第20話 緑の凶器

「あなた、流石に校舎に衝撃を与えるような攻撃は控えてちょうだいね。」

「そんなの分かってる。ユイの存在はバレてはいけないのだから。」


そう不敵に笑ってみせるユイは、1番バレてはいけない相手に転入前からバレているという衝撃の事実に気付いていないのだろうか。


「・・・まぁいいわ。なら今度はこっちから行くわよ。」


美心は言葉を置き去りにするほどのスピードでユイへと近づき、その勢いを殺さずに右足を大きく振り抜いた。


「うそ!!」


振り抜いたと思ったその右足は、ユイに接触する寸前、また袖から飛び出してきた棒状の何かに阻まれた。


「あれは、植物か・・・」


さっきは、その正体を確認する前に焦って燃やし尽くしてしまったため、確認できなかったが、今回はその存在をしっかり目にすることが出来た。

ユイは自分の袖から植物を出し、それを自由自在に操ることで美心と渡り合っている。


刀水とうすい!」


美心は腕から伸びた、刃物のような形をした水で、足に巻きついた植物を切断した。


「おぉ!!そんな技使えてたっけ!」

「私だって日々成長してるのよ!」


美心は植物を切断した刀水を維持したまま、ユイに斬り掛かる。


「くっ。危ないじゃんっ!」


ユイは沢山の小さな粒のようなものを、美心に対して指で弾きながら距離をとる。


「この弾中々うざったいわね。」

「本当にウザイのはここからかもよ?」


その直後、地面に散らかっている弾から、見たこともないような植物が、一気に出現した。


「───あぶなっ!!なるほどね。さっき飛ばしてたのは植物の種子ってことか!」


俺の英呪はユイの英呪と相性が良かったのだろう。植物が襲いかかってくる直前に燃やすことが出来たので冷静に分析することが出来た。


しかし、美心はそう簡単にいかなかった。


「───っぐ!鬱陶しいわね!」


美心が刀水で防げる植物の数にも限りがあった。急所は未だ外しているが、少しづつ生傷が増えていく。


「うちの炎の人達はこんな簡単に燃やせないんだけど。ほんとにどんな火力してるのあなた。けどこっちは効いてるみたいだね。」


俺の事を珍獣かのように見てくるユイだったが、苦戦している美心を見て表情を一変させた。


「相性の問題もあるけど、あんまり脅威じゃ無さそうかな?」


俺は美心を助けるべく、植物を燃やしながら植物に囲まれている美心の元へと駆けた。

しかし、そんな俺の行動を美心が否定した。


「来ないで柊!!こんな葉っぱ如き私一人で十分よ!」

「え?あ、はい。」


その時の美心は、まるで修羅の如き様相であった。


(こ、こえ〜。完全にユイに逆上しちゃってるよ。これが女のプライドってやつか!)


「あなたに柊を渡すつもりは無いから。」


誰にも聞こえないように呟いたつもりの美心だったが、英呪を授かった人間の五感の鋭さを、彼女は考慮できていなかった。


「シュウを渡さないってどういうこと?」


ユイの、本当にどういう事か分かってなさそうな瞳を見て、修羅の如き様相からトマトと見間違うほど真っ赤に顔を染めた美心は、とうとう我慢の限界を向かえた。


(俺を渡さないっ!?まさか美心は俺のことが、とぅ、とぅきって事なのか!か、可愛いところもあるじゃないか。)


美心と同様、顔をほんのり赤く染めながらそう思っていると、美心が植物の中心から抜け出して空に飛んだ。


「あ、あなた絶対に許さないから!!もう絶対にぶっ飛ばす!」


もう何を言ってるのか分からないほど、興奮している美心は、空を飛んだ自分を追いかけてくる植物たちに大技をお見舞した。


「食らいなさい。王流の三叉槍トリアイナ!」


美心が地面に向かって放った三又の水の槍は、追従してくる植物たちを串刺しにすることで、植物の無力化に成功した。


「美心!威力を考えろ!」

「あ、やっちゃった!!」


美心はあまりにも興奮していたため、学校への影響を一切考えていなかった。


「おい、なんだよ今の衝撃!」

「知らねーよ!でも屋上から聞こえてきたな。行ってみよーぜ!」


俺たちの戦闘音を聞いた生徒たちが、その原因を探るべく騒いでいた。


「逃げるぞ!ここから飛び降りよう!」


「え、えぇ、あなたもよ!」


「もちろん分かってる。」


そう返事をしたユイは、シュバッという効果音を発しながら地面へと飛び降りた。それについて行く形で、生徒たちが来る前に俺と美心も屋上から立ち去った。


屋上へ向かった生徒たちはこの信じられない光景を見て、様々なリアクションをしていた。中には腰を抜かしてしまう人たちもいた。

そして、この光景を見た生徒たちによって、この現象が学校の七不思議として語られることになるのはまだ先の話であった。

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