第27話 ダンジョン!
俺たちは今、全体がゴツゴツとした岩で覆われている空洞の中にいた。そしてこの空間はいくつもの道に分かれていて、それがこの空間が複雑な構造であることを示していた。
「ここってもしかしてダンジョン?」
「そうね、あの生き物たちを見れば明らかだわ。」
美心が言う通り、所々にスライムのような生き物や片目しかないコウモリ、頭にツノを生やした兎など、この世のものとは思えないような奇異な姿かたちをした生き物が蔓延っていた。
「シュウ、見てこれ。」
背後からユイの声が聞こえたため後ろを振り返ってみると、とんでもない光景が広がっていた。
「な、何やってんのお前。」
「ふっ、芸術は爆発なんだよ。」
そこにはユイの植物によって串刺しにされたダンジョンの生き物たちがいた。
「相浦さん、少しは躊躇ったらどうかな、、、?」
あまりに突拍子のない行動をするユイに対して、颯太は口端をヒクヒクさせながら苦笑いを浮かべていた。
直後、腐霊を倒した時と同じようにその生き物たちが粒子となって消えて行った。
「お、おぉ〜!なんか来たぁー!」
ダンジョン内の生き物たち、ここでは魔物と呼ばせてもらうが、その魔物を串刺しにしたユイが普段の姿からは想像ができないくらい声を張り上げていた。
「今度はなんだよ。」
「ん。なんかこいつら倒したら英精が満たされる感じがした。」
「ほんと?じゃあ僕もやってみようかな。」
丁度タイミングよく俺に突撃してきた3匹の一角兎に標準を定めて、焔の玉を食らわせた。ユイの言う通り、この一撃で絶命した三匹が粒子となって消えた後、体の中が何かで満ち溢れるような感覚に陥った。
「実は確信がなかったから言わなかったんだけど、俺が最後まとめて腐霊を倒したでしょ?その後、今君たちが言った通り俺も英精が増えた気がしたんだよね。」
「でもそれで言ったら私たちだって少なくない数の腐霊を倒したわよ?」
「もしかしたらここで倒した方が効率よく英精を吸収できるとかじゃねーの?それか腐霊から吸収できる英精が元々少ないとか?」
「確かに悠くんの言うことにも一理あるね。」
「君付けすんな。気持ちわりー。」
颯太が悠の考えに賛同した通り、俺もその二つのどっちかだと思った。
「でも腐霊の方が強かった。だからユイはここで倒すと効率よく吸収できるに一票。」
ユイが手を挙げながら前者の考察に賛同をする。
かくいう俺もユイと同じ考えだ。あんなに面倒くさかった相手なのに吸収量が少ないなんてあり得ない。というか信じたくない。
「そうね、私もその考えに賛同よ。でも今はそれよりもここからの脱出方法を考えましょう!」
目をキラキラ輝かせながら腕を組んでいるその姿は、まるで森の中を探検する小学生のようだ。
「テンションたけーな。でもどうするよ。結構別れ道あるけど分散するのは危険だよな。」
「そうだね。一つにまとまって地道に潰していこう。」
そうして俺たち5人は襲ってくる敵を打ち倒しながら沢山の別れ道を地道に潰していき、ユイの植物の種を、通った道に落としていくことで自分たちが通った道を明らかになるようにした。
「シュウ、もう疲れたからおんぶして。」
英精を浪費したことで疲労が溜まったユイは、両手をバンザイしながら俺におんぶを強請ってきた。そんな姿に思わず父性を刺激されてしまった俺は、その要求を快く承諾してしまった。
「ちょ、ちょっと待って!こんな貧弱な男よりも坂城くんみたいなガッチリした人に頼んだ方がいいわよ!そうしなさい!」
しかしおんぶする寸前、慌てた美心による辛辣な口撃によって結局ユイのことは悠がおんぶする事となった。
「そこまで言わなくていいじゃん。。。」
「ち、違うの!貴方もさっきの戦闘で疲れたでしょ?だから今は一番疲労が溜まっていない坂城くんに頼むのが最善だと思ったの!」
必死に弁明する美心と、持ち前のメンタルの弱さをぶすりと抉られた柊の二人の茶番を見ていた悠と颯太は、なんだかとても優しい気持ちになった。
どれだけ練り歩いたか分からないが、ようやくこの迷路のポイントとなるであろう場所にたどり着いた。
「思った以上に規則性のない空間だったね。」
「うん。しかも宝箱もモンスターハウスもないし。」
「ん?モンスターハウス?なにそれ。」
「気にしなくていい。お前にはまだ早いからな...クックック。」
突然キャラ変してしまった柊に戸惑ってしまった颯太は悠に助けを求めるように顔を向けるが、返ってくるのは首を横に振るジェスチャーだけだ。つまりどうにもならないと言うことだろう。
「それよりもまた魔法陣ね。初めに見たのとは形が異なるようだけど。」
