第4話 美少女と俺

あの後、急いで男から離れ、唖然とした表情を俺に向けていたタンクおばさんにバッグを返して、「あ、あんた凄く速いのね。助かったわ」という感謝の言葉を受け取り、さっさと眼科まで向かうことにした。


(うん、完全にあの男やってたよな。だって目やばかったもん。タンクおばさんよりイッてたもん。怖かったからそのまま放ったらかしにしちゃったけど。まぁ、あの男が二度と悪いことしないよう祈ることしか出来ないな。強く生きろよ、おじさん!)


俺がさっきの奇妙な出来事を思い出しながら、そんな無責任な事を思っているうちに、ようやく眼科に着いた。

椅子に座り、自分の番が来るのを待っていたら、入口から同じクラスの鈴木美心が入ってきた。


「「・・・」」


目が合ってしまった。女神と、目が、合ってしまった。もちろん女性に一切の抗体がない柊はそれだけで脳みそがパンクしそうになってしまった。だからこそ気付かなかった。彼女が柊にどんな表情を向けていたのかを。。。



□ □ □ □ □ □ □



「なぁ、この前空が急に明るくなったの覚えてる?」


「あぁ、あれな。なんかニュースにもなってたよな。未だに原因わかってないんだろ?」


「らしいねー。でも日本だけだって話だぜ?」


今日は月曜日。この前の視界ピカピカ現象(俺命名)のことで、クラスが少し騒がしくなっている。

(ふっ、モブAモブB共が騒ぎおって。やはりあの現象によって影響を受けたのは俺だけということか!)


「・・・・」

「・・・・」


クラス中の視線が集まっているのを感じた俺は顔を机に伏せて、死ぬ気で寝てるふりをした。くっ、この前を思い出すぜ。




学校が終わった俺は、帰る準備をしていた。今日は悠が部活だから一人で帰ることになっている。教科書をリュックに詰めて教室を出ようとしたところで、


「ねぇ、今からちょっと時間ある?」

「ふぇえ!?」


俺に話しかけてきたのは、この前眼科で偶然会った鈴木美心である。腕を組みながら話しかけてくるその姿は、まるで一国の女王のようだ


(やっちまったよ!モブCみたいな返事の仕方しちゃったよ!落ち着こう。冷静に対処すれば何も問題ないはずだ。)


一旦心を落ち着かせ、不屈の童貞魂を見せるべく、もう一度彼女に挑むのであった。


「どうしたんだい鈴木さん?僕になにか用かい?」

「・・・あなた随分キザな話し方するのね。それに呼び捨てで構わないわよ。」



(...終わった。キモがられた。ゴキブリでも見るかのような表情で俺の事見てるよ。俺は今どんな顔をしているだろうか。父さん、母さん、茜、先に逝く不幸を許してくれ。ただ彼女を呼び捨てにする権利だけは手に入れたぜ。。。悔いはない...)


「まぁいいわ。そんな事より時間はあるの?もしあるならちょっと付き合ってもらいたいんだけど。」


俺の気持ちなど全く気にする素振りすら見せず、鈴木は話を続ける。


「・・・はい。時間ならあるけど、どうしたの?」


「あなたの瞳について話したいことがあるの。これだけ言えば分かるでしょ?」


それを聞いた俺は、黙って彼女の言うことに従うのが最善だと本能的に悟った。

2人で話し合った結果(柊が全く話にならなかったため、最終的に鈴木が一人で決めた)、鈴木の家に向かうことになった。


(あかん。気付いたら鈴木の家に向かうことになってる。初めての女子の家や。臭くないかな俺。大丈夫だよね。お話するだけだから。)

下心が全くないかといえば嘘になるが、流石にそんなことにはならないだろう。


「す、鈴木の家ってここから近いんだ」


俺の少し前を歩いている彼女に対して勇気を出して話しかけた。


「ええ、そうよ」


「「・・・・」」


くっそ、この程度かよ俺は!全く会話を続けることが出来ない自分に苛まれていたら、とうとう目的地に着いてしまったらしい。


「ここよ。上がって」

「ひゃ、ひゃい!」


そのまま彼女の部屋に通され、座って待ってるように言われた。1人になったことで少し心に余裕ができた俺は、今回の用件についてもう一度考えるのであった。


(彼女が俺の目のことを知っているのは眼科で会った時に見たんだろう。だとしても何故?目の色が変わっていたとしても、一々家に呼んでまで問い詰めることか?ましてや一瞬しか目が合ってないはずだから、勘違いだと思ってもおかしくないはず。)


なぜ俺がこんなことを思ったかというと、今の俺の目の色は黒色・・だからだ。学校で誰かに目を見られた時、自分の本来の力がバレることを恐れた俺は、黒色のカラコンをしているのであった。純粋に目立つことで、晒し者にされるのが嫌なんて事では断じてない。暫くしてから、鈴木が飲み物を持って部屋に戻ってきた。


「あなたに見て欲しいものがあるの。」


俺の正面に座った鈴木が唐突にそう言いながら、指を目の方に持っていき、コンタクトを外し始めた。

そして、コンタクトを外し終えたと思ったら、こちらに顔を向けながら徐々にその目を開いて、こう言った。


「私もあなたと同じ・・なの。」


そう、水色の瞳を携えながら。

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