第24話 創造の力

「それで?この柏木くんが私たちと同じっていうのは本当なの?」


「う、うん。まだ柏木くんの英呪を確認したわけじゃないけど。。。」


「は?それじゃ、あなたは確信もなくこんな場を設けたわけ?」


「えっと、あの、ごめんなさい。」


今は放課後、俺たち英呪持ちはお互いの事について話すべく颯太の提案で喫茶店に集まっていた。


「鈴木さん、俺が言うのはあれだけど何もそんなに怒んなくてもいいんじゃない?」


「あなたは黙っててくれないかしら?」


相変わらずヘラヘラとした顔をしている颯太に向けて、美心が鋭い視線を向けた。


「あのぉ、美心さん?もしよろしければ不機嫌の理由を聞いてもいいですか?もしかして相談せずに柏木くんに話したことを怒ってるの?あっ、嫌だったら全然大丈夫だから!」


100人に聞いたら100人がはいと答えるくらい不機嫌なオーラを漂わせている美心に、これ以上彼女の逆鱗を刺激しないよう優しく問いかけた。


「───あなたはこの女が体力テストにやらかしたことを忘れたのかしら?」


美心はそう言いながら、もぐもぐと隣でパフェを食らっている少女を指さした。


「ミコ、食べたいなら自分のを頼んで。図々しい。」


「───ッ!!あなたが!力の制御を!出来なかったせいで!私がどれだけ大変な思いをしたか分かってるの!?」


ユイの的外れな発言にイラついた美心が、言葉をリズム良く区切りながらできるだけ小さな声でユイに詰め寄った。その光景は傍から見たらまるで姉妹のようだ。




「おいおい、とりあえず落ち着けお前ら。というかなぜ俺がこの場に呼ばれてるんだ。」


「こういう時のためよ。あなた場を上手く纏めるのとか得意でしょ?」


「俺はお前らの保護者じゃねぇんだよ...」


そう言うのは、この場で唯一英呪を宿していないただの一般人である悠だ。


「それによく考えたらもう私たちのこともバラしちゃってるし、今更かなって。ユイさんにもバレてるんだから手遅れよ。」


「はぁ、おれの平穏な学校生活が。。。」


「それより柊、あなたしっかり伝えたって言ってたわよね?」


「言ったよ!ユイもちゃんと分かってたよね!?二人で熱く拳をぶつけ合わせたよな!?」


俺は美心に向けていた顔をユイの方へ向け、あの時に交した熱い友情を確認した。


「した。目を瞑ってテストで100点を取るくらい簡単ってちゃんと言った。」


(目を瞑ってテストで100点?・・・あ!あれはそう言うことだったのか。まんまとはめられた。。。)


自分がおかしなテンションになっていたせいでユイの言葉の意味を履き違えた柊だったが、何故かユイにはめられたと訳の分からないことを言って机に項垂れてしまった。しかし本能的にこれ以上美心を怒らせる訳にはいかないと感じた柊はすかさず謝罪を差し込んだ。


「・・・ごめんなさい。僕が全て悪かったです。」


「はぁ、もういいわよ。それで?とりあえず柊から色々話を聞いたけど改めてあなたについて教えて貰えるかしら。」


呆れるようにため息をついた美心は、今度は颯太の方へ身体の向きを変えた。


「そうだね。俺としては話をするよりも実際に身体を通して理解して欲しいかな。」


「それは模擬戦をしたいっていうこと?」


机にくっついていた額を剥がし、2人の会話に割って入った俺は、颯太に発言の意図を確認した。


「うん、そういうこと。一駅先のところだけど、人が全く寄り付かないようなところがあるからそこでやろうよ。」


「分かったわ。それなら日が落ちる前に移動しましょう。」




□ □ □ □ □ □ □




「ここ?なんか不気味だなぁ。」


「そうだよ。今は廃墟になってるからここら辺は人が寄り付かないんだ。」


颯太の提案によって模擬戦をすることになった俺たちは、一駅先にある鬱蒼とした森の中にある、ぽっかりと開けた場所に来ていた。そこはとても不気味な雰囲気で、近くに今はボロボロだが、かつてはどこぞの富豪が住んでいたのであることが容易に想像できる程の立派な建物が建っていた。


「よし、じゃあ始めようか。」


準備運動を終えた颯太が、俺たちに向かってそう言った。


「というか誰が柏木くんとやる?」


「やっぱりあなたじゃない?この中だと柊が1番強いと思うし。」


「ユイがやってあげてもいい。」


「それはなんか嫌よ。そもそもあなた敵なんだから。」


俺たち3人が誰が颯太と戦うか相談していたところに、颯太から予想外の一言が放たれた。


「全員でかかって来なよ。そのくらいじゃないと張り合いがない。」


「え?まじで言ってんの?」


「大マジだよ。時間もないんだからさっさと始めよう。悠くんは審判よろしくね。」


「審判!?ちょっ、勝手に話進めんな。」


悠が颯太の発言に異を唱えようとしたが、その言葉に耳を貸す様子のない颯太は俺たち三人に突っ込んできた。


「───ッ!!焔崖せんがい!」


それに素早く反応した俺は、目の前に焔の壁を展開し、颯太の突撃を未然に防いだ。


「へぇ、いい反応だね。」


バァン!!


