概要
物語はユーラシア革命軍の軍医、ジーン・カナハラが愛娘のアイリーンを連れ「月の裏側」にある戦争難民収容所に赴任するところから始まる。だが、彼は知っている。その施設の真の姿は、人体実験施設だと。任務に翻弄される彼はある日、試薬「ターン」の被験体となる女性、カナデ・ハーンと出会う――。
紛争状態が続く未来の地球と月を舞台に描く、SFヒューマンドラマ。
*第一部はジーンが主人公・第二部はアイリーンが主人公となります
*2022/10/17追記:一旦完結させましたが、既存部分を第一部として改稿・第二部連載開始しました。
*2023/11/28追記:第一部・第二部ともに完結していましたが、第一部のラストを大きく加筆
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!醜くても美しくても、その生き様に心を打たれる
軍医であるジーンは月の裏側にある難民収容所に転属される。その施設では人体実験が行われており、彼は激しい罪の意識に苛まれながらも、それに加担することを余儀なくされるのだった。
後戻りできない恐怖や緊張、覚悟に満ちたヒリヒリする導入から、緊迫に満ちた展開を繰り返し、物語は駆け抜けていきます。
ストーリーや明かされる真相、SF・戦争・アクションといった要素ももちろん楽しみましたが、中でも私が引き付けられたのは登場人物たちの内面でした。
登場する人物たちは、皆何かに押さえつけられ、自分の意思をねじ曲げざるを得なかったり、傷つけられたりしています。
しかし、望まないことを強いられ、苦悩していても、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「命は引き継がれる」
この物語は死を悼み、弔い、嘆き悲しみ、遺志を継いで前を向く、人間への慈しみと強さ、愛と優しさのお話です。
ある人間が死したとしましょう。
何がしかやり残したこと、それにまつわる遺志があって、事情を深く知る者はその遺志を継承するでしょう。
尊敬の念を抱く者は嗣業するだけの価値も意義も、投げうつべき人生も覚悟もあるかもしれません。
この物語ではほとんどの登場人物がこうして遺志を継ぐ立場にあり、悼み悲しみつつ、傷つきながらも前進してゆきます。ある者は愛をもって、ある者は悔恨をもって、ある者は復讐心をもって。
いうなれば「痛みの継承、相続」ともとれるでしょう。
あるいは「死者が伝…続きを読む - ★★★ Excellent!!!罪を辿り、愛を与え伝えた、その先を生きる人々の物語
この物語は「罪」を犯したジーンの物語から始まります。戦争難民収容所、実は「人体実験施設」に赴任したジーンが負う過去はあまりにも重く、善人であるが故に彼の苦悩は計り知れません。罪を犯すのは何も悪人だけではない。それでも、善人たる彼は世間一般からすれば悪人でしかないのです。それでもあまりにも善人である彼の、娘を愛する気持ちに嘘はありません。
犯した罪と罰の重さを読者に問いかける物語でもあります。だからこそジーンの行動に、過去に、目を背けたくなりながらも目を逸らせない自分がいるのです。
ジーンの負うものを見た一部の後で物語は一転して、二部ではジーンの娘であるアイリーンの物語が書かれます。
罪を犯し…続きを読む - ★★★ Excellent!!!人は苦悩し、向き合い、なお歩く
これはある意味で、一人の男が背負ったものと向き合い、そして見つめ、考える物語なのかもしれない。
じっとりとした温度がある。ずっとずっと揺蕩っているものがある。
それが、ジーンという男の存在かもしれない。それは第一部で彼を見届け、第二部で別の角度から彼を見るからこそかもしれない。
読んでいてずっと、頭の中にその存在があるのだ。
罪とは向き合うべきものか。
犯したものは逃れられぬものか。
歩いてきた道のりがそう問いかけてくるようでもある。
突き刺さって棘のように抜けないものがある。
決して彼が悪辣なはないからこそ、余計に苦しくて涙が出るのかもしれない。
ぜひご一読ください。
きっとあなたは、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!罪と罰を携えて、引き継がれる愛は伝わるのか。
誤解を恐れずに言うならば、とても難しい物語だ。
それは、物語が難解だという意味ではない。
むしろ物語の構成は丁寧で簡潔で、わかりやすく読者の手元にそれを届けてくれている。
読んでいて辛く苦しくなるのは、ジーンという一人の男が背負った人生の罪と罰が「妥当であるのかどうか」という点である。
彼は確かに罪を犯した。
しかしそれは彼の望んだことだろうか。
いや違う。
彼は、抗いがたい社会の波に吞み込まれて、図らずも罪を犯したのだ。
そして、その結果としての罰を受けた。
僕の胸は痛む。
彼はそれ程までに人々に、愛する娘に憎まれ恨まれ蔑まれなくてはならなかったのかと。そして僕は――そうは思い…続きを読む - ★★★ Excellent!!!近未来で開発される夢のような“薬”を中心とした人間模様に引き込まれる…
舞台は近未来。戦争が各国の垣根を取り払い、それでもなお人々が争う、そんな世界。とある事情から辺境の地へと飛ばされた軍医の男が主人公。彼が飛ばされた辺境の地とは、月だった。
主人公が一人娘とともに月の裏側にある難民キャンプへと左遷されたところから物語はまる。軍医として働いていたある日、主人公の元に1人の患者が運ばれてくる。後に被検体となる彼女との出会いが、主人公に新たな道を指し示す──。
三人称でどこまでも読みやすく、テンポよく進む物語。月(宇宙)が舞台ということもあって、どこか無機質で真っ暗な印象です。そこに軍関係者の様々な思惑が絡み合い、良い緊張感となって、物語を読む手を推し進めく…続きを読む - ★★★ Excellent!!!そうきたか
作品の舞台は月、そしてロシア。どちらも好きな自分にとっては、琥珀やらサモワールやらをイメージしながら、楽しく読めました。いずれ現実に起こりそうなテーマがまさにSFっぽくて現実味を増幅させてくれたと思います。
最後は「そうきたか…」と、思わず考えさせられてしまう展開でした。前半の主人公の葛藤を知っている側の読者としてはやりきれないですが、当事者であれば自分もああいった行動を取るかもしれません。
まさに“それでも生きて往かざるを得ない”んですね。関わる人間の視点によって、ハッピーエンドの概念がこんなにも変わるのかと思いました。
あと、主人公がめちゃくちゃ普通の人なのが、自分がとても共…続きを読む