第26話 ダンジョン?
「ふぅ、これで終わりかな?」
颯太は周りを見渡しながら、額から滴る汗を腕で拭った。
「そうみたいね。でもどうして私たちが狙われたのかしら?」
そう、この腐霊たちは明確な意志を持って俺たちを襲っている様子だった。
俺が悠の方に視線をやると、彼は何かについて考え込んでいる様子だった。
「悠、なんかあった?」
俺がそう聞くと悠は頭を上げ、戦闘中に感じた疑問について語り始めた。
「なんだろう、確かに俺たちを標的にしていたんだろうけど、俺だけは眼中に無いって感じだったんだよな。意識外に置かれてるというかなんというか。」
確かによく考えてみるとそうだ。俺たちが悠を中心に置いて迎撃していた時は、どの腐霊もその間をすり抜けようとする素振りすらなく英呪持ちの4人を標的としていた。
しかし俺が調子を崩して真ん中に一旦退避してからは、外側の3人だけでなく内側にいる俺も狙ってきた。。その証拠に実際三人の陣形を突破され、悠がいなければ確実に俺は危なかった。
「・・・もしかしてあいつらは俺たちの中にある英精に反応してるんじゃない?」
「確かに。それなら色々と納得もできるね。」
これが本当なら颯太が別の場所で遭遇したことなども説明がつく。
「でも、それが本当ならあいつらの正体は一体なんのかしら。」
美心は周りを見渡しながら呟くと、腐霊たちにある変化が起きた。
「うそ・・・」
「どうなってんだこれ。。。」
なんと完全に動かなくなっていた腐霊の肉体がボロボロと崩れていき、細かい粒子となって風に乗って流されていってしまったのだ。
「こいつらも同じか。」
「柏木くんが戦った腐霊もこうなったの?」
美心が颯太に尋ねると、颯太は肯定するように首を縦に振った。
「ユイもこうなるの見た。あの時と同じ。」
あの時というのは、ユイが所属するシェルシェールが襲われたという時のことだろう。
「どうする、とりあえず今日のところは帰る?」
「そうね、それがいいわ。」
「そうしようか。」
そう言って森を出るために歩き出そうとしたら、服の端の部分を何かにつままれた。
「どうしたのユイ?」
「あの中入ってみる?」
俺の服の端を引っ張ったユイが指さすのは、この場には似つかわしくない雰囲気を醸し出しているあの寂れた豪邸だった。
「なるほど、確かに調べてみる価値はありそうだね。」
「そうね、もしかしたら何か分かるかもしれないわ。」
「ちょ、ちょっと待って!危ないんじゃない!?それにこの話を持ち出したのはユイだし!もしかしたら罠とかさ!それに悠だっているし!」
決してあの中に入るのが怖いというわけではないが、もしもの可能性を考えた俺は中を調べることに積極的な姿勢を見せている颯太と美心を必死に止める。
「あの子の顔見てみなさいよ。そんなことが出来ると思う?」
ユイは俺の服の袖をつまみながらボケーっとした顔でこちらを見上げている。
(くそっ、何考えてんだこの娘は!もっと表情筋動かせよ!)
何を考えてるのかわからないユイに心の中で毒づきながら、尚も食い下がる。
「で、でも悠が危ないだろ!今度こそ僕たちだけじゃ守りきれないかもしれないだろ!」
「もしも腐霊があの中にまだいるとしたら俺がついて行けばあいつらがその、英精?ってやつに引き寄せられているのかどうかも分かるかもな。」
「もちろん危ないと感じたら即刻退散するわ。柏木くんもそれでいいかしら?」
「うん、構わないよ。」
(なんで揃いも揃って全員乗り気なんだよ。ここで俺だけ逃げたらビビりだと思われる...)
