スキル【レベル転生】でダンジョン無双
世界るい
第01話 異世界からの来訪者
『我が名はヴェルドローム、異世界の魔王だ。突然の来訪を許して欲しい。なに、向こうの世界を滅ぼしてしまって暇になってな。そこで早速だが、今日、今この瞬間からこの星の住民には我を愉しませるという重大かつ重要な責務を課すこととする』
これが今から丁度六年前のエイプリルフールの出来事。世界中の空やらPCやらテレビやらスマホやら果ては鏡や水たまりにまで同時配信され、無茶苦茶なことを言った自称異世界の魔王。
最初、世界中の人々はその不思議な現象に興奮をした。皆が空にスマホを向け、その口元には笑みさえあった。
『一つゲームをしようではないか、我はこの地球にダンジョンを作る。そこで貴様らにはステータスを付与する。ダンジョン内のモンスターを倒して強くなり、ラストダンジョンにいる我に挑みに来い。なに、ダンジョン内で貴様らは死にもしないし、ケガをしても治る。そうだな、痛覚も遮断してやろう』
随分なヌルゲーだ。と、それを実況していたユーチューバーやプロゲーマーたちはせせら笑い、若者たちの多くはまるでゲームの世界に転生したようだとガッツポーズをしたものだ。
『だが、それだけだと極少数の酔狂な者しかゲームに参加しないやも知れぬからな。少しだけルールを追加しよう』
だが、ここから続く言葉は何をバカげたことを言ってるのだと白けていた人々や、これに対する政治姿勢をどうしようか考えていた政府に衝撃と怒りをもたらすのに十分であった。
『不定期にモンスターをダンジョンの外へ放つ。そうだな、ダンジョンオーバーとでも名付けよう。ダンジョンの外でモンスターに襲われれば痛みもある。ケガを負うことも死ぬこともあるだろう。否が応でもこれに対応する組織や人材が必要であろうな。そしてその惨劇を取り除きたければ、我を倒すほかない』
高笑いする魔王。それから実際にダンジョン、と言ってもその出入口であるダンジョンゲートを一瞬で世界中に作り、テストと称してゴブリン数体ずつを世界中のゲートから放った。たった十分間のダンジョンオーバーであったが、現代世界の刃物、重火器をモノともせず襲い来るゴブリンに地球人は為すすべもなく、被害は数万人に及んだ。
この瞬間から世界共通の最優先事項は魔王への対策となったのであった。
(当時俺はまだ十一歳。
「おい、
ソファーでゴロゴロと六年前のことを思い返していたら仏頂面の親父にそんなことを言われた。
「……いや、まだ八時だが? てかなんで親父がソワソワしてんだよ」
時計を見ればまだ八時。隣で同じようにゴロゴロしていた妹の茜も時計を見上げて、この親父何言ってんだ? って表情だ。
「いや、だってそりゃおまえぇ~、心配だろ。ダンジョン内ではケガすることや死ぬことはなくとも、廃人になった奴らが沢山いるんだぞ~。お前なんかすぐにピーヒョロヒョロのヒョロヒョロピーになっちまうぞ? な、今からでも遅くない、退学しよ、な? な?」
急に態度を豹変させ、しな垂れかかってくる親父。今からでも遅くない、どころか早すぎる。入学式の前の日に退学するなんて聞いたことが……ない、わけでもないが、当然俺にそんなつもりはない。
「暑苦しいっ! はーなれろっ! ……ハァ、親父、分かってるだろ?」
「む……。辰巳、お前の覚悟は本物なのか? 本当にダンジョンモーラーになるつもりなのか? 本気の本気で明日からダンジョンに潜る人たちのこと、通称ダンジョンモーラーになるための専門学校に通うと言うのか!?」
「いや、なんで説明口調なんだよ……。覚悟はしてるつもりだし、本当になるつもりだし、通うと言うよ。でも別に世界ランカーになりたいだの言うつもりはないし、家族に心配かけるような無茶はしないつもりだ」
俺は何度も繰り返してきた言葉を返す。
「うっ、うっ、辰巳君の分からず屋っ、パパ本当に心配してるんだからねっ!」
「…………」
まぁ、心配してくれてるのは本当だろうし、俺が緊張しないように和ませてくれてるんだろう、多分。それに俺も人のことは言えない。なぜなら──。
「茜も十八歳になったらダンジョンに潜るー!!」
「「絶対ダメだ」」
茜がこう言い出すと、親父と一緒になって止めるのだから。
「あら、仲良しね」
洗い物をしていた母さんがむず痒いことを言ってくる。俺と親父は一瞬、顔を見合わせすぐにそっぽを向くのであった。
◇
さて朝だ。四月二日。快晴。目黒区にある自宅から電車を使って三十分。大森にある学校へと向かう。今やダンジョンモーラーになるための専門学校は全国に何百か所とあり、都内だけでも二十はある。
「うし」
電車を降り、歩いて五分程。見学や試験を受けるために何度か訪れているので迷うこともない。
「入学おめでとうございます」
「ありがとうございます」
正門の前で受付を済ます。受け取った案内に書いてある通りに講堂の方へと進む。
「えぇと、番号は一番、と」
入学式の座席は番号で指定されており、受付で渡された番号はなんと一だ。別に親父に早く寝ろと言われて無駄に早寝早起きして一番乗りしたわけではない。そこそこ席は埋まっている。四十人×四クラスで二年制の学校であるからそんなに人が多いということもないが。
それにどうやら在校生、つまり二年の出席は義務ではないようでチラホラと進行の手伝いをしている者がいるくらいだ。
(一番前か、落ち着かないな。で、隣は誰が来るんだよ……)
座席番号一ということは、予想通り最前列だ。だが、それ以上に隣に作られた一つだけピョコンと飛び出してる番号のない席が気になる。
(間違ってもお偉いさんとか座らないよな?)
そんなことを考えてややげんなりする。式が始まるまではもう少し時間があるため、式の進行表でも見て時間を潰すことにした。それから何往復か文字を追っていたら隣の椅子が引かれた。
「どもっ」
「あ、どうも」
どうやらお偉いさんではなさそうだ。そこに現れたのは垢抜けてる爽やかなイケメン君。人当たりが良さそうだし、コミュ力も高そうだ。第一印象で人気者なんだろうなということを察する。
「あ、俺
「あ、あぁ、俺は
三枝陽太はニッと屈託なく笑いながら手を差し出してきた。ので、軽く握り返して名前を返す。
「へぇ、シドウタツミ。めっちゃカッコいいし、強そうじゃん。どんな字書くん?」
「え、あぁ、ありがとう。ライオンの獅子の獅に、堂本剛の堂、辰巳は、ね、うし、とらの辰巳。そっちは?」
「ふむふむ……。漢字だと迫力が増すね。俺は三本の枝に太陽の陽と太だ。簡単だろ?」
太陽の陽と太。なんというか名前負けしていない良い例だなと思った。
「では、これより第四期生の入学式を執り行います」
「っと」
三枝は輪を乱すタイプではないようで、式が始まると会話を打ち切り、ピッと姿勢を正して前を向く。俺も同じように姿勢を正した。式の進行は驚くところもなく、ダンジョンモーラーの学校と言えど、常識的なそれだ。只、唯一驚いたのは──。
「新入生代表挨拶。新入生代表、三枝陽太」
「はい」
三枝が首席だったことだ。まぁ、考えてみれば一つだけ外れた席なのは挨拶の時に出やすいように、ということだろう。
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