第19話 アホとバカ

その日の昼休み、俺と美心と悠の三人は屋上で昼食をとっていた。


「いやー、ほんとに転校してくるとはな。」

「ええ、しかも明らかに私と白石くんを狙いに来てるわね。」


俺と美心は、ことある事にユイからの視線を向けられていて正直ストレスが溜まっている。


「だよね。授業中とかすごいもん。ほとんどの時間こっち向いてるからね。先生に注意されてもやめないし。」

「そうだよな。お前の場合、席が隣だから余計にだよな。」

「しかも、ユイから視線が向けられる度に、他のところからも視線を感じるんだよね。それも殺気ダダ漏れの。」


そう、これが一番の悩みのタネである。ミユから向けられる視線だけならギリギリ耐えられる。しかし、その状況を恨めしく眺めてくる男子の怨念が、呪いのように俺の精神を蝕んでいく。


「まぁ、顔も体格も子供っぽいから男女両方に人気でそうだもんな。」


「そうね。柊もあんな感じの子がタイプなんでしょ?デレデレしてたし。」


「デレデレなんてしてないだろ!そりゃ、彼女がただの転校生だったら純粋に嬉しかったかもしれないけど。」


正直、英呪に関係がある人間じゃなかったら素直に喜べた。というか、多分興奮してた。


「でもさ、そのシェルシェールって組織がお前らの情報を内密に入手するために、ユイをこの学校に入れたんだろ?」


「そうなんだろうね。」 「そうでしょうね。」



「・・・下手すぎない?」


「・・・」


「・・・」


そう、俺たちが未だに、全く警戒を緩めないのは、あまりにもその潜入がお粗末だからだ。

転入前に接触してくる、自分から本当の目的を言ってしまう、距離の詰め方、他にも色々お粗末な要素はあるが、何よりも彼女は、若緑・・色の瞳を少しも隠そうとしない。もしかしたら、元々あんな感じの色という可能性もあるが、俺と美心の直感があれは本物だと叫んでいる。


「まぁ実際そうだよね。本当に内密のつもりなら、彼女自身が馬鹿なのか、それとも組織が馬鹿なのか。」


「両方であることを祈っているわ。でも流石に学校で襲ってくる程、短絡的な人間でなくてよかったわ。」


「はは、流石にそれは大丈夫でしょ。」


そんな非現実的な妄想を話していると、屋上と校内に通じるドアの方から、ガチャッと音が鳴った。


「いた。」


そこには、若緑色の瞳を輝かせたミユの姿があった。


「あれ?どうしたの?って言うかなんで場所がわかったの?」


「なんとなく探してたら見つかった。それにあなた達のことを知りに来たって言ったでしょ?」


それだけ吐き捨てると、ミユは俺たちの方へダッシュで距離を詰めた。彼女の服の袖から伸びた緑色の棒状のものが、俺とミユを巻きつけようと迫ってきた。

寸前、それを俺の焔で燃やすことで何とか難を逃れる。


「いや、ほんとに学校で襲ってくるのかよ。もしかして、本物のおバカさんの可能性ある?」

「それはあるわね。喜ぶべきか、悲しむべきかは分からないけど。とりあえず坂城君は、安全なところに避難していて。」

「分かった。無理はするなよ。」


「ふむ。聞いていた通り、すごい火力だね。うちにも炎の英呪を使う人は何人かいたけど、ここまで凄くなかったよ。」


「それはどうも。それより組織の情報をそんなペラペラ話しても大丈夫なのか?」


「・・・やってしまった。今のは忘れてください。」


「美心、やっぱりこいつ...」

「えぇ、恐らく真性のアホね。」


そうして、アホvs厨二病の戦いの火蓋がこの屋上で切って落とされた。


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