第3話 桜井先生の視点
桜井先生の視点です。
私はもやもやとしたすっきりしない不思議な感覚に左右されていた。
小林さんのSNSを見た時、眩暈がした。読んではいけないものを読んでしまった。
彼女は1つ下の男性と一緒に走っていた。仲の良いおじさまは別としても、若い男性と2人仲良く。しかも、バイク初心者の頃から。
彼女にその気はなくとも、若い男性のほうは何を考えているかわからない。
私には婚約している男性がいる。同じ大学の医学部だった人だ。今はお互いに違う科で働いている。私達は休日に会う。たわいもない話をして、私の家へ彼が来て、身体の関係を持つ。
私はもう冷めている。結婚したら、もっと冷え切ったものになるのだろう。
彼は婚約以上の関係は踏み出してこない。結婚などという言葉を口にしたら、逃げるかもしれないということを察しているのかもしれない。
彼に抱かれている時、私は小林さんの姿を思い出す。白いジェットヘルメット、ライダーズジャケットに皮パン、茶色のブーツ。亜麻色の長い髪の毛。次に想像するのは、ピンクの白衣にピンクと花模様のエプロン、健康的に焼けた肌に髪留めでアップにされた髪。どちらも同じ声、同じ肌色をした彼女であり、それ以上もそれ以下でもない。
彼に抱かれながら妄想するのは、2パターンある。1つ目は、小林さんに押し倒されている私。彼が私にするように、小林さんと私の舌が数分間絡み合いう濃厚なディープキスをして、その舌が耳、首筋、胸と下がってきて...。下腹部の奥が熱くなって、そこに手で少し触られるだけでもすぐに限界を迎えてしまう。それでもしつこく、その手は私の下腹部の下をもみくだし、私の反応を見ながら必要以上に攻める。何回も限界を迎え、私はクタクタになってすぐに眠ってしまう。彼は、決して自分だけが気持ちよくなろうとはしない。
2つ目は、私が小林さんを攻めるパターン。彼と同じ事を私が小林さんにする。
一つ目も二つ目も共通するのは、彼女に触れたり触れられたりすると、そこから電流が身体を流れるような感じがする事だ。心臓を締め付けられ、脳からアドレナリンが出るのだった。私はもっと乱れたいし、小林さんに乱れて欲しいという妄想だ。
婚約者に抱かれながら小林さんの事を妄想するなんて、彼は可哀想だ。でも、その妄想がなかったら、彼とは婚約破棄していそうだから、仕方がない。
そもそも、女性と肉体関係の妄想をするなんて、私はおかしい。
小林さんにとっては、私は仕事で頼りになって自分を慕ってくれて、よくからかってくるただの女医であり、それ以上もそれ以下でもない。
私は...。
私は、小林さんに触れたり触れられる人になりたい。そのためなら、彼女が望む事は何でもしそうだ。ただ、彼女にそういう性癖があるとは思えない。
私は、小林さんが一つ下の若い男性と仲がよい事に強く嫉妬している。嫉妬心で気が狂いそうだ。
小林さんがSNSに書き込んだら、スマートフォンが鳴るように設定してある。もちろん、仕事の時は院内ではPHSを使うので、仕事が終わったらスマートフォンの電源を入れる。
昨日は、小林さんが午前中の仕事を終えるまでドアの前で待ち伏せをしていた。まるでストーカーみたいだ。
ただ、私には小林さんの気を引きつける確信があった。それはタンデムだ。ライダーにとって、親しい人とのタンデムは夢であるようだ。そこは検索エンジンで調べた。そして、私が彼女と触れ合う方法は、今はタンデムくらいしかない。彼女に触れようとすれば、私は変な行動をしていると思われる。事実、待ち伏せをしてタンデムの話が出るまで、私は彼女と腕を組んでみたら怪訝な顔をされた。しかし、彼女と触れ合った腕に電流が流れ、そこから心臓を締め付けられ、私は高揚し震えた。
私は、タンデムという彼女と触れ合える方法を手に入れたのだった。
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