第25話 デスポンポコ
「よし、装備完了」
ダンジョンに降り立ったら、まずは装備だ。ステータスボードを開き、装備タブのプリセット1を選ぶ。かゆいところに手が届くシステムだ。この魔王システムを一人で改良し、アップデートし続けてくれているのが、魔王に攫われた日本人──通称ポッターさんだ。彼は魔王の内側から魔王と戦っているまごうことなき英雄である。
(ポッターさん、ありがとうございます)
「? 辰巳さん、どうしたんです?」
同じようにプリセット装備で一瞬にして昨日と同じダンジョン装備となった一ノ瀬さんは怪訝そうな表情でこちらを見ている。
「いや、この機能とかさ、俺たちがダンジョン攻略しやすいように魔王システムを改良し続けてくれてるポッターさんに感謝してた」
「フフ。なるほど。辰巳君は
「あー、一ノ瀬さんは……」
「一緒ですよ」
ホッとする。というのもポッターさんは、人類を裏切り、魔王に与する大逆賊だという派閥も一定数はいるのだ。
「良かった。さて、じゃあポッターさんを元の家に返してあげるためにも頑張りますか」
「フフ、はいっ、頑張りましょう」
こうして俺たちは目の前の鬱蒼とした木々、土の道、ところどころ勾配のある、まるで現実の山と見紛うダンジョンの攻略を開始した。
「来ましたっ。デスポンポコ三匹ですっ」
「了解っ」
タンッ、タンッ、タンッ。
デスポンポコ──普通サイズのたぬき型モンスターだが、紫のオーラをまとっており、本来眼がある部分は黒く落ち窪んでいる。爪と牙は異常に長く、好戦的なので全然可愛くない。可愛いのは名前だけだ。
俺はそんなデンポンポコに火焔単筒で銃弾を撃ち込み続けるが、その命中率はおよそ六割程。
「チッ、すばしっこい!」
「ハァァァアッッ!!」
ガキンッ。
一ノ瀬さんの神剣は空を切り、岩にぶつかる。こいつらくらいなら一撃当たれば倒せるのだが、如何せんモーションが大きいため、すばしっこい敵とは相性が悪そうだ。
「くっそ」
俺は俺で装備とスキルの恩恵で多少ステータスは上がっているが、E3ダンジョンの敵には十分にダメージを与えることはできないし、恐らくあの爪や牙が当たれば数発、下手したら一撃死すらありえるため、慎重にならざるを得ない。
「一ノ瀬さん、こいつらとは相性が悪いっ、次の階層を目指そう!」
「はいっ」
俺たちは逃げた。しかし、デスポンポコに回り込まれた。
「マジかよ……」
回り込んだ先にはデスポンポコが更に二体増えていた。
「やりましょう……。私が盾になりますっ、辰巳君は私の後ろから銃で攻撃し続けて下さいっ」
「……了解だ」
一ノ瀬さんは神剣を横薙ぎし、デスポンポコたちを牽制する。俺はその後ろからチクチクと銃を撃ち続け──。
「火傷状態だっ」
「行きますっ! ハァッッ!!」
火焔単筒での銃撃は一定確率で火傷状態となり、火傷状態となったデスポンポコは苦しそうに地面を転がる。その隙をついて一ノ瀬さんが両断する。
残りは四体。
「さて、集中力の見せ所ってやつだな」
「……辰巳君は私が守ります」
男としては守ってあげる側になりたいのが本音だが、お互いの戦闘スタイルがある以上、これが正しい戦い方だろう。
そして一時間後──。
「勝った、か……」
「……ハァ、ハァ、えぇ。ここらへんのデスポンポコは全滅させられたかと」
デスポンポコは倒してもまた仲間がやってきて、倒してもまた仲間がやってきて、と、結局何十匹も倒すことになった。まぁ、そのおかげで──。
「一ノ瀬さんレベルいくつになった?」
「23ですね。辰巳君は?」
「俺は58に上がったよ」
二人とも結構レベルが上がった。契約者スキルの効果で一ノ瀬さんのステータスが上がった分、俺のステータスも少しずつ上がっていくため、後半は割と楽に戦えた。
「さて、アイテム回収しようか」
「はい」
基本的には、一ノ瀬さんがトドメをさしているため、宝箱のドロップ率や色は良い。緑箱もチラホラ落ちている。
「おっ、装備品だ。【ポンポコフード】……頭装備か。一ノ瀬さん装備する?」
「いえ、私は神剣のステータスが高いので、基本的には辰巳君が装備優先でいいですよ」
「了解。じゃあお言葉に甘えて。装備【ポンポコフード】」
俺自身は自分の頭は見えないが、ステータスボードの装備は変わっているので、装備できているのだろう。
カランっ。
「ん? どうしたの、一ノ瀬さん?」
神剣を落とした音でそちらを向くと、一ノ瀬さんは両手を口元に当て、目を丸くし、わなわなと震えているではないか。
「か……」
「か?」
「カワイイですっ! しゃ、写真撮っていいですかっ!?」
「え……。えぇー……。え……、えぇ、まぁ」
【アイテムボックス(仮)】はダンジョン産の素材や装備、アイテムしか出し入れできないが、【アイテムボックスLv1】はダンジョン産以外の物も収納できるため、一ノ瀬さんはそこから仕舞ってあったスマホを取り出し、既に俺へと向けている。
「ふぅー。デスポンポコはまったく可愛くなかったのに、フードになると可愛らしくなるなんて……、頑張って倒した甲斐がありますねっ。辰巳君、とても良く似合ってますよっ」
フンスッと一ノ瀬さんは興奮した様子で親指を立ててくる。
「……ありがとう」
ちっとも嬉しくなかった。
「そんな可愛くて気に入ったなら一ノ瀬さん装備する?」
「いえいえいえっ、自分で装備したら見えなくなっちゃいますからっ!」
「ま、まぁ確かに? じゃあこのまま先に進もうか」
なんだか拘りが凄そうなので、俺はそれ以上の問答は止めて、先へ進もうとした。が、しかし──。
「……何してるんですかね?」
「あ、いえ、その、お耳がフサフサなのかなぁ、やわやわなのかなぁ、と」
一ノ瀬さんに後ろから頭をさわさわと触られてるのが気になってしょうがない。
「あっ、転送門。よーい、ドン」
「あっ、辰巳君っ、待って下さい!」
幸い、すぐに二層目への転送門を見つけることができたため、俺は一ノ瀬さんから逃げ出すようにそこへ向かった。
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