第28話 ボス戦

宝箱が置いてある以外これといって特徴のない部屋だが、どこか威圧的な空気が流れているような、そんな気がする。


「これ開けてもいいよな!」


「当たり前じゃない!開けないなんてそんな選択肢はないわ。」


「せっかくここまで来たしね。どうせなら開けちゃおうか。」


他の面々からも否定的な意見が出なかったため、俺は意を決して宝箱を開けた。


「これは、、、弓?」


宝箱の中に入っていたのは特別な意匠は凝らされていないが、とても美しい見た目をした一長の弓だった。


全体的な形は基本的な弓と何も変わらないが、その見た目は漆を塗りたくったような光沢感のある漆黒、そしてなんと言っても大きい。全長260cmは超えているだろうか。恐らく俺が持ったら子供がおもちゃにして遊んでるように見えるだろう。


「軽いなぁ。これ実戦で使えるのかな。」


宝箱から弓を取り出した俺だが、その軽さに驚いた。とてもこのサイズ感からは想像できないような触感に本当におもちゃのように感じてきた。


「ちょっと俺にも持たせろよ。」


俺の手から弓を奪った悠は、実際に弓に矢をつがえるような一連の動作を行った。


「おぉ、様になってるねぇ。」


颯太が驚くのも無理はない。悠の弓矢を引くようなその動作は、初心者の人間から見ても美しいと言わしめる程、洗練されていたのだ。



「悠は中学の時、弓道部に入ってたんだよ。」


「なるほどねぇ、だからこんなに様になってるのか。」


しかも悠の弓の実力は、全国大会にも出場するほどである。


「つっても矢がなけりゃ意味無いけどな。」


そう、宝箱に入っていたのは弓だけだった。肝心の矢がなければこの美しい弓もただのガラクタと成り下がってしまう。


そう言いながら、もう一度弓を引いてみた悠に信じられないことが起こった。


「まじかよ、、、」


悠の引いた弓には、さっきまでなかったはずの弓がセットされていた。

しかもその弓の性質が普通ではない。


「それって英精の塊?」


颯太の言う通り、その弓からは非常に濃密な英精の流れを感じる。しかし英精がそのまま具現化するなんて今まで一度もなかった。


「もしかしてその弓自体に英精が宿ってるんじゃない?」


なるほど、美心の言うことにも一理ある。そうでなければ英呪を宿さない悠にこんな芸当出来るはずがない。


「じゃあそれはお前が使えばいい。」


「まじ?いいの?」


「いいんじゃない?どうせ弓使える人なんて他にいないわけだし。それに戦力が一人増えるわけだから利益はあって損はないでしょ。」


ユイの発言に追従する形で、悠がこの弓を使うことに美心が賛成した。


弓についての話し合いが終わったところで、この先どうするかについて俺たちは考える必要があった。




しかし、その話し合いの直前、突如現れた壁に張り巡らされた魔法陣。


突然の現象に驚いた俺たちだったが、どうやらその事実をゆっくり受け止めている時間はないらしい。





「もしかして、これがボス戦ってわけか。」


俺たちが転移したのは闘技場のような場所だった。全体がドーム状になっていて、その奥にいたのは身長およそ5mほどもある、今まで見てきたものとはまるで違う、体全身を覆う鉄の筋肉、そこから浮かび上がる山脈のような血管。そして獲物を見定めるようにこちらを射抜く高圧的な眼。



