第18話 白馬の王子様

「ねぇねぇ、転校生って男の子かな?女の子かな?」

「え〜、どうだろ。イケメンだったらいいけどね。でもうちのクラスには坂城君という王子様がいるからなぁ。」


「女子だろ!このクラスの顔面偏差値を引き上げてくれる救世主が来るに決まってる。」

「だよな。無宗教の俺だが、今回に限っては神でも何でも頼らせてもらう。」



「───ていうかさ、なんで白石君あんなにドヤ顔してるんだろ?」

「さぁ?自分でも気づいてないんじゃない?」


もちろん柊は自分がドヤ顔をしているなんて、ちっとも気付いていない。クラスメイトが転校生の正体を色々と推測しているのを横目に、自分がその正体を知っていることによる、深い優越感に浸っているだけなのだから。


(ふっふっふ。揃いも揃ってチンパンジーみたいな顔をしやがって。しかし今回に関しては男子に軍配が上がったな。おめでとう、男子諸君。)


すると、ガラガラとクラスのドアが開いた。


「お前らぁ。今日このクラスに転校生が───って。もう広まってんのかよ。」


クラスの浮つき具合から、既に転入生の存在に関しては知られていると察した現代文の担当でもあり、我々の担任でもあるてっぺん禿げ先生(佐々木先生)が、説明は不要だと判断して、さっさと紹介した。


「もう入っていいぞ。」


廊下の方から、佐々木先生に手招きをされた水色の髪の毛を肩で切り揃えられた一人の少女が教室に足を踏み入れた。


「─────ッッ!!」


「勝った。。。」


「神はいたのか・・・」


男子たちはスラ〇ダンクのハイタッチシーン並の盛り上がりを見せていた。


「相浦ユイです。16歳です。家族の都合で転校をしてきたという設定です。どうぞよろしくお願いします。」


「はい。ということで家族の都合で転校をしてきたという設定の相浦だ。みんな仲良くな。本人の希望もあって、白石の隣の席になった。白石、困ってたら助けてあげろ。」


「せ、設定?どういうことなんだろ?」

「だめだよ。多分何か深い理由があるんだよ。あんまり触れないようにしてあげよ。」

「そうだね。でもお人形さんみたい。あの緑色・・の目とかすっごい綺麗。」



「なんで白石の隣なんだよ。もしかして知り合いか?昔、旅行先で遊んであげた病弱の少女が時を経て、はるばる会いに来たってか?」

「どんなラブコメだよ。でも気に食わないな。よりによって、なんであんな冴えないやつなんだよ。。。」


ユイがトテトテと歩きながら、こちらに近づいてくる。


「よろしくね、シュウ。あなたのこと全部知るつもりだから。」


その瞬間、山で戦ったあの大男に勝るとも劣らない膨大な殺気が俺を飲み込んでくる。


「よ、よろしくね。」


強ばった顔の筋肉を必死に動かしながら、何とか笑みを浮かべて差し出された手を握り返してやった。


(ふざけんな!!!なんで勘違いさせるような言い方をするんだこの女は!ていうか美心のあの目はなんだよ!事情知ってるだろあいつ!!)


窓際には、こちらをゴミでも見るような目で見てくる美心の姿があった。


さいてい・・・・


美心が口をパクパクさせながらそう言ってくる。


他人のコソコソ話を全て自分の悪口と思ってしまい、その経験から読唇術を身につけてしまった悲しき陰キャの柊には、不本意にもその口の動きを読めてしまった。


俺が泣きそうになるのを必死に我慢していると、悠が助け舟を出してくれた。


「おーい。もう授業始まるんだから静かにしよーぜ。」


悠がそう言った途端、さっきまで波立っていたクラスが少しづつ穏やかな波へと戻っていった。


そんな悠の方を向くと、こちらにウインクをしてくる王子様の顔が目に入った。


(あぁ...好き。。。)



また一人、この王子様に落とされる人間が生まれる瞬間であった。

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