第16話 幼なじみvs同士

あの闘いから幾日か経ち、ようやくいつも通りの日常を取り戻した。


と、言えたらどれだけ楽なことか。もう俺たちは引き下がれないところまで、足を踏み入れてしまっている。問題も山積みだ。シェルシェールの目的も、あのミルとかいう女が言っていたことが事実とは限らない。どれだけの規模か、他にどんなメンツがいるのかすら、その全貌のほんの一部しか俺たちはまだ知らない。それに、あの大男の発言からまた襲いかかってくることは間違いない。


(くっそぉぉお!!どうすればいいんだ!!こっちにも美心以外に仲間がいればぁぁあ!!!)


「こらぁ白石!!集中しろボケェ!!」


今は現代文の授業であったが、俺はシェルシェールのことで頭がいっぱいだった。授業に全く集中していないことがバレたのだろう。あのてっぺんハゲの佐々木先生が頭から湯気を立てながら、こちらにチョークをぶん投げてきた。


「───っと。す、すみません。ちゃんと眠れてなくて、、、」


「え?お、おう。睡眠は大事だよな。」


佐々木先生は驚きの表情を浮かべながら、しかし何とか教師としての威厳を保とうと、冷静にそう言った。

他の生徒たちも鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこちらを見てくる。



それもそのはずだ。何故なら誰もが一度は夢に見るであろう、人差し指と中指の間で、あの真剣チョーク取りをお見舞いしてやったのだから。


(ふっふっふ。佐々木もクラスの奴らも俺の神業を見てビビってやがるぜ。揃いも揃ってモブDみたいな顔しやがって。)


俺の神業を見て呆然としていたクラスメイトも、少ししたらこちらに興味を無くしたようで、再び前を向き、授業を再開した。


「どうせまぐれでしょ」などのヒソヒソ声も聞こえるが、凡人には理解できなくて当然と思った柊は、席が一番後ろなため、そいつらに向けて得意気な顔をしてやった。特に、普段自分のことを馬鹿にしてくる垣には、それはもう極上の煽り顔を背中にぶつけてやった。




□ □ □ □ □ □ □





「おい、鈴木。柊に危ないことさせてないだろうな。」


「はい?あなたにはなんの関係もないでしょ。」


「俺はこいつの幼なじみだ。面倒を見る義務がある。」


「わ、私は彼のことを唯一理解出来る存在よ!」



俺より背の高い2人が、俺を中央に挟みながら、盛大な言い争いを繰り広げている。その時、初めてパンに挟まれる卵の気持ちがわかった。そして、そんなふたりに挟まれた俺は、もう何が何だか分からなくなっていた。


時は少し遡り、授業が終わって教室中が開放感で満ち溢れていた時、俺も例に漏れず、ようやく学校が終わって帰れることにテンションが上がっていた。いつも通り、悠と一緒に帰るために彼の元に向かおうとした時、


「一緒に帰るわよ。」


美心が一緒に帰りたそうにこちらを見ている。

しかも仕方ないから一緒に帰ってあげる、みたいな顔をしてるのが余計鼻につく。


「え?お前は家の方向が違うだろ。それに悠と帰るつもりだったんだけど。」


そう、美心の家は俺とは別方向にあるのだ。一緒に帰るという発言自体、そもそもよく分からない。


「べ、別に私がどうやって帰ろうと私の勝手でしょ!」


「どうした柊。───っと、なんで鈴木さんがいるんだよ。」


俺と美心が2人で話しているのを見つけた悠が、リュックを背負いながら近づいてきた。


「あ、悠。美心が一緒に帰りたいんだって。」


俺が悠にそう言うと、悠は美心を訝しむように見つめた。


「はぁ?確か鈴木さんって家の方向違うよな?なん───あぁ。そういう事ね」


何かを察した悠は、さっきとは打って変わって、口端を釣りあげ、面白いものを見つけたかのように美心を見た。


「じゃあ一緒に帰るか。」


そう言って悠はさっさと教室から出ていってしまった。それに追従するように俺と美心は後ろを追いかけた。


結局三人で帰ることになった俺たちは、右から悠、俺、美心の順で横三列になって歩いている。


「なんで鈴木さんは柊と一緒に帰ろうとしてたの?」


「は!?何を急に訳のわからないこと言ってるの!」


突然の悠からの質問に動揺してしまった美心は、逆に訳の分からない回答をしてしまった。


「いや全然急じゃないでしょ。。。」


「はぁ。柊から聞いたと思うけど私たちは英呪についてもっと知らなくちゃいけないの。だから少しでもその事について話すために、こうして遠回りをしてまで一緒に帰ってるんでしょ。」


「へぇ。柊って呼んでるんだぁ。」


美心は、いかにもな理由をつけて返答したつもりだが、悠の一言でそれも無駄になった。


「いや彼がそう呼んでって言ったからそう呼んでるだけだから!別に深い意味は無いですけど!?」


「え?俺の名前を呼ぶの嫌だったのか...?」


俺は美心が自分の名前を仕方なく呼んでいたという事実に少しショックを受けた。


「え!?別に嫌っていうわけじゃないからね!」


「あーあー。鈴木さんが柊のこと泣かしたー」


美心は必死に取り繕うとするが、悠が茶々を入れてくる。


「坂城君ちょっとうるさいんだけど?」


「お嬢さんは気が短いんじゃないですかぁ?」


「なに?柊が取られるかもって不安なのかしら?」


この言葉がクリティカルヒットした悠は思わず早口になってしまった。


「は?違うけど?取られるも何も、こいつは俺の所有物じゃねーし?」


「まぁ私は柊と同じ境遇だから、彼のこともあなたより理解できるしね。」


「おいおい。調子に乗るなよ新参者。こっちはもう十数年の付き合いだぞ?」


「時間じゃ測りきれないものだってあるのよ。」


「やんのか?おい。」


「受けて立つわよ。」





こんなのが暫く続き、そして今に至る。


「いいか?確かにお前は柊と同じ立場かもしれないが、それでも幼なじみという最強ポジションには敵わない。」


「黙りなさい。あんたが幼なじみという立場に甘んじている間に私は先に進んでいるの。」


口論がヒートアップしてしまい、お互いの呼び名さえ雑になっている。


「もう、うるせぇ!!!お前たちが僕の事を大好きなのはよく分かった!!!僕は誰のものにもならないから落ち着け!!」


この終わりなき口論を終着点に導くため、俺は、その線路を変えてやるための一言を放ってやった。


「「いや自惚れないで。」」



(・・・えぇぇぇえええ。それはなくない?どんだけこの二人はツンデレなの。何で隠せると思ってるの?馬鹿なの?アホなの?)



この、とてつもなく面倒くさい二人の対処に困っていたその時、───山に訓練をしに行ったときに似た気配を感じ取った。


「美心・・・」


「えぇ。感じるわね。」


美心も俺と同じものを感じ取ったのだろう。さっきの雰囲気とは違い、周りの気配に対して臨戦態勢をとった。


「お、おい。急にどうしたんだ。もしかしたらあの時の狼みたいなやつの気配がしたのか!?」


唯一、英呪を宿していない悠はこの気配を感じ取ることは出来なかった。

そして、1本先の道路の曲がり角から、水色の髪の毛をした一人の少女がいた。



「あなたが、シュウ?」





読んでいただきありがとうございます!

元々、柊の身長が175cm、美心の身長が165cmだったんですが、それぞれ175→168cm。165→172cmに変更しました。人物紹介の方も変えておきました!

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