「これって、、、オーガ?」


「そうみたいね。」


「流石のユイもチビりそう。」


今まで感じたことのないような圧倒的な捕食者から獲物に向けられるこのプレッシャー。しかしその眼の奥には、どうやら俺たちのことを写っていないらしい。


「ふっ、暇つぶし程度にしか思ってないのかもよ?」


颯太は既に剣を自分の周りに展開させ、戦闘体勢を取っている。

俺もそれに倣って背中に焔妖玉グレイズアップを浮かべた。


向こうがどう出るかを伺っていたら、相手は体の重心を前に倒し、右手に持った人ほどの大きさもある棍棒を振りかぶりながら一気に距離を詰めてきた。



狙われたのは俺だった。

二十メートルほどあった彼我の距離は、オーガが地面を蹴った最初の一歩で、一瞬のうちに0へと縮められた。


「───ッ!!あっぶな!」


上から下へと振り下ろされた棍棒を寸前で躱した俺は、背後に浮かべた焔妖玉を余さず相手の顔に直撃させた。

しかし相手の顔にかかる煙が晴れた時、そこにあるのは大したダメージを受けていない、醜悪な笑みを浮かべたオーガの顔だった。


「全然効いてない!」


火力が足りていないと感じた俺は、相手との距離を取るために瞬時にバックステップを踏んだ。

おれの動きに呼応するように、今度は颯太と美心が前に出た。


「柊!焔を頼む!」


「わかった!」


颯太の意図を汲み取った俺は、あの時の感覚を思い出しながら颯太の、背後に浮かべている剣に正確に焔をなぞらせた。


焔舞えんぶ!デスマーチ』


華麗に舞った焔の剣は、オーガの視線を撹乱させながら、確実に、そして少しずつ身体に切り傷を与えていく。


「これでっ、どうだ!」


バラバラに浮遊していた剣はそれぞれが意志を持ち、統率された動きのように一斉にオーガの右腕を突き刺した。


「ウガァァ!!」


オーガが金切り声をあげる。

痛みに堪えながら、自分に傷を与えたこの矮小な存在を己の敵と見定め、目尻を釣り上げ襲いかかる。


「ここでユイの出番なのだ。」


颯太に襲いかかる直前、オーガの足元に大木の根のようなものが盛り上がってきて、その足場を崩す。


「ふっ、ユイが味わった痛み、貴様も食らうがいい。」


この技は、ユイが4階層で大木の根に引っかかったことから着想を得たものだった。


ユイの思惑通り、巨大な根に足を掬われたオーガはその勢いのまま前のめりに倒れてしまった。


「これで終わりじゃないわよ。」


オーガの背後、つまり空高く飛び上がった美心が、右手に刀水とうすいを生やしながら重力を味方につけ、全体重を乗せた渾身の一撃を颯太の剣が刺さったままの右腕に振り下ろした。


ザシュッ


「グァァアア!!」


先程よりも更に激しく、そして苦痛に苛まれた、耳を塞ぎたくなるような叫び声がこの空間を支配した。


この一撃がスイッチとなった。

完璧に逆上したオーガは元々凄まじかった筋肉をさらに膨張させ、浮き出る血管はより青々しく、もはやこの世のものとは思えない造形となり、立ち上がったと思うと俺たちと距離を取った。


オーガの予想外の行動に、次は何が来るのかと唾が喉を通り、そして胃に到達するまでを認識してしまうほどに張り詰めていたこの空気感で、オーガは俺たちの戦意をへし折る行動をしてみせた。


「どうすんだこれ。。。」


「うわぁ、こりゃ厳しいねぇ。」


失ったはずのオーガの右腕の先が、ぐじゅぐじゅと気色の悪い音を立てながら復活してしまった。


所詮獲物でしかない俺たちは絶望する暇すら与えてもらえない。


オーガは復活した右手をこちらに向けたと思ったら、エネルギー波のような、恐らく英精の塊であろうものを俺たちに放ってきた。


まさかこんな攻撃の手段があったなんて誰も予想していなかった。

一瞬、たった一瞬反応が遅れてしまっただけの俺たちは、このエネルギー波を完全に避けきることは出来ないと悟る。

それほどまでに高度な戦いがここに繰り広げられているということが分かる。




そんな人外レベルな戦いにおいてただ一人、一般人と変わらない力しか持たない青年が叫んだ。



「おらぁぁああ!!!」



その叫び声を乗せるように、背後から一直線に飛び出してきた一筋の英精の矢がエネルギー波に衝突した。


バァァァァァアアン



二つの英精同士がぶつかりあった衝撃による破裂音。その衝撃に吹き飛ばされた俺たちが顔を上げると、そこには1匹の化け物と1人の青年が立っていた。




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中途半端でごめんなさい!今回は悠がかっこよすぎたかな。





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