第36話 家族と書いてカオスと読む家族パーティー(前編)
「……どうぞ」
玄関の扉を開けて二人を招き入れる。ちなみにアンナは武装を解除して、白いワンピース姿だ。
「ただい──」
「どうも、辰巳の父の洋です。いつも息子がお世話になっています」
「母の美佐子です」
「妹の茜ですっ」
親父はなぜか玄関に正座して待っていた。母さんと茜もひょいっとリビングから現れる。三人ともやたら気合の入った服装だ。
「初めまして。一ノ瀬ヒカリと申します。辰巳さんにはいつもお世話になっています。これつまらないものですが……」
「あいあむアンナ。今日からタツミの世話をすることになった。よろしく」
一ノ瀬さんはこんな状況にも動じることなくスラスラと挨拶をして、そんなの持っていかなくていいのにと言ったのに、わざわざ途中で買った手土産を渡す。アンナはまぁ予想の範疇内なので放っておく。
「これはこれは、お気遣いありがとうございます。ささっ、さささささっ、一ノ瀬さん、アンナさん、狭い家ですが、どうぞお上がり下さい」
「「お邪魔します」」
ちなみにアンナのこともラインで説明してあるから家族は驚かない。
「ねー、お兄ちゃん、すごいね。二人とも綺麗でお人形さんみたいだよっ」
「まぁ、一方はお人形さんみたいというかお人形さんなんだけどな」
リビングに入っていく二人を見て、茜がボソっとそんなことを言ってくるのでボソッとそう返す。アンナがチラリと振り返ったが、俺はアンナに屈しない。
「さて、お腹も空いてるでしょうから、まずは乾杯してご飯にしましょ。ほら、タツミー、アカネー、早くこっちきなさーい」
「「はーい」」
うちの広くないリビングに六人も入ると、やはり狭い。そして広くないダイニングテーブルには所狭しと料理が並べてあった。
(これマジで一ノ瀬さんとアンナ来なかったらどうするつもりだったんだろう?)
そう思わせる程の気合の入りぶりと量であった。
「んじゃ、父さんはビールっ」
テーブルの上の飲み物を各自が取っていくスタイルらしい。
「母さんもビールっ」
「茜はオレンジぃ!」
「んじゃ、俺は麦茶で。一ノ瀬さんとアンナは何飲む?」
「では、私も麦茶で」
「私はサラダ油」
………………。
全員が『そういうものなのか?』と首を傾げ俺の方を見てくる。
「……まぁ、本人がそう言ってるならサラダ油でいいんだろ」
「アンナちゃん、ごめんね? サラダ油用意してなくて」
謝る母さん。飲み物として用意してたら逆に引くわ。俺はそんなことを思いながら立ち上がり、サラダ油を探しにキッチンへと向かう。
「ノンノンノン、いっつあオートマタジョーク。別にサラダ油も飲めるけどベトベトするからオレンジジュースがいい」
サラダ油をコップに注ごうとしたらアンナがそんなことを言ってきた。
「お前、ホント独特なハートの強さとギャグセンスだよな」
「それほどでもある。褒めても今はミサイル出せないから、目からレーザー出すね」
「出したらお前マジでアイテムボックス内に突っ込むからな?」
半日しか過ごしていないけど、大体アンナの扱いは慣れた。
「なーに、たっくんカリカリしてるんだよぉ~。アンナちゃんのちょっとしたオートマタギャグじゃんかぁ~」
だが、ここに親父が絡んでくると、また別問題だ。ウザさが二乗されてしまう。
「タツミ、ヒロシを見習え」
「そうだ、そうだ、辰巳よ、もっと父を尊敬するんだっ」
(うわー、思った以上にウザいぞ……)
俺は頭を抱えて、
「はいはい、料理が冷めちゃうから続きは乾杯してからね? では、息子が女の子を初めて、しかも二人も家に連れてきたことにぃー、かんぱーいっ!」
「「「「乾杯っ」」」」
(こいつら……)
「えへへ~、でもヒカリお姉ちゃんもアンナちゃんも可愛いから嬉しいなっ」
茜はずっとニコニコしている。癒し系妹だ。本当にアンナみたいにひねくれずに育ってくれて良かった。
「ん? なに」
「なんでもない」
アンナは春巻きにケチャップをかけて食べているところだった。いや、美味しいけどもね。美味しいけども、こいつ本当に今日生まれたばかりか、と考えたくもなる。
「フフ、茜ちゃんの方こそすごく可愛いですよ。こんな可愛い妹さんがいて辰巳君が羨ましいです」
「ん、アカネは可愛い。私のグループに入れてやる」
「わっ、嬉しいですっ。アンナちゃんもグループ入れてくれてありがとうっ。茜頑張るね!」
(アンナのグループってなんだよ、初耳だし。つーか、茜は何のグループかも分からず頑張るとか言ってるんだろうな)
俺は骨付きチキンを頬張りながら、ツッコんだら負けな不思議ワールドを傍観する。
「ね、ね、母さん、タツミとヒカリちゃんの馴れ初め聞きたいわぁ」
馴れ初めて……。
「茜もー!!」
「アンナもー」
「じゃあ、パパもっ!!」
五十代でこのノリな父親を見させられる息子の気持ちを考えたことがあるのだろうか。いや、ないんだろうな。
「ハァ……。世田谷ダンジョンでパーティー募集していた一ノ瀬さんと少し話して、条件が合いそうだったから組んだ。以上」
間違って一ノ瀬さんが、俺を見た瞬間何かを感じました、とか言った日にはウチの家族がハシャギまくって面倒くさいことになることは間違いないので、代わりに説明する。
「フフ、そうですね。辰巳君を見た瞬間、私、これからこの人と歩んでいくんだなって分かったんです」
「「「「おぉ~~~」」」」
だが、一ノ瀬さんが意外にもエンターテイナーだということを計算には入れていなかった。今のは絶対、ウチの家族を喜ばせるためにわざと言ったものだ。
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