颯太が焔崖に気を取られている間に、中から放たれた美心の水鉄砲とユイの植物が颯太に迫った。


「おっと、今のは結構危なかったね。」


「なんなの、その英呪は・・・」


美心が驚くのも無理はない。今まで見てきたのは自然の事象に関係のあるような英呪ばかりだったから、颯太の英呪の特異さに俺たち3人とも目を奪われた。


「そう、このが俺の英呪だよ。」


鋼色の瞳をした颯太の目の前には、先程放たれた水鉄砲と植物を防いだ巨大な大剣、そしてその背中には颯太のことを守るように大小様々な形をした剣が浮遊していた。


「おー、かっこいい。」


ユイは驚いているのか驚いていないのかよく分からない表情でそう呟いた。


「今度はこっちがいくね。」


颯太が片手を俺たちの方に向けたと思ったら、背中に浮遊していた剣が一斉に俺たちに向かって飛んできた。

俺は飛んできた剣を舞踊のように舞いながら、颯太を模倣するように焔妖玉グレイズアップを背中に浮かべて溶かしていった。美心もユイも同じようにそれぞれの英呪で全ての剣一つ一つに対応しようとしているが、どうにも処理が間に合わない。

俺もその数の多さに次第に対応が追いつかなくなってきた。

ついに痺れを切らした俺は焔を地面に打ち付けることによる反動で空高く翔んだ。


「これならどうだよ!焔回砲口カイザーアーテライト!」


両手を前に突き出す形で放たれた焔の重砲は、砂塵から急に空へ現れた俺に一瞬動揺を見せた颯太へダメージを与えるには十分な威力だった。


「───ッ!今のは効いたよ。」


寸前にその場から回避することによって最小限にその威力を抑えることに成功した颯太だったが、所々裂傷や火傷を負っているのが見て分かる。


「ぐっ、、、植物?」


「ふっふっふ、これでもう動けないでしょ。」


幼さの中に少しばかりの妖艶さを含ませた表情を浮かべるユイは、柊の攻撃によって自分を襲っていた剣の嵐が緩んだことで攻撃に転じることが出来ていた。


「流石にこれは防げないんじゃないかしら?」


それに追従するかのように、動かなくなった的に狙いを定めて放たれた美心の王流の三叉槍トリアイナは、空気を裂きながら颯太に向かっていった。颯太と相対してる三人は、この一撃によって勝利を確信した。



しかし、その予想は颯太の創造した剣によって引き裂かれることとなった。


「いーや、まだ終わってないよ。」


なんと、三人を襲っていた剣が一瞬にして消えたと思ったら再度颯太の周りに展開され、自分を縛っていた植物を瞬きもする間もなく、一瞬のうちに切り裂いてしまった。そして水の槍が身体に衝突する寸前、真っ直ぐ飛んでくる槍の軌道から身体をずらすことでまたもや回避に成功した─────と、思われた。


「がはっ!?」


槍の軌道上から避けたことですかさず反撃に出ようとした颯太だったが、どういうわけか横っ腹に衝撃が走ったことでそれは叶わなくなってしまった。


「はぁはぁ、、、ズラしたのか?」


「ふふっ、正解よ。あれを操作するの結構大変だったのよ。」


そう、美心は颯太に技を躱されることを可能性の一つとして考慮していたため、冷静に対処することで超高速で直進して行った王流の三叉槍トリアイナの軌道を逸らすことに成功した。


「ははっ、流石にそれは避けれないや、完敗。」


「しょ、勝者、柊チーム!」


そして颯太が地面に尻もちをつきながら両手を上げて降参の意を示したことで、勝敗は決した。




模擬戦を終え、全員の気が緩んでいたその時、



「ゔぁぁあ...」




俺たちを囲む木々の数々、そしてすぐ近くに建つ寂れた豪邸。そのあらゆる隙間からこちらを覗く悍ましい顔の数々。

どうやらこのまま楽々と帰ることは許されないようであった。





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