第18話 攻略対象④お義父様の運命、変えてみせます!②

 朝、目覚めるとお義父とう様に添い寝する形になっていた。

 私を起こさないよう、お義父様は目が覚めてからしばらく待ってくれていたみたい。

 私の頭をぽんぽんと優しく叩いて「見ていてくれてありがとう」なんて、ねぎらいの言葉をかけてくれた。


 うう、私すぐに寝落ちしちゃったのにー! 恥ずかしい!!

 それから、やっぱりお義父様イケメン~!


 恥ずかしいのとお義父様のイケメンっぷりに当てられた照れとで、耳が赤くなる。



「お風呂に入って来ます! ついでに朝食も部屋までお持ちしますね!」



 なんて誤魔化して、部屋を飛び出してしまった。

 途中で湿度が高くて暑いのに、傷でお風呂に入れないお義父様のことが気になって、身体を拭きたいだろうなーと桶にお湯をいただいて、一度部屋に戻ることにしたのが良くなかった。

 照れは一旦おさまったのに……背中を拭いてほしいというお義父様の一言でまた照れてしまうことに。

 そりゃそうだ。脇腹を刺されているのだから、手を上げたり身体をひねったりは痛むよね。


 配慮が足りてない義娘むすめでごめんなさい。


 がっしりと広くたくましいお義父様の背中を拭いて、あとは自分で出来るとのことだったので、私も一旦部屋を出て浴場まで移動する。

 男の人の背中拭くなんて初めてのことだったから、力加減大丈夫だったかな?

 なんて悶々としながらお風呂に浸かっていると、すごく平和で昨夜の出来事が夢のようだ。

 誰もいないお風呂は広くて、ついつい、ぷかーっと浮いてみたりしていた私の脳内に、ルシファーからの通信が入る。



『梨蘭、リラックスしてるところ悪いけど……なんだかちょっと悪意のようなものを感じるから、早めに戻ってきて!』



 悪意。その言葉はあまり聞きたくなかったけど、確かにルシファーは昨夜から少しピリピリしているように感じる。

 何か危険な気配を感じているみたいだけど、私にはわからない。

 すぐに浴場をあとにして、食堂で軽い朝食を二人分、部屋まで届けてもらうよう手配してお義父とう様の待つ部屋へ戻る。

 急いだので髪がしっかり乾いていないけど、仕方ないよね。


 部屋に戻ると、のんきな顔でお義父様が私の髪が濡れていることを心配してくれるのに対して、ルシファーはピリついていて緊張していることが伝わってくる。

 私は急いで髪を乾かし、お義父様の身体が心配だからと、本来ついて行く予定はなかった商談に半ば強引について行くことを了承してもらった。

 ルシファーの尋常じゃない緊張から、何が起きるのか全く想像できない。

 昨夜の事を考えたら、やっぱりべったりくっついていたほうがいいよね?


 だけど、私の心配をよそに商談もスムーズに進み、何事もなく1日が終了してしまった。



『何も起きなかったね、ルシファー』


『嵐の前の静けさってやつかもね? 悪意はまだ渦巻いてるから気は抜けないよ、梨蘭』


『そうか~! 念のため部屋に加護の魔法かけておくね。じゃないと二人とも休めないもんね』


『ぼくは寝なくても大丈夫だけどね。でも念には念をって考え方は良いと思うよ!』


『ありがとう。ルシファーがいてくれて、すごく心強い。今夜は変な輩が来ないといいんだけどね!』



 私は戻ってきた部屋に加護の魔法をかける。

 昨日とは違って、大きな騒ぎも起きず静かな夜は過ぎて行った。

 ずっとピリピリしたルシファーと一緒に警戒しながら生活したけれど、特に何も起きることもなく予定通りの日々が過ぎて行った。


 数日が経過し、そろそろ国に戻るための準備で隊商は大忙しだった。

 商会のみんなはたった数日だったけど交渉を頑張ってくれたみたいで、それなりの成果を持って帰ることが出来そうだ。

 積み荷の確認をして、来た道を戻る。

 紅海を渡り、エジプトの首都を通り港町に戻ってくると、懐かしい船が見えてくる。



『ルシファー、ここまで何もなかったね! しっかり加護をかけてるし、もう大丈夫かな?』


『……』


『ルシファー?』


『梨蘭、積み荷から危険な気配がするよ! 船に積むときに中身をしっかり確認できる?』


『多分、全部をチェックすることは難しいかな。どうしよう?』


『船で襲われたら逃げ場もないからね! 船を壊されたら全員海にダイブだよ! 多分ぼくと梨蘭は大丈夫だけど、他の乗組員はどうかな?』


『ルシファー、怖いこと言わないで!!! ……でも、どうしたら確認できるだろう?』



 ルシファーと一緒に、あれこれ案を考えてみたけど思い浮ばない。

 荷揚げする時に、できるだけ荷の近くにいるしか方法は無さそうということで、港に着くと私とルシファーは荷揚げを見学しているを装うことにした。


 沢山の積み荷が船に積まれていく中で、すごく気になる箱があった。

 ルシファーに聞くと、あれが悪意の正体に違いない!とのことで、箱の中身をあらためることにした。

 箱に近づこうとすると、アラビアから私たちの国に商売を勉強するために派遣されてきた女の子が私に近づいてきた。



「ドリゼラ様、ですよね? はじめまして。私はトレメイン商会でしばらく勉強させていただきます【アメナ・サレハ】と申します。よろしくお願いします」



 黒髪と大きな黒目が印象的な、エキゾチックな美少女。この港に来るまで彼女の気配を一切感じなかった。

 美少女ハンターの私、梨蘭が! こんなきれいな女の子に! この街までの数日間、気付かずに居るなんて!

