第23話 体力テスト②

俺は、ヘラヘラしながら拍手をしている颯太の事をきつく睨んだ。


「どういう事だよ今の!ぼ、僕が美心の事を好きなんて誰にも言ってないぞ!ていうか違うから!」


「あれ、違うの?よく学校で一緒にいるの見かけるからそうなのかなぁって。それに下の名前で呼んでるんだ。男子でそんなに彼女と親しいの君くらいじゃない?」


「違う!美心とはちょっと気が合うだけだから!それだけだから!」


俺は周りに聞こえないようできる限り小さな声で、しかし相手に威圧をかけるように語気を強めながら颯太に詰め寄った。


「ごめんって、それより次は僕の番だね。記録よろしくね。」


そう言っておれの手から握力計を奪い取った颯太は、漫然とした態度で計測を始めた。


「────67kgか。さっきの彼と一緒だね。」

「そ、そうだね。ははっ。」


颯太は涼しい顔でそう言ったが、そもそも普通の高校生が67kgなんて出るわけが無いし、ましてやあん雑な体勢できちんと力が伝わるとも思わない。


(もしかして・・・)



その後も体育館種目は続き、俺は何とか目立たない程度の記録を出すことが出来たが、それを少し超えるくらいの記録を颯太が叩き出してくる。しかも何故か少しドヤ顔で。


(この野郎ッ!!やっぱり俺を馬鹿にするためにペア組んだに違いない。本気出したら俺の方がすごいのに!結局イケメンなんてこんな卑劣で下劣なやつしか居ないんだ。くそがっ!)


イケメンにに親でも殺されたのかと言わんばかりにガンを飛ばす柊だが、それを何事もないように受け流す颯太。




「もう全部終わっちゃったねー。次は外種目だけど女子がまだ終わってないだろうし。どうする柊?」


「そ、そうだね柏木くん。どうせ外に行くんだしついでに女子を見に行くのはどう?」


「そっか、柊もやっぱり思春期だね。女の子があんなことやこんなことしてるのを見たいんだ。」


「誤解を招く言い方するなよ!女の子が体を動かしてるところを見るだけだ!・・・ん?この言い方もなんか気持ち悪いな。」


体育館種目が全部終わり、俺たちは外種目を始めるまでの時間、どう過ごすかを話し合っていた。


(なんでこいつはいつの間に俺の事を下の名前で呼んでるんだ。しかし何故か腹が立たない。。。友達が居ないなんて絶対に嘘だ。おれは信じないぞ...)


そう、気付いた時にはもう颯太は俺の事を下の名前で呼んでいたのだ。嫌悪感や違和感を感じさせないあたり流石イケメンといったところだろう。

しかし、友達が居ないなんて嘘だと言った俺だが、実際に颯太と他の誰かと話しているところを未だ一度も目にしていない。


体育館からグラウンドに移動した俺たちだが、グラウンドにはこの授業に参加している生徒たちによって人だかりが出来ていた。


「ん?なんだろあの集団。見に行ってみる?」


「う、うん。ちょっと行こうか。」


颯太に言われてその人だかりの元へ行くことにした俺たちだが、何故だか嫌な予感がしてならなかった。



「すっげぇな相浦さん。ほんとに人間かよ。」

「だよな。あんな小さい体からは想像つかねぇよ。」


生徒たちがユイについて騒いでいるのを聞いた俺は、自分の悪い予感というやつが当たってしまった事を確信した。


「ユイちゃんすごーい!運動神経良すぎじゃない!?」

「うんうん!小さい頃から何かやってたの?」


ユイのさらに近くを囲む女子たちが、彼女の運動神経の良さに賛辞を送っていた。


「ふふっ、このくらいユイにとっては朝飯前。」


周りからの褒め言葉にまんざらでも無い様子で、腰に手を当ててその渇ききった砂漠のような寂しい胸を前に突き出していた。


そして、こちらに気づいたユイがピースサインを作り、相変わらずの眠たそうな表情で、小さく「ぶい」と呟いた。


(何やってんだよあいつーー!!!抑えろって言ったのに!!大丈夫って言ってたのに!どこが大丈夫なんだよあのアホ!)


「柊、頭なんか抱えてどうしたの?あんな小さい子に負けてるのが悔しいの?」


俺が頭を抱えながら悶絶している様子を見て、颯太がそう言った。


「───大丈夫、急に頭皮が燃えるように痒くなっただけだから。」


「そう?ならいいけど。」


「ていうか、柏木くんはびっくりしないの?あの子の運動能力を見て。」


丁度その時、ユイは俺たちから見えるところでハンドボール投げをしているのだが、少なくとも50mは優に超えている。あんなベイビーボディからは想像できないような記録だ。


「まぁ、そんなにびっくりしないかな?」


さっきと表情を変えずにそう言う颯太を見て、おれは少し不気味に思った。


「だって彼女だったらそれくらいやるでしょ?むしろ頑張って力抑えようとしてるよね。上手くいってないみたいだけど。」


一瞬、俺は颯太が放った言葉の意味をよく理解できなかった。何故ならそんな発言が出来るのは彼女が英呪持ちと知っていないと出てこないものだからだ。


「・・・えっ、それってどういう「おっ、女子も終わったみたいだよ。俺たちも行こうか。」


「う、うん。」


先の発言の真意を問いただそうとした瞬間、タイミング良く俺の言葉を遮った颯太について行く形でグラウンドに向かった。




女子と男子が入れ替わり、外種目も順調に進んでる中、男子は今ハンドボール投げをしている。


「俺たち早く終わっちゃったみたいだね。」

「そうだね。何回も投げ直してる人結構いるし。」


俺と颯太はお互い一投ずつで終了したため、今は軽く雑談しながらほかの人たちが終わるのを待っている。

そんな中、先程までとは打って変わって少し真面目な表情を作った颯太が唐突に言った。


「実はさ、俺も英呪持ってんだよね。」


「・・・いやそんな真剣な感じで言われても。」


「あれ、もしかして気付いてた?」


颯太は少し驚きながらそう言うが、あんな態度を取られて察しがつかないほど俺も馬鹿ではない。


「いやあからさますぎでしょ。あんなの自分から気づいてくれって言ってるようなもんじゃん。少なくとも英呪となんかしらの形で関係があるのかなぁとは思った。」


「ははっ、まぁ気づいて欲しくてそう振舞ったんだけどね。」


「好きな男子を振り向かせたい女子か、あんたは。」


そんな事よりも何故このタイミングで近づいてきたのか気になった俺は、いつ俺のことを知ったのか聞いた。多分あの時だと思うけど。


「そんなことよりいつ俺のこと知ったの?」


「ん?屋上でドンパチやってた時。なんか気配?みたいなのが屋上でしてさ。それで屋上に行って隠れて見守ってたわけ。」


「やっぱりその時かー。じゃあ美心とユイのことも知ってるって訳だね。」


「もちろん、ていうかなんであんなところで戦ってたの?俺はそれがとにかく気になってしょうがないんだけど。」


颯太はシェルシェールの事など知らなくて当然だから、俺たちが対立していた理由もわかるわけがないだろう。


「うーん、その事については美心たちがいる時でもいい?この際だから全員で1度集まって話がしたい。」


「わかった。じゃあ今日の放課後はどう?」


「りょーかい、美心たちには僕から伝えとく。」


そうして、俺たち4人は放課後に颯太の行きつけの喫茶店で集まることとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る