第17話 眠たげな少女

「あなたがシュウ?」


「え?」


急に現れたと思ったら、首を傾けながら小動物のような目で問いかけてくる少女に、俺は戸惑ってしまった。


「えーーっと。迷子かな?ママとはぐれちゃったの?」


身長が俺よりも一回り小さい少女を怖がらせないように、膝に手をつけて目線を揃えた。


「私はキミと同い年だよ?その気持ちの悪い顔をどけて欲しいかも」


「え?はは、ごめんねぇ。」


拳を震わせ、何とか怒りを堪えながら返事をする。


「あなた、一体何者なの?」


そう言えばそうだ。美心の言う通り、そもそも異様な気配を感じ取ったと思ったら、この子が出てきたんだ。無関係なはずがない。


「ユイ?ユイはシェルシェールの人だよ?」


「まじで?」 「え?」 「お、おい。シェルシェールってなんだよ」


悠にはこれ以上巻き込まないように、この前の出来事は話していなかった。そのせいもあり、三者三様、それぞれ違う反応を見せた俺たちを見て、少女は珍しいものでも見るかのような表情をしている。


「だんご三兄弟みたいだね。」

「とりあえず馬鹿にしてるってことだけは分かったわ。」


そう言いながら少女の顔面にアイアンクローをかまそうとしている美心を必死に止めた俺は、


「それで?何が目的で僕たちに近づいてきた?あと君の名前は?」


どうせ答えないだろうが、聞いておいて損はない。


「うん。あなたと隣にいるミコって子にこっそり近づいて、英呪について詳しく探るよう命令されたの。それと私の名前はミユ。ミユって呼んでいいよ。ていうか、さっきから言ってるでしょ。」


「・・・」

「・・・」


(え?がっつり答えてんだけど。どういうこと?罠か?いや美心も放心しちゃってるじゃん。しかも結構毒舌なんだけど。。。)


今までで一度も見たこともないようなアホ面を浮かべてる美心を見て、彼女の口から飛び出す言葉が、どれだけ俺たちを困惑させる内容かどうかが、よく分かる。


「あ、あなた本気でそれを言ってるの?本当ならもうこっそり出来なくなってるわよ。」


「・・・あ、私嘘をつけないの。だから今の忘れて。家庭の事情で明日からあなた達の学校に通うって設定でお願いしたい。よろしく。」


「あ、うん。よろしく。」


「アホか!」


彼女が差し出してきた手を思わず握ってしまった俺に、美心が光速の勢いでツッコミを入れてきた。


「いてっ。それで?本当に僕たちの高校に通うの?」


「うん。そういう事だからよろしく。ばいばい」


眠そうな目つきで、そう言ったミユは覚束無い足取りでどこかに行ってしまった。


「結局何だったんだあの少女は。」


「そうね。でも本当にシェルシェールの一員なら警戒するに越したことはないわね。」


「そうだね。でもあんまり危険な感じはしなかったね。」


そんな俺たちは、彼女に気を取られるあまり重要なことを忘れていた。


「それで?シェルシェールってなんのことだ??」


ブリキの人形のような鈍い動きで後ろを振り返った俺たちは、この状況をどう切り抜けるか、目線で作戦を練った。





「なるほどねぇ。そんな奴らまでいるのか。」


結局、戦闘したことは隠して、少し事実を歪曲して伝えた。


「俺もその英呪ってやつを使えたら良かったんだけどな。」


悠は少し寂しそうに微笑をもらした。


「しょうがないよ。僕は選ばれた人間なんだから...」


「私もね...」


「お前ら俺の事、馬鹿にしてんな??」


そう言った悠の顔はさっきより幾分か、晴れやかな表情になっていた

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