第22話 体力テスト①

「ちゃんとユイさんに伝えられたの?」


「問題ないよ!彼女は完全に理解してたからね。」


「・・・本当かしら。」


体力テスト当日、ユイに力の制御を伝えたかどうかを美心に問われ、全く問題がないことを伝えた。


「はーい、みなさん。今日は言っていた通り体力テストをやります。男子は中での種目、女子は外の種目、これを交互にやってもらいます。」


体育教師に種目の順番を言われた俺は、美心と別れて体育館に向かった。


「よし、お前らは記録係と種目をやる人間の2人1組を作りなさい。」


体育館に移動した俺たち男子は、もう1人の体育教師である松田先生にそう言われ、ペア探しを始めた。


(悠はどこにいるんだろ。)


俺はクラスで唯一まともに話せる幼なじみの悠と組むために、彼を探した。

周りを確認すると、ほかの男子生徒と話している悠の姿を見つけた。向こうもこちらに気付いたのだろう。両手を合わせて申し訳なさそうな顔をこちらに向けていることから察するに、その男子生徒と組むのだろう。ちなみに体育は、10クラスあるうちの3クラスが合同で行っている。そのため、かなりの人数がいるからペア探しには困らないだろうと余裕をかましていたら、


(どうしよう・・・全く組める気配がない!!)


いざ周りを見渡してみると、自分が誰とも話せないことに改めて気づいてしまった。そのせいもあり、この空間の中で自分だけがくり抜かれている感覚に陥っている。


(なんでだろう。みんな俺の事見てる気がする。俺の悪口言ってんのかな?絶対そうだ!1人で孤立してることを馬鹿にしてるんだ。)


負の連鎖とはまさにこの事だろう。一度自分にとって都合の悪いことが起こると、無理矢理それと結びつけて嫌な想像をしてしまう。特に、陰キャにはその傾向がつよいように見える。

そんな風に絶望に打ちひしがれていると、こんな惨めな俺に希望の光が差した。


「なぁ、余ってんならおれが組んでやろうか?」


後ろを振り返ると、悠に勝るとも劣らない美少年が俺の肩に手を置いていた。


「え?あ、君は誰かな?」


初対面で気弱な部分を見せるわけにはいかない。そう思った俺は自分の姿を勇敢なベールで覆い、気丈に振舞った。


「俺は三組の柏木颯太。君と同じで友達が少ないから余り物になっちゃってんのよ。」


(嘘をつくな!!こんなイケメンでコミュ力ある人間が俺と同じだと!?馬鹿にしやがって・・・)


「え、えっと。もしかして迷惑だった?」


恨めしそうに自分の顔を睨んでくる柊の顔を見て、颯太は自分があまり歓迎されていないことを察した。実際はただのしょうもない逆恨みなのだが。


「え?全然?僕も友達がいないってわけじゃないけど?君がそう言うなら組んでもいいよ?」


「あ、ありがと。じゃあ俺から記録係やろうか?」


「う、うん。それでいいよ。」


あまりの眩しさに思わず語尾が上ずってしまった。くそっ、これがイケメン補正か。


「最初は握力からなー。どっちが先やるか決めたら始めろよー。」


そう言われた俺は握力計を取りに行き、颯太と2人で計測を始めようとした。


「おいおい柊くーん。お前握力なんか測れんのか〜?」


握力計を片手にズカズカ近づいてくるのは、ことある事にちょっかいをかけてくる、クラスのカースト上位に位置する垣健生だった。


「う、うるさいな。なんか用かよ。」


垣に話しかけられた俺は、今までの経験から反射的に下を向いてしまった。


「わざわざお前に握力計の握り方を教えに来てやったんだろう?感謝してくれよ〜。」


そう言って、垣は俺の目の前で握力を計測しだした。


「・・・ふぅ。こんなもんか?お前のその不健康な腕ならこれの2分の1でも出せたら上々じゃねーの?」


握力計が示す数字は67kg。一般高校生にはとても出せないような大記録だ。垣は口で言うだけあって実力は本物だ。確かボクシングをやっていると聞いたことがある。


「白石くん。この人知り合いなの?」


「誰だおめぇ。見ない顔だな。」


「俺は三組の柏木だよ。それで?なんで白石くんに突っかかってくるんだ?」


(そうだ柏木くん!もっと言ってやれ!!)


虎の威を借る狐とはまさにこの事だろう。颯太の陰に隠れてバレないように垣を睨む柊のこの姿を美心にでも見せたら、失望されることは間違いないだろう。


「あ?別におめーに関係ねーだろ。」


「確かに。じゃあ白石くん見せてやりなよ、君の実力を。」


何か含みのあるような笑みで、颯太はそう言い放った。


(なんで諦めるんだよ!!お前ならまだやれるだろ!ていうか俺の実力ってなんだよ!お前が俺の何を知ってるんだ!)


颯太のあまりの諦めの良さに驚いた俺は、心の中で思いっ切りこの整った顔に毒を吐いてやった。


「ほら言われてんぞ柊、やってみろよ。」


「わ、分かったよ。」


俺のことを馬鹿にしてくるような顔で見てくる垣に気圧されて逃げ場を失った俺は、仕方なく二人と、垣の取り巻きA B Cくらいに見られながら測定を行なった。


(ふぅ、落ち着け白石柊。平均は40kgくらいだからそこに合わせるように、お前ならやれるぞ。力を上手く抑えるんだ。そう、ポイで金魚をすくうかのように。)


よく分からない例えを頭に浮かべながら、ぐぐぐっと力を加えていった。



「白石くんってさ。鈴木さんのこと好きなの?」



「ふぇ!?」


その一言によって、優しく金魚を救うはずだったポイが、とんでもない爆弾を背負った金魚によって突き破られてしまった。


バキッ。


「「・・・は?」」


その光景を見ていた垣とその他ABCたちは一様に間抜けズラをした。その原因は柊の示した握力計の数字。


「エ、エラー?」

「いや、エラーってこれ100kgまで計れるんだぞ。」

「じゃあこいつの握力が100kg超えてるってこと?」

「そんなことあるわけ...」

「でもバキっていったぞ?握力計にそんな機能あったか?」


「お、おい。どうなってんだよこれ。もう1回計ってみろよ。さ、流石にありえねぇって。」


垣はさっきの余裕の表情と打って変わって、顔には脂汗を浮かべていた。


俺も自分のやった事を正しく認識した後、もう一度測るべく握力計を握った。


「51kg?まぁこんなもんか。ん?こんなものか?」


垣たちはさっきのエラーがまだ響いているのだろう。いつも通りの彼らなら柊が51kgという記録でさえ疑問に思うはずだ。それほど1回目の記録に衝撃を受けていたのだ。


「いやぁ、凄いね白石くん。その細腕から51kgもでるなんて。」


その光景を見ていた颯太は、あたかもこうなることを予想していたかのような、胡散臭い笑みを浮かべながら拍手をしていた。

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