番外編:私、盗撮される。その時桜井先生は...
私はもう20代後半。
まさかとは思ったけれども、カフェで盗撮された。JKも何でもない、20代後半の私を。
結菜さんと喫茶店でコーヒーを飲む時に私はたまたまワンピースを着ていて、お行儀の悪い事に少し足を開いてくつろいでいた。
すると、斜め前の方からピーカシャリ、カシャリという音が続く。
音の発信源を探すと、斜め前の席に40歳くらいの男性が座っている。その男性が腕を後ろにしてガラケーのレンズをこちらに向けているのだ。
結菜さんも私の視線の先に気がついた。
結菜さんが席を立って男性に掴みかかろうとすると、私は結菜さんを制止した。
男性は足早に半分以上残ったアイスティーをセルフサービスの棚に片付け、立ち去った。
「何で止めるのよ!撮られているのはあなたでしょう?」
「全身盗撮だったら刑事じゃなくて民事です。スカートの中に直接カメラで撮れば刑事だそうですが。それよりも、相手を制止した事で結菜さんが傷つけられるのが嫌だったんです」
「民事だったら上等よ!弁護士に頼んで訴えてやるわ。ところで、あなたは何でそんなに詳しいの?」
ホットコーヒーを一口飲んで私は言った。
「前にも同じような事があって警察に相談したからです」
結菜さんは氷でキンキンに冷えたアイスコーヒーを飲んだ。
現場に長くいるのはいい気はしない。
私達は車に戻った。
これから箱根を散策する予定だ。
車の中で結菜さんは黙っている。
機嫌が悪い。
私はマニュアルのロードスターを走らせる。これで気が紛れる。
私だって女性だ。全身盗撮なんてされたら嫌に決まっている。だからこそ、結菜さんが私の代わりに怒ってくれたのは嬉しい。
「結菜さん」
「何?」
「私は嬉しいんですよ。私の代わりに結菜さんが怒ってくれて」
「あなたが平然とし過ぎなのよ」
「一人だったら多分、こんなに落ち着いた気分にはなれないですよ」
「そう」
また、結菜さんは助手席の外を眺めた。
「宿に着いたら写真を撮らせて」
「良いですよ。でも何で?」
「さあね」
信号が赤になると、結菜さんは運転している私の頭を撫でる。気持ちいい。とろけそうだ。青になると、すっと手が離れる。
ずっと撫でられていたら、どれだけ気持ちいい事だろう。
強羅にある箱根の温泉宿で結菜さんは受付を済ませる。老舗旅館らしく、外装もさることながら内装に関しても高級さを感じる。
21平米の広い部屋を中居さんに案内され、客室へ入った。窓の外には露天風呂つきの温泉があった。
急に結菜さんは私にスマホのカメラを向けた。
「えっ?いきなり何を」
「私が全身盗撮の上書きをしてあげる。大丈夫、首から上は撮らないから」
「ちょっと待ってください。そういう問題じゃなくて...」
結菜さんの様子がどうもおかしい。盗撮の時からだ。
普段はあまりやらないが、私は結菜さんの裾を掴んで体をこちらに引き寄せ、半ば強引に舌を絡める深いキスをした。結菜さんもそれに応じた。熱く、長く。性的な意味ではなく、安心させるためのキスだ。
しばらくすると、結菜さんは落ち着いた。
いつもの冷静な結菜さんに戻った。
結菜さんはソファに座り目を伏せた。私はその隣に座る。
「私はね」
「はい」
「前から言っているけれども独占欲が強いの。こんな細身のか弱い女性だけれどもね」
「自分でそれを言うんですね」
「力になりたいって事よ。あなたも気をつけて。やられっぱなしで不審者の方が得って感じがするわよ」
結菜さんの独占欲が嬉しかった。
食事の後、二人で部屋の露天風呂に入ることにした。私は着ている浴衣をするりと下に落とす。
結菜さんは私を見ると、目をまんまるにしてゴクリと喉を鳴らした。露骨だと思う。
そういえば、いつも薄暗い中で体を重ね合わせていたような気もする。明るい中で体を見るのはお互い初めてだろうか。
私はサッサと露天に向かって体を流し、湯船に浸かった。結菜さんも湯船に浸かった。
お風呂に入ってやることと言えば一つ...。
足でお湯をバシャバシャとして、お互いにかけあった。子供に戻った気分だった。
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