第28話 【赫き者】
タンッ、タンッ、タンッ。飛び掛ってくるウォードに対し、まずはいつものように牽制がてら火焔単筒を何発か撃ち込む。
「……なっ」
避けられることを予想し、左右への軌道を予測しながらあえて散らして撃ったのだが、そのどれもが命中する。つまり、ウォードはこんなハンドガンの弾などなんの脅威ではないとばかりに真っすぐ突っ込んできたのだ。
「ハァァァッァ!! ック!!」
その巨大な前足と大きな口で襲い掛かってきたウォードの突進を一ノ瀬さんが弾き返す。
「辰巳君、相手はモンスターです! ダメージを入れ続ければいずれ倒せます! 撃ち続けて下さいっ!」
「……あぁ、そうだな」
火焔単筒のあまりの手応えのなさに心が折れかけたが、そういえば俺はつい一昨日までボスを倒すまで何百発と銃弾や斬撃を繰り返してきたじゃないか。なら、簡単だ、同じことを
「……【弄ぶ者】になるとしようか。一ノ瀬さん、すまない。俺の命、預けた」
「はい、確かにっ!」
それから俺は一ノ瀬さんの背に張り付き、火焔単筒を連射しまくる。ウォードは一撃でもその大きな牙が届けば、食い殺せると思ってるためか、やはり俺の攻撃を避ける気配はない。
<【弄ぶ者】の特殊効果レベル1が発動されました>
百発。俺の身体が白いオーラに包まれる。ただ、ひたすら攻撃に集中し、限界まで早く、その
<【弄ぶ者】の特殊効果レベル2が発動されました>
三百発。俺の身体が青いオーラに包まれる。
「クッ。私はそんな程度じゃ倒れませんよっ!! ハァァァアアッッ!!」
一ノ瀬さんのHPは徐々に削られているだろう。スキル【不動】の効果でのけぞりやノックバックの衝撃を緩和しているとは言え、あの巨体の猛攻を防ぐのはいずれ限界が来る。
<【弄ぶ者】の特殊効果レベル3が発動されました>
恐らく五百発。俺の身体が緑のオーラに包まれた。
──ウァフッ!!
銃弾の威力が上がってきたためか、被弾を嫌うようになってきた。俺を攻撃しようとする意志を見せてくるが、俺は回避、防御の一切を放棄したまま、その命を一ノ瀬さんに託す。今すべきことはコイツを倒すために引き金を引き続けることだ。
そして──。
「キャッ」
小さいな悲鳴とともについに捌ききれなくなった一ノ瀬さんが吹き飛ばされる。ウォードは今までのストレスから解放されたかのようにニタリと大きく笑うと、一ノ瀬さんの頭を目掛けて、大口を開ける──。
<【弄ぶ者】の特殊効果レベル4が発動されました>
<【赫き者】の特殊効果が発動されました>
その大口を開けたところに銃弾を撃ち込んだ瞬間、俺の身体は赤いオーラに包まれ、視界は真っ赤に染まる。
──!?
ウォードは何かを察知したのか、一ノ瀬さんから注意を逸らし、俺へと最大限の敵意を向けた。
「待たせたな。ここからはタイマンと行こうぜ、大将」
──ウォォオオオオオ!!
雄叫びを上げながら飛び掛ってくるウォード。俺の頭は冷静なままでウォードの動き、景色がやけにスローモーションに見える。俺は紙一重でその前足と
──ウガァァゥッ!!
致命傷──とまではいかないが、明らかなダメージだ。腹部から大量の出血が見られる。だが、どうやら皮膚が厚いようで内臓にまでは達することはできなかったようだ。
タンッ、タンッ。
──キャウッ。
休息して回復しようとしたのだろうか、こちらを睨んで警戒し、距離を詰めてこないウォードに二発銃弾を撃ち込む。それだけで長い犬歯は左右二本とも折れて砕けた。
「弾速、貫通力、連射力、すべてが
──ウォオォオオオオッッ!!
そしてウォードが、怒りと恐れが混ざったような声で遠吠えをすると、
ザッ、ザッ、ザッ。
十匹以上のデスウルフが現れる。
──ウォフッ!!