 そんなわけがない、絶対におかしい!!! ありえない!!!!!

 しかも荷物を検めようとしたこのタイミングで近づいてくるなんて、なんだかとっても怪しい。


『美少女ハンターって何さ? 梨蘭。変態を極めたみたいだよ? 危ないよ!』


 ルシファーは、しっかり警戒しながらも、まあまあグサっと刺さるような軽口を言ってくる。

 すみません、変態を極めてて。

 私は軽く傷つきながらも、精神的ダメージを今まで鍛え上げてきた表情筋で隠し、スマートに返答する。



「ええ、よろしくお願いします。あの、アメナさん。私そこの荷を確認したいのですけれど」


「あの積み荷ですか!? あれは私のお店で取り扱っている品です。どうぞどうぞ、ご覧ください」



 怪しさMAXだと思っていたけど、案外すんなり荷物を見せてくれる。

 中身は綺麗な装飾の器の数々で、怪しい気配も怪しい物もあるようには見えなかった。

 一か所を除いて。


 箱のスミの方に、もう一つ何か品が入っていたんじゃない?くらいのスペースが空いている。



「アメナさん、ここに他に何か入っていたのではありませんか? 見る限りセット商品のようですものね? この中に何か足りないものはなくて?」


「こちらはこのセットで問題ありません。さ、早くしないと船が出航できませんから」



 そう言うと、アメナはそそくさと荷を閉じてしまった。

 ああ、ルシファーがすっごい顔をしている(感じがするだけだけど)。

 このは完全に黒確定! なので、監視をすることにした。



『あのを泳がせていて本当にいいの? ルシファー。船、もうすぐ出航しちゃうけど』


『大丈夫かどうかで言うと、結構危ないと思うよ。でも何も起きていないのに船を止められないから、いざとなったら戦う覚悟でいるよ!』


『ルシファー……』



 何だかいつもよりルシファーが頼もしく見える。

 船の強度を上げるため、手持ちのお金で買った宝石を対価にして、こっそり船底を頑丈にする魔法をかけた。

 私のお小遣いじゃ、ほんの欠片のようなものしか買えなかったけど、何もしないよりマシだもんね。

 仕上げに船全体に加護の魔法もかけておく。

 何とか、旅の間は船と乗組員を助けたい!という気持ちを込めて丁寧に。



 往路と同じように風を操って、できるだけ速度が上がるように調整しながら、船が出航して5日が経過した。

 船の右手にはシチリアを見ることができる。

 そんな時、事件が起きた。

 警戒することに精神的に限界を迎えていた私は、少し気を抜いてしまっていた。

 完全にスキを突かれた。


 今まで凪いでいた海が、急に渦巻き濁りはじめる。空はどす黒い雲で覆われ、大粒の雨が降り出した。

 船員たちは慌てて帆を畳み、船上はてんやわんやの状態だ。

 お義父とう様は船員たちに指示を出し、積み荷が流されないよう固定させている。

 私は、自分の気が緩んだことを悔やみながらも、再度祝福の魔法をかける。


 キィン!!!


 私の祝福魔法が弾かれてしまう。



『!!? ルシファー! なんか、魔法が変!!!』


『うん、やっと正体が分かったよ! 梨蘭。これはセイレーンだ』


『え!? セイレーン!!? セイレーンって船を難破させる妖怪? だっけ??』


『妖怪って……精霊だよ。厄介な相手だけど、ぼくらの力を合わせれば敵じゃないよ!』


『だからあの子、アメナさんはあんなに美少女だったのかー!』


『梨蘭、今はそんな状況じゃないよね? さすがのぼくも引くよ。』



 多分半眼になっているであろうルシファーの『引く』は結構ダメージが大きい。


 ごめんなさいぃぃぃ、いつも緊張感がなくて。


 反省して、まずはアメナのことを探す。

 お義父とう様が指揮を取る船底から、順番に上へと階段を上がっていく。

 最後に外に出る扉を開くと、雨が強くなった甲板の上に彼女の姿を見つけることができた。

 足元には、気を失った船員が何人か転がっている。

 中には護衛の姿もある。


 私を見つけてふふっと笑うその姿は、妖艶で……背筋が凍ってしまうほどのものだった。

 美しすぎて震える。


 良く見ると、黒い霧のようなものが彼女から溢れているように見える。

 あれは……私はアレの正体を知っている。



『ルシファー、あれは……あの黒い霧みたいなのは……』


『ああ、そうだよ。あれは魔術書に取り付いていた悪意が増えてしまったものだね。

 あの時から、力をつけながらぼくたちをずっと狙っていたんだ!』



 まさか、あの時の黒いオーラのがこんなに膨大に膨れ上がっているなんて!

 この船の旅、無事に全員が生きて帰れるように頑張るしかない……!!!

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