第7話 屋上での逢瀬

「こ、これが俺の英呪。。。」


自分の英呪を認識した俺は、なくしそうになった意識を無理やりたたき起こした。


「火?だとしても何だこの燃え方は?荒々しすぎだろ。」


自分の目の前にある火を見て、そう思った俺は、いいことを思いついた。


「あ!焔ってどうだろ。こっちの方がかっこいいし、燃え方からしても、火っていうには凶暴過ぎるほど燃え盛ってるしな。」


どこが熱源なのか分からないが、風にゆらゆら揺られているような、そんな可愛いものじゃなく、常に火が供給され続けているような、そんな燃え方をしている。


「明日、学校に行ったら美心に報告するか。」



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □




次の日、学校に着いた俺は、いつもより自分に向けられる視線の数の多さに困惑していた。


(何だこの視線の数は。俺の第六感が危険と判断している!!)


席に着いた俺は、その視線から逃れるように机に突っ伏して、ブラックアウトした。


数分後、突然肩を叩かれた俺は、びっくりしながら叩いた主の方に首を回した。


「なんだよ悠。瞑想の邪魔をしないでくれ。」


目の前にいたのは、今日も髪の毛をサラサラさせている幼馴染の悠だった。


「お前、昨日教室から鈴木さんと一緒に出てったんだってな。どういうことだよ。」


ニヤニヤしながら俺に問いつめてきた悠を見て、この周りから向けられる殺気混じりの視線の意味を理解した。


「まぁ2人のこれからについて少しね...//」


「ふっ。どうせ雑用かなんか頼まれたんだろ。」


俺が少し照れながら言った発言を全否定してくるこの男は、本当に俺の幼なじみなんだろうか。


「お前嫌な事だったら嫌ってちゃんと言えよな。それが無理なら俺に言え。」


そう言いながら自分の席に戻っていく悠を見て、自分が女だったら惚れてるなと思う柊だった。


昼休みになったので、俺は学校の屋上へ向かった。どうして屋上に向かったかと言うと、昨日のことについて美心に話すためだ。

昨日のうちに連絡をとっていて、屋上で会うことになっていた。普段は空いていない屋上だが、超絶美人の美心のおかげで、先生から鍵は借りてある。美人万歳。


既に鍵は空いていたので、彼女はもう屋上にいるのだろう。どこにいるのか探していると、上の方から声が聞こえた。


「こっちだよー。」


上の方を見ると、ハシゴを少し登って、塔屋の上に座る美心の姿が見えた。


俺もそっちの方に向かうために、ハシゴを登って彼女の隣に座った。


「それでどうだったの?なんか進展あった?」


「うん。僕も自分の英呪が分かったよ。」


お弁当を食べながら聞いてくる美心に対して、そう答えた。


「やったじゃん!それで?どんな能力なの!?」


「落ち着けって。百聞は一見にしかず、なんだろ?今から見せるよ。」


俺は昨日の感覚を思い出しながら、目の前に焔を発現させた。


「炎だ!!かっこいいじゃん!!」


「そっちの炎じゃない!!焔だ!!!そこは絶対に間違えないでくれ」


目の前にある焔に負けないくらい輝いた目で見てくる美心に対して、俺は自分の中で絶対に曲げられないこだわりを口にした。


「そ、そうね。それは悪かったわ。確かにそっちの方がかっこいいし、この火の荒ぶり方的にも炎って言うには恐ろしいものね。」


「だろ?やっぱり美心なら分かってくれると思ってたぜ」


「ふふっ。当たり前じゃない。」


傍から見たら、なにか悪巧みをしているんじゃないかと思うような笑みを浮かべながら、2人は会話を続けた。


「あれ?そういえばこの焔熱くない気がするんだけど。。。」


「いいところに気づいた!昨日色々試してたら、自分で温度調整も出来るようになったんだよ。」


そう、これが昨日の試行錯誤の中で発見した能力の1つだった。まだ自由自在に動かすことは出来ないが、温度調節ならできるのだ。まだそこまで範囲は広くないが、このまま使い続けたら、その範囲も広がるだろう。


「はぁ!?何それ!ずるくない??」


「ふっ。驚くのはまだ早い!実はもう1つ発見したことがあるんだ。」


そう言って俺は、目の前にある焔に水をかけるよう美心に指示した。


「・・・ちょっと待って。まさか水をかけられても消えないなんて事言うんじゃないでしょうね。」


俺は無言でにこにこしているだけだ。


「さ、流石にそんなわけないわよね。じゃあ行くわよ。」


美心は決心をした顔で、焔に水をかけた。

すると、なーーんてことでしょう!水球に覆われているのに、未だに燃え続けているじゃありませんか!


「ずる!チート!裏切り者!」


美心は涙目になりながら、この現象を引き起こした俺を罵倒してきた。


「お、落ち着いて!ほら見て!消えたでしょ!」


俺がそう言った途端、さっきまでの光景が嘘だったかのように焔が目の前から消えてしまった。


「あれ、、、ほんとだ。どういうこと?」


本気で困惑している彼女に対して、俺はこの現象について明らかにした。


「美心ってその水球を維持する時は常にそれに意識を集中させてるだろ?僕も同じで、維持するために意識をその対象の焔に向け続けてるんだ。そして、その間は水の中でも消えないってわけ。」


「なるほど。じゃあ普通の火みたいに一瞬で消えたのは、向けている意識を手放したからってわけね。。。どっちにしろおかしいでしょ!水の中で消えない火なんて!」


これでも納得できなかった美心は尚、俺に食い下がってきた。


「こんな魔法みたいなのが使える時点で既におかしいだろ!これに比べたら水の中でも燃え続ける火なんて、犬のフンに群がるハエみたいなもんだろ!」


「その例えは意味わかんないけど、それもそうね。一々気にしてたらキリがないわ。」


一悶着あって昼休みの終わりを告げるチャイムがあったので、教室に戻ることにした。


「2人で戻ると色々面倒臭そうだから、あなた先に戻っていいわよ。」


「ん?僕は別に気になんないけど?」


美心のことを既に同士として認識している柊は、そういう事が一切気にならない。なんて単純な男なんだう。


「あなたが気にしなくても私が気にするの。」


「まぁ、そういうことなら。じゃあ教室で。」


そうして俺は先に教室に戻った。





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