バイク屋さんと桜井先生と私
バイク事故から月日が流れた。
私は結菜さんの運転する車の中から、とあるバイク屋さんに目が釘付けになっていた。そこは、中央道を降りたところで
新型W800とメグロK3が店頭に並んでいる。
新型W800は旧型W800とどう違うか。
旧型は後輪がドラムブレーキだったのに比べて、新型はディスクブレーキになって制動力が上がっている。さらに、ABS(アンチロックブレーキシステム)がついており、パニックブレーキでも車輪がロックしないようになっている。
旧型メグロと新型メグロ(メグロK3)はモノが全く異なる。メグロK3は新型W800をベースとしてメッキ部分を増やしたもの。
旧型メグロ《メグロK2》は私にはよくわからない。旧車であり、プレミアもついているのは知っているくらいだ。
「バイク屋さんが気になるのかしら。寄ってみる?」
「えっ、良いんですか?」
カワサキバイクショップFN。私が旧型W800を購入したのはここだ。
ここの店頭に新型W800とメグロK3があった。Ninja250やKTM390にも乗っていたので懐かしい。
私と店長は立ったままバイク談義をする。
「あら、あなたが写っている写真があるわよ」
店の奥から結菜さんの声が聞こえた。
バイクショップ開催のツーリングに参加している私が、集合写真の中にいる。写真の中の私はとても生き生きとしていた。
結菜さんは中に置かれているパンフレットに目を通した。興味があるのかないのか、掴みにくい。
「このバイク、小さいわね」
結菜さんはミニバイクを指差した。ZPRO125だ。125ccの空冷単気筒である。サイズはとても小さく、軽く、まるでオモチャだ。
「どうするの?」
「そうですね...日を改めましょう」
私達はカワサキバイクショップFNを後にした。
「バイク欲しいの?」
結菜さんの運転する車の中で、結菜さんは問う。
「あんな怪我してまで乗ったら病気ですよ」
「十分病気だと思っているのだけど。怪我したからといってバイクを憎むというよりは、むしろ怪我をしたことを忘れてまたバイクに乗るんじゃないのかしら?」
図星だった。
本当は乗りたくてたまらないが、恐怖が先に来る。結菜さんを危険な目に遭わせたくない。しかし、一人で乗るのも寂しい。
骨を5本折ったバイク事故。
ボルトが入り、完治まで2年かかった。
趣味を失った私はオープンカーがなければ立ち直る事が出来なかっただろう。そして結菜さんの支えがなければ私は...。
自宅に着く。
私がエプロンをして食事の支度をしようとすると、結菜さんが私の背後から抱きしめてくる。
「んっ...?」
「バイクに乗りたいんでしょう?あなたは、私が何を言っても無駄よね。」
結菜さんはため息をつく。
そんな事はない。
結菜さんにダメだと言われれば、私はバイクに乗るつもりはない。ただ、結菜さんは乗らないでとは言わないのだ。
「私は、結菜さんがバイクに乗らないでって言ったら乗らないですよ」
私の背後に回された腕に力が入る。腕は小刻みに震えている。
そして、鼻をすする音が聞こえる。結菜さんは泣いているのかもしれない。結菜さんの手の上から自分の手を重ね、しばらく立ち尽くしていた。
結菜さんの本音がわかった。彼女はどうしてこんなにも不器用なんだろう。これは、同居してないとわからない事かもしれない。
オートバイと桜井先生と私 milly@酒 @millymilly
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