第13話 桜井先生の視点

 小林さんのバイクは車と正面衝突したらしい。


 病院から電話がかかってきて、

「怪我はしていますが、命に別状はありません。」

 と言われた。

 

 車で小林さんが入院している病院へと向かう。中央道よりの病院だったから、距離の割に時間はかからない。


 私が小林さんを救ってあげないといけない。

 体の傷だけでなく、心の傷まで。




 私が向かったのは、救急救命センターが併設された病院。


 整形外科医から、小林さんの怪我の状態を説明される。三カ所骨折しており、うち一カ所は緊急手術していた。


 小林さんは諸事情で両親が不在のため、私が小林さんの保証人になることを承諾した。

 切ない話だ。


 売店で最低限の物資を揃え、小林さんの病室へと向かう。


 「小林さん!」


 病室のドアを開けると、個室でベッドに横たわって酸素を吸入をしている小林さんの姿が見えた。左腕は、白い包帯で固定されている。

 私は小林さんの右側の丸椅子に座る。

 

 小林さんは、全身麻酔で足を手術したせいなのか、ボーッとしていた。

 

 「....」


 小林さんが私のほうをみてブツブツと何かを伝えようとしている。


 眠そうだから寝たほうが良いんじゃないと私は言う。


 「先生は...寝たら...帰っちゃうでしょう?」


 反則だ。小林さんが可愛く見える。


 「当直や医局の勉強会の日以外は来るから。」


 私がそう言うと、小林さんは目を閉じてすーっと眠りに落ちた。

 私は、小林さんの右手を取り、甲に唇が触れるだけのキスをした。そして、手の甲を自分の頬に寄せた。

 

 後日、私と小林さんはお互いの気持ちを確かめ合った。私はずっと我慢していたから、手が早かったのは言うまでもない...。

 そして、私のほうが愛や独占欲は強い。これは間違いない。


 小林さんは都内の病院に転院した。そして、足の怪我が落ち着いて一時退院となった。

 しかし、私の自宅にいる満身創痍の彼女は放っておくと何処かへ消えてしまいそうだった。

 どうしたものか...。


 私は車を三台所有しているのだが、あまり乗っていないオープンカーがあった。車でも、オープンカーは風を切れる。


 いざ、小林さんをオープンカーに乗せて海ほたるまでドライブすると、手応えがあった。覇気のない彼女は目を輝かせた。この車はいつでも乗っても良いよと、私は小林さんに合い鍵を渡す。


 車に戻った私達は、唇が触れるだけのキスをした。私のキスは愛おしいキスだった。


 「先生」

 「何?」

 「カーセックスは嫌ですからね。」


 バレたか...。


 小林さんが社会人復帰後、朝も昼も夜も一緒に食事を取った。自由奔放な小林さんを縛る一つの道具としてだが、彼女は喜んでそれを受け入れた。


 そして...。

 小林さんがM社のオープンカーを買うというのだ。だいたい、彼女は事後報告が多い。

 私は頭痛がした。私所有のB社のオープンカーを使っていればお金はかからないだろうに...。でも、マニュアルトランスミッションじゃないと嫌だと本人。試乗もしたそうだ。

 生きがいがあればそれでいいのかもしれない。


 そして、真っ赤なオープンカーの助手席に乗せられた私は、箱根ターンパイクへ連れて行かれた。これから、同じ車種のミーティングがあるらしい。 

 これからも私の嫉妬は続くのか?

 





 

 

 

 

 


 

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