俺たちがたどり着いた広間の地面には、初めに見た魔法陣と同じような紋様が描かれていた。
「じゃあ今度はユイがやる。」
悠の背中から飛び降りたユイは広間の中央まで行き、地面に手をついて英精を流した。
すると、先と同じように魔法陣は光ったが他の部分では特に何も起こらなかった。
と思ったその時、俺たちの目の前の景色が突然変わり、全体的に岩で覆われている空間であることに変わりはないのだが、近くには川が流れていたり、魔物の種類も変わっているなど、明らかに別の空間に移動したことが明らかだった。
「さっきのが一階層だとしたら、ここは二階層か。」
「そうだね。とりあえずこのダンジョンを攻略しないと帰ることは難しいということは分かったね。」
俺の発言に反応した颯太が、そう呟いた。
「確かにそうだな。英精を流したら自動的に次の階にやられたってわけだし。」
「それならやることは一つね。このまま攻略するまで突き進むまでよ。」
歩くこと数十分、一階層と同じように魔物を倒しながら進む俺たちはすぐに次のワープポイントへ到達した。
「さっきよりは分かれ道も少なかったし、簡単だったね。」
「今度は最後まで一人で歩けた。」
一階層と同じように英精を流し込んだ俺たちは三階層に送られ、特に問題もなく三回層も突破した。
「ここが4階層か。さっきまでと全然違うな。」
悠の言う通り、一から三階層までが洞窟だとしたら四階層はジャングルだ。至る所に草木が生い茂り、一歩進むごとに虫が出てきそうだ。
「ここの魔物は今までと全く毛色が違うな。」
今まではスライムやコウモリなど人型ではない小さな生き物が多かったが、この階層にいる魔物の殆どは人型である。四本の腕を携えた猿に、小さな子供のような体つきをしたゴブリン。他にも豚の頭に人の肉体を持った、いわゆるオーク、鬼のような出立ちをしたオーガなどもいる。
「わぁ、すっげぇぇえ。」
「落ち着け柊、そのテンションでいたら死ぬぞお前。俺が言えたことじゃないけど。」
ずっと二次元の存在だと思っていた架空の存在が今、目の前にいる光景に興奮していた俺を悠が窘めながら、ワープポイントを模索するため、敵にバレないように進んでいく。
バタッ
「いてっ。」
「おい。」
「あっ。」
ユイが大木の根に足を引っ掛け転んだ瞬間、近くにいた数十匹はいるであろう魔物たちが一斉にこちらを向いた。
「逃げろーーー!!!!」
颯太が叫ぶと同時に俺は悠をおんぶして、美心がユイをお姫様抱っこしながら全速力で駆け出した。
颯太が先陣を切る形で目の前に集まる魔物共を一刀に両断をしていく。
俺と美心もその補助をするように焔と水で攻撃をする。
「きゃー、怖いー。」
「あんたも手伝って!!」
美心にお姫様抱っこをされながら真顔でそう呟くユイに美心が叫んだ。
「ほいっ。」
そう言われたユイは背後から迫ってくる魔物たちの前方に植物のたねを撒いた。
そして格子状に成長した植物の壁が、進行してくる敵の目の前に、こちらへ近づくことを許さないかのように展開された。
「あの植物は触れた生き物に眠り粉をかける習性があるの。」
ユイの言った通り、この植物の壁に触れた魔物が次々と気を失っていくのだ。
「すごい、本当に眠っていくわ。」
「ふふっ、もっと褒めてもバチは当たらないよ。」
「そんなこと言う余裕があるのなら自分の足で歩きなさい。」
お姫様抱っこをされながらドヤ顔をするユイに苛立った美心は走りながら地面にユイを下ろした。
「悪い柊!迷惑かけて!」
「気にすんな!持ちつ持たれつなんだろ?」
俺はというと、自分より一回り大きい悠を背中に背負いながら走っているため、他の3人よりも少し遅れている。
しかし颯太が道を切り開いてくれたり、ユイの植物のおかげもあって何とか食らいついている。
「みんな!ここに入ろう!」
颯太が指さしたところには大人が一人入れるくらいの小さな穴だった。
俺はここで悠を下ろし、敵が追いつく前に何とかその穴に全員が退避することが出来た。
「入口の割に随分と中は広いのね。」
「そうだね、とりあえず奥へ進もうか。」
どうやらこの空間は一本道になっているらしい。そこそこ広いその道を歩いていくと、小さな扉があった。
先頭を歩く颯太がその扉を開くと、そこには驚きの光景が広がっていた。
「た、宝箱だ!」
俺は扉が開いた先にある広場の中央に、ポツンとひとつの宝箱があるのを発見した。
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最近モチベーションがダダ下がりでございます
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