そしてウォードの号令で一斉に飛び掛ってくる。
「遅い」
右手の短剣で首を掻き切り、左手の銃で眉間を打ち抜く。それを幾たびか繰り返すだけで──。
「残るはお前だけだ。おっと逃がしはしないぜ?」
デスウルフの群れは粒子となって消え去る。
──ウゥゥゥ。
予定と違う。まるでそう言わんばかりに低く唸りながら後ずさるウォード。
「こっちから行くぞ」
──!?
ウォードの飛び掛りより速いであろう速度で距離を詰め、その前足を蹴り上がり、頭の上に跨る。呆気に取られ、天を見上げるウォードに対し、俺は一切の躊躇もなく、その脳天へ弾丸を撃ち込む。
ズゥゥウウン。
巨体がゆらりと倒れ、沈む。
<【赫き者】が解除されました>
「……ふぅ」
【赫き者】が解除された途端、ドッと疲れが押し寄せてきて、その場に座り込んでしまった。吹き飛ばされた一ノ瀬さんの方を見ると、一ノ瀬さんはリスポーンされておらず、こちらに駆け寄ってくるのが見える。一安心だ。
「辰巳君、大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとかギリギリって感じ」
心配そうな顔をする一ノ瀬さんに苦笑いしながらそう返す。実際ギリギリだった。【赫き者】が発動しなければ一ノ瀬さんが吹き飛んだ時点で積んでいたところだ。
「さっきのは何だったんです?」
「うーん、分から──」
<【弄ぶ者】特殊効果レベル4【赫き者】にてボスモンスターを討伐。称号【弄ぶ者】が【赫き者】に進化しました>
……ない、と思ったらまるで図ったようなタイミングで天の声がそんなアナウンスを入れてくる。
「……なんか、称号の効果が進化したのが今の技? みたい」
「……?」
一ノ瀬さんは訳が分からないと言った表情だ。ちなみに俺も言ってて訳が分からなかった。なので、スキルボードを開き、確認することとした。
【赫き者】被弾をせず、攻撃をヒットさせていくと全ステータス及び知覚神経に倍率ボーナス。戦闘後リセット。
……なるほど。
「どうですか、分かりましたか?」
「うん。これきっと界〇拳だ」
赤くなる感じとかまんまそれだし。このまま行くと金色のオーラをまとって金髪になるかも知れない。……似合わねぇ。
「……カイオウケ〇? それはなんでしょう?」
残念ながら一ノ瀬さんはドラゴンボ〇ルを読んでいなかったようだ。ちなみにウチは親父の部屋に新装版が全巻ある。
「えと、発動条件を満たすと全能力が何倍にもなるバフスキルみたいなものかな。普通なら急にステータスが何倍になったところで制御できないんだけど、この称号スキルは知覚神経までボーナスが掛かるから、さっきみたいにいきなり素早い攻防が可能になるんだろうね」
「……すごく強くないですか?」
「まぁ、発動条件が最低でも被弾せず百回連続ヒットとかさせないといけないから使いどころは難しいけどね。一ノ瀬さんみたいに一撃ドーンで倒せる火力があるならそれに越したことはないと思うよ」
俺は苦笑いする。これはつまり、百回攻撃しても千回攻撃してもボスを倒すことができない俺のステータスの低さがあって初めて成り立つスキルだからだ。
「なるほど、ちょっと私には使いこなせそうにないので、戦闘センスがある辰巳君にピッタリなスキルってことですね。なら私はさっきみたいに辰巳君の盾となり、全力で守ります」
やめろ、その言葉はカッコよすぎる。俺はバレないように心の中でちょっぴり泣いた。
「ありがとう、でも確かに一ノ瀬さんが守ってくれたおかげで【赫き者】を発動させることができて倒せたわけだから、一ノ瀬さんの頑張りの勝利だな」
「いえ違いますよ。二人だから勝てたんです」
俺はそれを聞いて苦笑する。こんなにも真っすぐな笑顔でそう言い切る一ノ瀬さんには、勝てないなと改めて思ったからだ。
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