「そ、そうだね!よく考えてみたら腐霊の特性がわかるかもしれない!そうと決まったらすぐ行くぞ!今すぐ行くぞ!」
はーっはっはと笑いながら先陣を切った俺を、残りの三人は生暖かい目で見ていた。
「絶対あいつビビってたよな。」
「それは絶対彼に言っちゃダメよ。せっかくやる気になったんだから。」
そうして、柊の後ろを三人がついて行く形で廃墟への調査が始まった。
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「うーん、何も無いね。腐霊も1匹もいないし。」
「そうね、見当違いだったかしら。」
廃墟を調査して十数分、手分けをして色々探してみたが、出てきたのはネズミやクモなど大して目の引かれないものばかりだった。
「よし、じゃあ帰ろうか!何も無かったもんね!あーお腹空いたなー。」
美心と颯太の会話を聞いていた俺は、すかさず2人に帰ることを提案した。
「確かに何もなさそうだなー。」
「ユイもお腹すいた、もう帰りたい。」
悠とユイすらこの場から離れるような雰囲気を漂わせていたため、俺は意気揚々と入ってきた入り口までスキップで向かった。
バキッ、
玄関まで後一歩というところで、俺の足元から嫌な音が響き渡った。
「あぁぁぁぁぁああああ!!!」
俺は陥没した床から重力に従ってさらに下にある空間へと落ちてしまった。
「痛っ!・・・何処だよここ。」
俺は地面に尻もちをついて着地したが、幸いなことに怪我は何も無かった。ただ視界が真っ暗で何も見えなかったため、焔を空中に浮かべて明かりをともした。
空中に浮かべた焔によって辺りを見渡せるようになった俺は、自分が落ちたこの空間の広さを認識した。広さ15㎡ほどで、とても広くはあるが至って簡素な造りだった。
何か置物がある訳でもなく、凝った意匠もない。ただの空間。あるのはこの場を埋めるねっとりとした嫌な空気だけだ。
ただ一点を除いては。
「何だよ、、、これは。」
俺の目の前に広がるのは壁一面に敷き詰められた、アニメなどで見るようないわゆる魔法陣のようなもの。
「おーい柊、大丈夫か!」
俺がこの異様な模様に意識を奪われている間に、悠たちが俺の後を追ってここに降りてきていたようだ。
「なんだこの模様。」
「おー、変なの。」
「ま、魔法陣!?」
颯太とユイもこの壁に描かれたものに驚いていたが、美心だけが俺と同じような反応をしていた。
「み、美心」
「え、えぇ。言いたい事は分かってるわ。」
どこか興奮した様子でやりとりをする俺と美心の様子を側から見ていた三人は、この状況で笑っている二人の肝の据わりっぷりに感心したと同時に、その不気味な様相に思わず少し引いてしまった。
「お、おい。大丈夫かお前ら?」
「あぁ、問題ないさ。」
「えぇ、至って冷静よ。」
心配した様子で声をかける悠に反して、どこか浮ついた様子で二人は返事をした。
柊に至っては片手で顔半分を覆いながら訳の分からない痛々しいポーズまで決めてしまっている。
「ねぇねぇ、この2人どうしたの?」
ユイが変質者でも見るような目で二人に冷たい視線を送っていた。
「ん?あぁ、鈴木に関しては知らんが柊はこういう如何にも!って感じのが大好きなんだ。」
「ははっ、そういう事ね。でもネガティブな気分になるよりは全然いいんじゃない?」
近くでこんな会話が繰り広げられているなど、これっぽっちも思っていない二人はこの模様についてどうするか話し合っていた。
「どうするよこれ。まさかこのまま引き下がるなんてないよな?」
「当たり前じゃない。やっぱり魔法陣といったら魔力を流したら発動すると言うのは定番よね。」
「ぼくもそう思う。と言うことは僕達の場合この魔法陣に英精を流したら発動するのかな?」
「やってみる価値は十分にあるわね。」
俺と美心は壁に手をつけ、そこに描かれる魔法陣へ英精を流し込んだ。
ゴゴゴゴォォオオッ
「お、おい!何したんだお前ら!」
「ゆーれーるー。」
「これはまずいんじゃないかな。」
二人が英精を流し込んだことでその魔法陣は光り輝き、空間が揺れた。
魔法陣の光り輝く様は留まることを知らず、既に焔など必要にないくらい眩しくなった。
その眩しさに目を開けられなくなった俺たちは落ち着くまで少しの間、目を閉じることになった。
「うわぁぁああ。本当にこんなことあんのか。」
ようやく目が開けるようになった俺たちは、さっきの魔法陣とは比べ物にならないくらい目の前に広がる光景に圧倒されてしまった。
「もしかして、これってダンジョン?」
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