王室御用達となったこともあり、今まで以上に忙しくなった。

 毎日慌ただしいけれど、それなりに楽しい日々を送ることができている。



 こうして、長い長い私のバッドエンド回避の日常は大団円で幕を閉じたのだった。

 ハッピーエンド、最高!



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最後までお読みいただきありがとうございます。

おかげさまで、この作品を愛してくださる方より続編はないのかと言われ、ただいま執筆しています。

ドリゼラのシンデレラを育てたあとの物語をぜひお楽しみください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330656592143046

続編は、二つの視点で同じストーリーが進むように設計されています。

よろしければこちらもどうぞ。

サミュエルから見たドリゼラの話です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330659673459031

ふたつの話を並行で読んでもらえると楽しいと思います。

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【完結】意地悪な姉に転生したので義妹を溺愛します! MURASAKI @Mura_saki

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