第27話 タラオ
三層へとやってきた。ここからは一切気を抜くことができない。
「三層へ来ましたね、一ノ瀬さん」
「そう、だね」
俺と一ノ瀬さんの顔には緊張が浮かんでいる。
──ワォオオオオオン。
「今のは……」
「えぇ、デスウルフ……だよね」
デスウルフは匂いにとても敏感だと聞く。恐らく俺たちの匂いに気付き遠吠えを上げたのだろう。となれば──。
「来るっ、です!」
「は、うんっ!」
ザッザッザという土の上を飛ぶ音とともに、デスウルフが三匹現れた。遠吠えが聞こえたのはかなり遠くの方に感じたため、それを聞いて駆け付けた手下と言ったとこだろう。
──ガルルルゥゥ。
大型犬程のサイズの三匹は陣形を作るかのように展開し、低い唸り声をあげながら俺たちの周りをゆっくりと回り始める。まるで値踏みをしているようだ。
「時間を掛ければ、掛けるだけ応援がやってくるです。先手必勝、こっちから行こうです」
「……分かったよ。でも、さっきから辰巳君タラちゃんみたいだよ?」
「「…………」」
──ガルルルルルルゥ。
「行くです!」
タンッ、タンッ、タンッ。俺は火焔単筒で三匹ともに牽制、と言っても当然当てるつもりで撃ったが、デスウルフは思った以上に素早く、そして跳躍力が凄まじい。ジクザクと横跳びを繰り返しながら、三方向からこちらに迫ってくる。
「ハァァァァア!!」
一ノ瀬さんの全力の横薙ぎ、当たればただで済まないことはその迫力から分かったのだろう。デスウルフたちは一瞬、慄き、距離を離す。
「恐らく私の攻撃は当たらないよ」
「そうだなです。ここもさっきまでと同様に俺のこの火焔単筒で火傷状態にしていって一匹ずつ仕留めることにしようです」
「…………ねぇ、辰巳君? まさか『です』をつければ全部敬語になるなんて思ってないよね?」
──ガルルルルルゥ。
「…………撃つですっ!」
なんかデスウルフにまで責められている気がした。俺は怒りの三点バーストを撃ち込む。
「キャウンッ」
初弾がヒットし、デスウルフが甲高い声を上げる。だが、すぐに態勢を立て直し、こちらを睨んでくる。
「まったくもってハードだなです」
「……もうそれで貫く気なんだね」
それから十五分ほどだろうか、
「チッ、ほら、もっとかかってこいです!」
俺たちは攻めあぐねていた。
「こいつら、さっきから全然攻撃してこないから隙が掴めないです」
「……そうだね、まるで時間稼ぎをするような」
連携を取り、一匹がやられそうになると、他の二匹がカバーに入り、一ノ瀬さんの言う通り粘って時間を稼ぐような印象だ。
「……ん?」
と、思っていたら三匹が散り散りに逃げ出した。
「……逃げた? です?」
「そうみたいだね。あと、辰巳君、もう負けを認めよ?」
「なんでだろう? です。ま、何はともあれ転送門を探すですぅ」
無理。敬語を頭で考えてる間に言葉は半分以上出ちゃってるんだから、語尾にですをつけるっていうルールにでもしとかないと間に合わない。というか、まぁ俺自身これを敬語だと言い張るのは無理があると分かっているので、開き直ってタラちゃんになってふざけているだけだ。
「……っと、さて、一ノ瀬さん。勝負は俺の負けでいいよ」
「……なんで、負けたのに偉そうなんですか?」
一ノ瀬さんはジト目で俺を睨んでくる。
「ッフ」
負けたけど、勝ち誇っておく。それが俺にできる最大限の抵抗だ。
ザッ。
「……さて、こっからは遊んでる余裕はなさそうだ」
「どうやらそのようですね」
ザッ、ザッ。堂々とした佇まいのデスウルフがゆらりと現れた。その大きさと威圧感たるや、先ほどまでのデスウルフがトイプードルに見える程の化け物だ。某ジブリ作品に出てきた山犬を闇堕ちさせたようなモンスターだ。
「【デスウルフ:ウォード】どうやらネームドモンスターのようだ」
「ネームドモンスター……、これが」
極まれに発生する名前がついているモンスター。当然、名前なしの敵と比べると何倍も強い。そして、ネームドモンスターは、そのダンジョンのボスより強いことが
「面白いことにこいつはLUKが高くないと遭遇できない。俺一人の時はネームドモンスターなんて見たことなかったから流石は一ノ瀬さんだね」
「……嬉しくないですね」
「そんなことないさ。こいつを倒せば、レア装備以上のドロップは確定だ」
「なるほど。では狼の着ぐるみ一式を所望するとしましょう」
「お、おう……。念のために聞いておくけど、それ──」
ズビシッ。
誰が装備するの、と聞く前に指をさされた。
──ッフン。
そんな会話をしていたら、ウォードがまるで、
「だな。倒した後のことは倒してから考えるとしますか」
「えぇ、このワンちゃんには申し訳ないですが、倒させてもらいます」
──ウォフッ!!
遥か高みから見下ろすその視線は“できるものならやってみろ人間”と言わんばかりだ。
「「行くぞ(行きますっ)」」
俺と一ノ瀬さんは臨戦態勢を取る。ウォードも低くその身をかがめ、こちらへ飛び掛らんとばかりに足に力を溜めた。
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